2月8日 死後組織の遺伝子解析データから概日周期を再構成する(2月3日号 Science 掲載論文)
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2月8日 死後組織の遺伝子解析データから概日周期を再構成する(2月3日号 Science 掲載論文)

2023年2月8日
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進化での自然選択は、見方を変えると環境への同化と考えることも出来る。以前紹介したが、カメの甲羅の起源を探った古生物学研究で、亀の先祖は穴を掘って水の少ない乾期を生き延びたトカゲがいつのまにか穴も身につけてしまった、という説は最も面白い例だろう(https://aasj.jp/news/watch/5537)。しかしなんと言っても生物界全体に見られる同化の例が、地球の自転に細胞の転写システムを同期させる概日リズムの獲得だろう。

今日紹介するスイス連邦工科大学ローザンヌ校からの論文は、死後解剖組織の遺伝子解析データから人間の概日リズムを再構成し、性別や年齢による概日リズムの再構成について調べた研究で、2月3日号 Science に掲載された。タイトルは「Sex-dimorphic and age-dependent organization of 24-hour gene expression rhythms in humans(人間の24時間遺伝子発現リズムは性及び年齢により再構成される)」だ。

概日リズムというと、細胞であれ個体であれ一つの対象を少なくとも24時間経時的に調べることが必要だと思っていた。しかし、概日リズムの存在が細胞レベルで確認され、またその調節に当たるマスター遺伝子がわかっているなら、死後でも組織が概日周期のどの時間を代表しているか推察することが出来るはずだ。こう着想して、人間の様々な組織の遺伝子発現データが集められている GTExデータベース(https://gtexportal.org/home/)のデータを、概日リズム遺伝子の発現からその組織の概日時間を推定する作業を行ったのがこの研究だ。

これも、明確なQuestionと情報処理能力があれば、素晴らしい研究が出来るという例だが、何よりも概日周期の研究を、経時的に行う実験から解放した点が大きいと思う。とはいっても、死後組織に起こる様々な変化を考えると、ほとんどが難しいだろうと考えてきたのだろう。それをやり遂げたことがこの研究の最大のハイライトだ。

結果だが、案ずるより産むが易しで、今回開発したアルゴリズムにより、同じヒトからの組織では概日周期ははっきり一致しており、概日時間を決めることが出来る。そして、この概日周期に合わせて動く遺伝子のリズムを網羅的に解析できることを示している。

重要なのは、対象の死亡時間は、遺伝子発現から見られる概日時間とは食い違いが大きいことで、これは死後変化などが加味されるためと思う。従って、死後組織で概日時間を推定したい場合は、複数の組織の遺伝子発現を正確に調べることが重要で、このデータがあれば組織の同期性を指標に、データの質を評価し、概日時間を推定できる。

そして、多くの個体についてのデータを一つにプロットすると、これまでの経時的実験で示されてきた概日周期を見事に再構成することが出来る。

この解析を元に、研究では概日周期に連動する遺伝子発現リズムの男女差、年来差を調べている。

まず男女差だが、肝臓と副腎組織ではっきりした差が見られる。すなわち、女性のほうが多くの遺伝子の発現が概日リズムに従う。また、時間による発現の差が大きい。ほかにも、これほど大きな差はないにせよ、心血管系でも女性でリズムを刻む遺伝子が多い。

次に、年齢を50歳以下、60歳以上で区切って比べると、例えば脂肪組織ではほとんど変化がないにもかかわらず、冠状動脈などでは60歳以上になるとほとんどリズムの振幅が小さくなり、また24時間周期が12時間周期に変わってしまうのがわかる。

一方、卵巣を見ると、逆に閉経後リズムがはっきりする遺伝子も存在する。特にストレス反応に関わる遺伝子はリズムがはっきりする。

以上が結果で、勿論なぜこのような変化が起こるのかはわからない。しかし、このように人間で新たな問題がわかることで、今度は動物実験で調べることも可能になる。その意味で、概日周期の研究を、経時的実験から解放した意味は大きい。

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