写真はCDB時代、研究員として在籍し、現在スイスETHの教授をしているTimm Schroederが、おそらくコスタリカで撮影して送ってくれた「Glassfrogガラスガエル」の写真だ。Timmは大学教授にしておくのは惜しいほどの写真の腕前で、多くの生物の写真を送ってくれているので、機会があれば今後も紹介したい。
今日紹介するデューク大学からの論文は、ガラスガエルの透明性の秘密に迫った驚きの研究で、12月22日号 Science に掲載された。タイトルは「Glassfrogs conceal blood in their liver to maintain transparency(ガラスガエルは透明性を保つために血液を隠す)」だ。
この研究が対象にしたガラスガエル、Hyalinobatrachium fleischmanniは皮膚の色素がほとんどないためTimmの写真よりさらに透明に見える。しかし、なぜこれほどの透明性が、不透明のヘモグロビンが詰まった赤血球を全身に循環させる必要がある脊椎動物で可能なのか?
この研究では、この透明性は睡眠中の現象で、動いているときは体中に赤血球が循環して透明性が低下することに注目し、睡眠中は赤血球が全身の循環から切り離されるのではと着想した。
勿論これを確かめるためには、生きて睡眠中のカエルの赤血球の居場所を調べる必要があるが、光だけでは透明でよくわからない。そこで登場するのが以前紹介した photoacoustic microscopy(PAM) で、光がヘモグロビンに吸収される時に発生する超音波を拾って画像化する技術だ(https://aasj.jp/news/watch/19684)。
PAMの技術は素晴らしく、睡眠中になんと8−9割の赤血球が肝臓に隔離されることを見事に明らかにした。これは、肝臓に存在する類洞に多くの赤血球を貯蔵できるためで、他のカエルも原則同じことが可能かも知れないが、実際はガラスガエルだけが、循環を大きく変化させられるメカニズムを持っている。このダイナミズムを見ると、一種の冬眠に近い状態が日々繰り返されていることになる。
とはいえ、赤血球が肝臓に集まればそれだけで余計目立つのではと心配になる。これについては既に研究があり、ガラスガエルの内臓は光を反射するクリスタルでデコレートされた袋に入っているため、外部から内部が見えにくくなっているようだ。
いずれにせよ、こんなに赤血球を詰め込んで血栓ができないのかなど、医学的にも興味がわく面白い研究だった。何よりも、クリスマスに子供に語るお話として最適だ。