6月11日 老化細胞を処理することでウイルス感染抵抗性が得られる(6月8日 Science オンライン掲載論文)
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6月11日 老化細胞を処理することでウイルス感染抵抗性が得られる(6月8日 Science オンライン掲載論文)

2021年6月11日
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新型コロナ重症化リスクの最大の要因は老化で、昨日までの死者の数を見ると、まずほとんどが60歳以上で、60歳以下の死者は全体の5%に満たない。厚労省のデータだが、10代では今も死者0になっている。

この差を単純に免疫システムの違いで片付けることは難しく、また重症化から死亡に至る過程にサイトカインストームや線維化があることを考えると、当然、老化細胞の増加による慢性炎症が高齢者の死亡の背景にあるのではないかと想像できる。ただ、covid-19とsenolyticsで検索をかけても、数えるぐらいの論文がヒットするだけだった。

そこにミネソタ大学とメイヨークリニックから、動物実験レベルだがsenolyticsにより、マウスコロナウイルスに対する抵抗性を高めるという論文が6月8日Scienceにオンライン出版された。タイトルは「Senolytics reduce coronavirus-related mortality in old mice(老化細胞を除去するsenolyticsは老化マウスのコロナウイルス関連死を減少させる)」だ。

読んでみると、そのままCovid-19に適用するためにはいろいろ問題がある論文で、紹介しようかどうか迷ったが、一度は検討する価値がある可能性なので、判断は読者に委ねるとして、紹介することにした。

放射線照射モデルでの老化細胞がLPS刺激に対して高いレベルのサイトカイン分泌を示すことを確認した上で、腎臓内皮細胞を新型コロナウイルスのスパイクタンパク質S1で刺激すると、同じように老化細胞のみ強いサイトカイン合成が見られることを示している。

この実験では、ウイルス自体の代わりにS1で細胞を刺激している。たしかに、S1が自然免疫を刺激するという話はあるが、ウイルス自体を用いないと、参考にならない。というのも、コロナウイルスはタイプ1インターフェロンを抑える様々な仕組みを持っており、その上で誘導されるサイトカインストームを再現する場合は、やはりウイルス感染実験しかないように思う。

これで細胞レベルの実験は終わり、今度は一般の細菌叢に対する老化マウスの反応を調べている。この実験もユニークで、ペットショップから購入した一般環境で飼育されたマウスを1週間飼育することで汚された床敷きに、SPFマウスを晒して、感染を起こさせる実験を行なっている。驚くことに、若いマウスではSPFで飼われていても汚い環境に適応できるが、老化マウスは2週間以内に全例死亡する。そして、期待通り様々なサイトカインの発現が上昇している。私も論文はかなり読んでいるが、床敷で感染させるという実験は初めてだ。おそらくレフリーに指摘されたのだろう、マウスに感染するβコロナウイルスの感染実験でも同じことが起こることを示している。しかし、そうなら最初から汚い環境に晒すという複雑な実験をやめて、コロナウイルス感染に進めばよかったのにと思うのだが、実際には汚いマウスの床敷きがコロナウイルス感染モデルになると考えているようで、床敷きに晒すことで、マウスコロナウイルス感染が起こっていることを確認している。

最後に、この床敷感染実験によるマウスの死亡数が、サーチュインの活性に関わるとして知られているfisetin, さらには遺伝的senolyticsの系(p21が発現している細胞を薬剤で除去するシステム)。そして現在senolytics薬剤として用いられるダサニティブ+ケルセチンのコンビで、抑制することができることを示している。

以上が結果で、これでsenolyticsによりコロナ感染死亡を防げると結論している。ただ、Covid-19抑制に関わるsenolyticsを考えるとき、サイトカインストームから肺線維症が進行する過程を抑えられるのではと期待するが、読んでみてこの過程は無視されているように思える。すなわちこの研究では、ウイルスに対する免疫システムが老化で低下しており、これをsenolyticsで抑えるという話になっている。実際老化マウスではウイルスに対する抗体の産生が落ちており、senolyticsで抗体が回復している。また感染実験でも、感染量が増えると、病気の進行は遅らせても、マウスは最終的に死亡することから、肺線維症へスイッチするような病態を見ているようには思えない。

以上、紹介はしたものの、これをそのまま人間のcovid-19の重症化モデルに役立つとは到底思えず、よくレフリーも通したなと言う印象だが、senolyticsの効果については、もう少しわかりやすいモデルで、検証を続けることは重要だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ