12月7日 アミノ酸が同じでもコドンが異なれば酵素活性が変化する(12月5日 Nature Chemistry オンライン掲載論文)
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12月7日 アミノ酸が同じでもコドンが異なれば酵素活性が変化する(12月5日 Nature Chemistry オンライン掲載論文)

2022年12月7日
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分子生物学と長く付き合ってきても、全く想像だにしなかった現象についての論文を紹介したい。

ペンシルバニア州立大学からの論文で、アミノ酸の種類が変化しない遺伝子変異(synonymous 変異)が起こると、酵素活性が変化するという現象について、実験的・理論的に検証した研究で、12月5日Nature Chemistry にオンライン掲載された。タイトルは「How synonymous mutations alter enzyme structure and function over long timescales(アミノ酸レベルで同意義の変異が長い時間スケールで酵素の構造と機能を変化させるのか)」だ。

化学の論文を読む機会があまりないので、実験や理論の詳細については完全に理解したわけではないが、結論は理解することが出来る。しかし、化学の論文も読んでみる物で、化学者の方法や思考は、生物学とはずいぶん違うこともわかった。

何よりも、生物学では酵素の機能はアミノ酸配列で決まると思っているし、変異でもアミノ酸が変化しない synonymous 変異は、生物活性に何の変化もないと思っていた。

しかし、大腸菌の実験系では、synonymous 変異により、翻訳のスピードが変化し、その結果翻訳後の蛋白質の酵素活性が異なることが知られていたようだ(私だけが知らなかっただけかも?)。この研究では、3種類の酵素に、synonymous 変異を導入し、その mRNA の翻訳速度を調べると、それぞれスピードは2倍以上変化することを示している。確かに、翻訳速度の違いについては、それぞれのコドンに対する tRNA の量もちがうし、リボゾームとの相性も違う結果、このぐらいの翻訳速度が変化する可能性は納得できる。

こうして翻訳した蛋白質の酵素活性を調べると、2種類の酵素では翻訳速度が速いと、活性が低下する。一方、一つの酵素は翻訳速度が違っても、酵素活性に違いがないことがわかった。

この理由を説明するために、それぞれの蛋白質の折りたたみ過程と構造についてモデルを立て、折りたたみ過程で、完全に失敗ではないが、酵素活性が低いギクシャクした状態が発生することが、全体での酵素活性の低下につながることを明らかにしている。

この状態を entangled state と名付けているが、この状態は時間がたてばシャペロンがなくとも完全に正常の構造をとることが出来る。そして、翻訳時に entangled state が発生し、リボゾームから遊離した後、時間をかけて自然に entangle state が解消することを示している。さらに、蛋白質によって、このような entangled state は何種類も複雑に存在する。この結果、完全に正常な構造にたどり着くまでの時間は蛋白質により変わる。

これらの結果から、

  1. Synonymous 変異により翻訳速度が変化すると、翻訳が早い場合様々な entangled state が発生する。
  2. 酵素によっては、この entangled state はすぐに解消されるので、変異があっても活性は変わらないが、酵素によっては複雑な entangled states がリボゾームから遊離後も改正に時間がかかり、酵素活性が低下する。
  3. Entangled state の多くは、可溶性で、正常に近いため、分解処理されることはないが、全体の酵素活性は低下する。

以上が結論で、私だけかも知れないが、大変勉強になった。どんなに小さな変化でも、進化という長い時間スケールでは影響があるはずで、どのコドンを使うのかの重要性が良く理解できた。

カテゴリ:論文ウォッチ