12月27日 青班核刺激は人工内耳による聴覚機能再建を促進する(12月21日 Nature オンライン掲載論文)
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12月27日 青班核刺激は人工内耳による聴覚機能再建を促進する(12月21日 Nature オンライン掲載論文)

2022年12月27日
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補聴器を使うようになってから、音も様々な音素を脳で再構成して聞いていることがよくわかるようになった。現在会話など一般使用と、音楽会など用2種類の補聴器を使い分け、設定もスマフォでこまめに行うことで、自分のイメージに合った音の世界を手に入れている。ただ、補聴器による補正は、機能が大きく低下したとは言え、まだ空気の波を感じられる段階で、これが出来なくなると現在では人工内耳を用いて、直接内耳神経を刺激する方法が用いられる。この場合マイクで拾った音を直接神経刺激に変えるため、音の世界がうまく表象できるようになるために時間がかかり、また個人差が極めて大きい。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、ラットに人工内耳を設置して、聴力が失われる前の音の世界を人工内耳で表象する時、青班核を刺激することで機能回復が著明に早まることを示した重要な研究で、12月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Locus coeruleus activity improves cochlear implant performance(青班核の活性が人工内耳の性能を高める)」だ。

タイトルにある青班核というのは、脳幹にあるノルアドレナリン作動性神経の小さな集合で、脳を覚醒させる網様体賦活系の一つで、刺激を受けたときの覚醒し、さらに目がさえてくるのは青班核の働きだ。また、記憶や学習時に、どの刺激を選択するかにも関わっている。

この研究では、正常ラットにまず特定の音に反応する課題を学習させた後で、内耳を破壊して聴力を喪失させた後、人工内耳を挿入、これをケージに設置したマイクと連結させ、聴力を回復させている。これにより、蝸牛核など直接音が入る神経領域の興奮は誘導できるが、正常時に学習した課題をこなすためには時間がかかる。また、人間と同じように個体差も大きい。

いずれにせよ、トライアルを重ねると、学習した課題が出来るようになる。この過程に、音に対して反応し注意を向ける過程に関わる青班核が関わると考え、学習中の青班核の反応を調べると、最初は音ではなく課題での鼻の刺激や褒美に驚いて反応していた段階から、徐々に目的の音を聞き分けて褒美の反応にリンクさせる過程が観察される。すなわち、目的の音だけが青班核を活性化出来るよう訓練されることがわかる。

そこで、目的の音を聞いたときに、光遺伝学的に青班核を刺激して、目的の音と青班核の興奮をリンクさせると、人工内耳を通して課題が出来るようになるまでの時間が大きく短縮する。

最後に、聴覚を統合している領域全体の興奮を記録し、青班核の刺激により誘導された音の表象を調べてみると、青班核を刺激された個体だけ課題を遂行する過程での興奮神経と抑制神経のバランスがとれ、さらに多くの領域が反応していることが明らかになった。またこうして測定される脳の興奮パターンの指標と、課題遂行の成績は完全に比例する。

以上の結果は、青班核による指向性の誘導が、目的の音を他の音から区別して聞き取る過程に重要な役割を演じていることを明らかにするとともに、人工内耳に早く慣れるために青班核の刺激は有効であることを示している。青班核は小さいので、特異的に刺激は難しいと想像されるし、また投射は様々な領域に広がっているので、ランダムな刺激が他の行動に影響を持つ心配もあるが、臨床応用の可能性は是非進めてほしいと思う。

しかし、ラットの内耳に人工内耳を埋め込むことだけでも大変だと思うが、このグループの聴力に関する研究への執念が感じられる論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ