6月29日 自己と他を区別する脳回路の操作(7月21日号 Neuron 掲載論文)
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6月29日 自己と他を区別する脳回路の操作(7月21日号 Neuron 掲載論文)

2021年6月29日
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通信や交通技術の進展で、個人にとって「他」の領域が急速に拡大した。例えば小さな集団で暮らしていたときは、協力するにも、競争するにも、数人の「他」に向き合うだけでよかった。しかし、今や自分自身と関わりのある「他」の数と多様性は想像を絶する。その結果か、現在はなるべく目立たないで、他人と同じ方がいいと考える同調社会化が進んでいるようだ。

今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、自分の評価と、他人の評価が影響し合う時の脳回路での左背内側前頭前野の役割を、人間の脳を頭蓋外から刺激する方法で調べた研究で7月21日号のNeuronに掲載予定だ。タイトルは「Causal manipulation of self-other mergence in the dorsomedial prefrontal cortex(左背内側前頭前野での自己と他の結合操作)」

この研究では、自分の成績と、他人の成績を評価する時、社会的コンテクストが入ってくると評価が変化する脳回路を研究している。わかりやすくいうと、例えば競争している時、自分の点数がいいと、他人の評価はより低く見積もってしまうが、逆に協力し合っているときは、同じパーフォーマンスでも、他人の評価を高く見積もる傾向がある。

この、自己・他人結合現象(Self-other mergence:SOM)に、左背内側前頭前野(dmPFC)が関わることが以前から知られていたようで、この研究では最初からSOMとdmPFC活動との因果関係を調べることに焦点を絞っている。

実験では、他人と一緒に同じミニゲームを繰り返し行ってもらい、ゲームの終わるたびに自分と他人の結果を15点評価でフィードバックしてもらって、それぞれの成績を頭に入れる。その上で、自分のパーフォーマンスと、他人のパーフォーマンスを評価するのだが、この時他と競争している状況では、期待どおり、自分の評価が高いと、他人の評価を低めに見積もる。一方、協力作業の場合は、他人の評価を高めに見積もる、すなわち頼ろうとする傾向が出る。要するに、社会的状況によって、自分と他人の区別が混乱することになる。(実際には個人差が大きく私には理解し難いところもあるが、言われてみると納得すると言った感じだ)。

詳細は省くが、このSOM課題を行なっているときに活動する脳の領域を特定しており、これまで社会性に関わることがわかっている領域が、自分と他人を比べるときに活性化される。ところが、被験者のdmPFCに50Hzのθ波を照射してこの領域の活動を抑えると、社会性に関わるネットワークの活動が低下する。これと同時に、他人の評価が自分の評価により影響されるようになり、SOM行動が高まる。

少しわかりにくかったかもしれないが、要するにdmPFCは自分と他人を正確に評価して、自己と他の区別を維持できるように働いているが、この領域の活動が低下すると、これが犯され、自分と他の区別がボケて、他人の評価が狂ってくるという話になる。

これまで論文を読んだことがなかった分野だが、人間で、このレベルの行動、脳活動記録、そして脳操作の研究が着々と進んでいることに感心した。現在、同調社会化が進み、自己主張が無くなっていると言われているが、dmPFCを刺激して、これがどう変化するのか是非知りたいと思った。

カテゴリ:論文ウォッチ