6月26日 MECP2研究の新時代が来た(6月25日 Science 掲載論文)
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6月26日 MECP2研究の新時代が来た(6月25日 Science 掲載論文)

2021年6月26日
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レット症候群やMECP2重複症の原因遺伝子MECP2については、これまでも特に重点的に論文を紹介してきた。ただ、ゲノム状に散らばるメチル化DNAに結合するタンパク質が、ある意味で特異的な症状を誘導できるメカニズムについては、ほとんど表面的にしか理解できなかった。

ところが今日紹介するフランス ストラスブール大学およびグルノーブル大学から、昨日発行のScienceに掲載された論文を読んで、明らかにこの分野に新時代が訪れ、新しい発想でMECP2の遺伝子変異による病気のメカニズムが解明されるという大きな期待を抱いた。タイトルは「MeCP2 is a microsatellite binding protein that protects CA repeats from nucleosome invasion(MECP2はマイクロサテライト結合タンパク質でCAリピートがヌクレオソームに侵入されるのを守っている)」だ。

メチル化DNAに結合して遺伝子発現に関わると聞くと、どうしてもメチル化したCpG(CG)リピートに結合すると思ってしまうが、それ以外のシトシンもメチル化される。この研究では、MeCP2がCGではなく、マイクロサテライトに見られるCAリピートと結合するのではと仮説を立て、CAリピートが7回つながったDNAに結合するタンパク質を精製する生化学的手法を用いて、MECP2がCAリピート中のメチル化されたCA、特にhydroxymethyl-CAに高い親和性を持っていることを明らかにしている。また、このメチル化にはCGメチル化にも関わるDNMT3が関わっていることも明らかにしている。

さらに、MECP2とCAリピートの構造解析を行い、hydrooxymethyl-Cと結合するMECP2中のアミノ酸を特定し、レット症候群の変異がこの部位に集中する理由も明らかにしている。

この様にMECP2が結合する分子を明らかにした上で、様々な方法で分子機能を解析している。この部分は、まさにプロの研究で、専門でないと理解しづらいと思うが、1)MECP2結合領域の特徴についての解析、2)MECP2が強く関与する脳神経細胞の遺伝子解析、3)そしてMECP2結合サイトと染色体の高次構造との関係の解析、4)MECP2ノックアウト細胞での染色体構造の変化の解析、などを組み合わせた膨大な結果が示されている。

この詳細を省くと結論は簡単で、MECP2はCAリピート中のメチル化シトシン、特にhydoroxymethl-シトシンと結合し、CAリピートが存在するマイクロサテライトがヒストンと結合してヌクレオゾームに包まれる過程を抑制していることが示された。

もともと、CAリピートを持つマイクロサテライトは、ヌクレオソームに包まれる過程に抵抗性があることが知られていたが、まさにこの過程にMECP2が関わるという結論だ。このクロマチンレベルの変化により生じる異常については、議論はされているが、今後の問題になるだろう。しかし、レット症候群やMECP2重複症について、もう一度新しい視点で見直すことが必至となった。個人的感想でしかないが、新しい時代が来たことを告げる論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ