以前、スクラロースやアスパルテームを摂取すると、細菌叢を変化させて、その細菌から出る物質がグルコース耐性能を低下させるという論文を紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/2190)。この論文は細菌叢が代わったという点で意外性があったので騒がれたが、それ以外にも隠れた危険性を指摘する論文が発表されており、多くの飲料や食品に使われている人工甘味料をもっと規制すべきであると考える人は多い。
今日紹介するフロリダ州立大学からの論文は、アスパルテームが分解されて生成されるアスパラギン酸やフェニルアラニンが脳の扁桃体に作用して、不安神経症を誘導する可能性があることを示した研究で、12月2日米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Transgenerational transmission of aspartame-induced anxiety and changes in glutamate-GABA signaling and gene expression in the amygdala(アスパルテーム誘導の不安症と扁桃体のグルタミン酸-GABAシグナルの変化や遺伝子発現の変化は次世代にも伝わる)」だ。
米国ではおよそ5000種類の飲料や食品にアスパルテームが使われているようだ。特にダイエットやカロリー0をうたうためには必須の添加物になる。ただ、FDA は一日の最大使用量を規定している。
この研究ではマウスに換算して、FDA が決めた最大量の15%相当(カロリー0ソーダ缶の2-4本分)を、なんと18週間にわたって経口的に摂取させたという研究で、夏にちょっと一本といった量ではないことを断っておく。
アスパルテームは分解されるとアスパラギン酸、フェニルアラニン、アルコールに分解され、それぞれのアミノ酸は神経システムへの作用が知られているので、この研究では最初からアスパルテーム摂取の神経作用に絞って研究を行っている。長期に摂取を続けさせ、18週目にアスパルテームあるなしでマウスの行動を調べると、不安神経症が誘導されていることがわかる。そして、この不安神経症は、GABA受容体を活性化するディアゼパム投与で解消することから、GABAシグナル低下を介していることが示された。
これを確認する意味で、扁桃体での遺伝子発現を調べると、期待通りGABAシナプスシグナルに関わる分子の発現が低下、逆にグルタミン酸シナプスシグナルに関わる分子の発現が上昇しており、不安神経症を裏付けることがわかった。
これで一つの話にはなるが、この研究ではこの効果がエピジェネティックに遺伝子発現を変化させた結果で、当然脳にとどまらず生殖細胞でも同じ変化が誘導され、父親の精子を介して次世代に伝わるのではと着想、長期摂取させた父親の1世代、2世代目を調べている。結果だが、1世代目では扁桃体の遺伝子発現が変化し、不安神経症を発症するが、2世代目にはその効果は消える。いずれにせよ、次世代に伝わるエピジェネティックな変化が、行動異常の原因であると結論している。
結果は以上で、まずたまに摂取するという場合は全く問題ないが、毎日アスパルテームを含む食品を食べ続ける場合は、注意が必要になる。幸い、精子レベルで変化が見られるので、エピジェネティックな詳しい解析を行えば、人間でも同じことが言えるのかわかるように思う。難しいとは思うが、検討を進めることは重要だと思う。