6月6日 胎児も決して無菌ではない:表と裏からの検証(6月24日号 Cell 掲載予定論文)
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6月6日 胎児も決して無菌ではない:表と裏からの検証(6月24日号 Cell 掲載予定論文)

2021年6月6日
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胎児へのウイルス侵入は防げない場合が多いとはいえ、細菌に関しては、少なくとも医学部では、胎児は原則無菌状態で保たれていると教えていると思う。ただこれまで何度も何度も、よく調べれば少量とはいえ細菌が存在すること、あるいは胎盤を通して細菌が胎児に侵入することを示唆する論文は数多く出版されている。とはいえ、結局量の問題で、ほとんど意味のない現象として扱われてきたと思う。

これに対して今日紹介するシンガポールA*Starや英国ケンブリッジ大学を中心とする国際チームからの論文は、細菌の存在とともに、それに対する免疫反応の存在を示し、確実に胎児中の細菌が免疫システムに何らかの影響を及ぼしていることを示した研究で、6月24日号のCellに掲載される。タイトルは「Microbial exposure during early human development primes fetal immune cells(人間の初期発生過程での細菌への暴露は胎児免疫システムを感作する)」だ。

研究は、胎児に細菌が存在し、それ自身意味があることを検証するため、あらゆることを行なっている。

まず妊娠12-22週胎児の様々な臓器から血液細胞を回収し、CytoFと呼ばれる技術を用いて、存在する血液集団を解析し、大人に見られるほとんどのリンパ球が、胸腺やリンパ節だけでなく、末梢の組織にも存在すること、そして何より抗原に出会った経験のあるメモリー細胞が一定程度存在することを明らかにしている。すなわち、胎児の免疫系は何らかの刺激を持続的に受けていることを示した。

この刺激の元が細菌であることを示すために、様々な組織で16S解析を行い、量的には少ないとはいえ、組織ごとに違った細菌叢が存在することを確認する。

これまでの細菌検査はほとんどDNA解析に頼っていたが、この研究ではさらに進んで、各組織から細菌培養を行い、増殖してきた細菌の種類も特定している。さらに、胎児組織の走査電顕および、in situハイブリダイゼーションを用いて、組織学的にも細菌が存在することを確認している。

そして、この表と裏のデータを統合するため、組織から集めてきた樹状細胞に、高い頻度で存在している細菌を取り込ませ、同じ胎児から調整したT細胞を刺激し、細菌に対する免疫反応が起こること、また免疫記憶が成立することを示している。

以上が結果で、要するに表裏徹底的に実験を行い、胎児は無菌的ではなく、おそらく胎盤を通ってきた細菌が各組織で小さな細菌叢を形成し、胎児の免疫を刺激していることを示している。これが生涯にわたってどんな効果を及ぼすのか、面白い課題だが、さらに実験が難しい課題だ。

カテゴリ:論文ウォッチ