6月14日 脳脊髄中の髄膜白血球は血管を通らず直接隣接する骨髄から移動する (6月3日 Science オンライン掲載論文)
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6月14日 脳脊髄中の髄膜白血球は血管を通らず直接隣接する骨髄から移動する (6月3日 Science オンライン掲載論文)

2021年6月14日
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「常識は破られるためにある」などとうそぶけるのは、破れたことがわかった後のことで、実際には、常識に照らして何かおかしいと感じる感性を突き詰めることができる人だけが、この言葉を語る資格がある。

今日紹介するマインツ大学からの論文は、組織中の白血球は必ずしも血管を通って移動してくるとは限らないこと、具体的には脳脊髄の髄膜に存在する白血球は、近接する骨髄から直接に開いている管を通って移動してくるという驚くべき発見で、6月3日Scienceにオンライン掲載された。タイトルは「Skull and vertebral bone marrow are myeloid cell reservoirs for the meninges and CNS parenchyma (頭蓋と脊椎の骨髄は髄膜と中枢神経実質中の骨髄球を直接供給する)」だ。

実際には常識には徐々に疑問が投げかけられるもので、米国やドイツの研究室から、頭蓋骨髄から脳へのチャンネルが存在し、炎症やガンなどの状況でこのチャンネルが機能して、血球のリクルートメントや、ガンの転移が起こる可能性が示唆されていた。

ただ、これまでは異常な状況での特殊なルートとして考えられてきたが、この研究では定常状態で骨髄から脳への直接ルートがどの程度使われているのか調べる目的で、蛍光標識されたマウスと普通のマウスの血管を吻合して30日間、血管を通る細胞を完全に一体化する方法を用いて、組織中の白血球が置き換わった率を調べている。もし全てが血管ルートを通るとすると、蛍光細胞と非蛍光細胞の比率は50/50になる。

実際、30日経つと末梢血だけでなく、多くの組織で比率は50/50になるが、脳及び脊髄の髄膜や硬膜の顆粒球はほとんど置き換わらないことを発見している。すなわち、血管を通る髄膜への顆粒球の移動はほとんどないという、驚くべき結果になった。

あとは、本当に血管を通らず、直接頭蓋や脊椎の骨髄から髄膜へ移動していることを確認する実験をこれでもかこれでもかと、繰り返し、

  • 頭蓋骨髄のCXCR4ケモカインシグナルを抑制すると、近接する脳髄膜への顆粒球の移動が促進されるが、他の組織には影響がない。
  • 蛍光分子を発現するマウス頭蓋骨を移植すると、移植後30日後でも近接する脳髄膜には標識か琉球が認められる。
  • 放射線照射で骨髄造血を抑制する実験で、一部の骨を放射線からシールドすることで、限られた場所からだけ血液が供給される実験系を用いると、頭をのぞいて全身の骨をシールドした場合は、脳髄膜にはほとんど顆粒球がリクルートされないが、逆に頭の骨をシールドした場合は、ほとんど正常のリクルートが見られる。

など、創意に溢れる実験で、脳脊髄髄膜の顆粒球は、骨髄から脳へのチャンネルを通る細胞移動で起こることを示している。

さらに、移動してきた細胞のsingle cell RNA解析などから、この移動にCCR1ケモカイン受容体を刺激するケモカインが関わることも示している。

最後に多発性硬化症モデルや、脊髄損傷モデルで、神経系が障害されたとき、まず近接骨髄から白血球がリクルートされ、脳血管関門に邪魔されることなく迅速な細胞移動が可能になっており、血管を通る移動はその後起こることを示している。

重要な結果は以上で、定常状態でも、脳髄膜、さらに脳実質への顆粒球リクルートメントが、近接骨髄から直接行われることが証明されたのではと思う。もちろん多くの研究室で追試されることが必要だが、いったん非常識が常識になると、例えば脳内のリンパ管の存在の時と同じ様に、今度はその意義を巡って多くの研究が進むだろう。これにより、脳内の炎症と他の組織の炎症の違いなどの理解が進むことを期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ