2月14日 多言語を駆使できる脳(1月19日 bioRxiv 公開プレプリント)
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2月14日 多言語を駆使できる脳(1月19日 bioRxiv 公開プレプリント)

2023年2月14日
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3ヶ国語を話せるという日本人の友人は多くいるが、さすがにそれ以上となると現在台湾科学アカデミー研究所の太田欽也さんぐらいしか思い浮かばない。しかし世界には10を超える言語を操れる人が少数だがいるようで、今日紹介するMITからの論文は、最低5ヶ国語(平均で11ヶ国語)を使える人を集めてその言語やの活動を調べた研究で、まだ査読が終わって雑誌掲載された訳ではないが、掲載前のプレプリントを公開するbioRxivで公開されている。タイトルは「Functional characterization of the language network of polyglots and hyperpolyglots with precision fMRI(多言語および超多言語を使う人の言語ネットワークを厳密なfMRIで機能的に評価する)」だ。

基本的には査読前の論文は紹介しないので、発表されてから少し待っていたが、まだ雑誌が決まらないようなので痺れを切らして紹介することにした。

研究自体は、被験者の言語野を正確に特定したあと、言語を聞いている時の言語やの活動を調べただけだが、最低5ヶ国語、平均で11ヶ国語、最も多い人で54ヶ国語を使えるという、私から見れば言語の天才を26人もボストンおよびその近郊から集めて調べたことが驚きだ。実際、タイトルを見ただけで「どんな頭をしているのか?」と興味が湧く。

実験では、MRIを測定しながら、様々な言葉で朗読された聖書物語や不思議の国のアリスのパッセージを聞かせる。測定は、あらかじめ言語に反応する領域を各個人で特定し、その場所に絞って反応を見ている。

それぞれの被験者は、母国語、流暢に使える言語、ある程度わかるが流暢ではない、そして全くわからない言語、について自己申告させる。また、流暢な外国語に関しては、上手な順番を決めてもらっている。

これらの人たちが、様々な言語を聴いた時の、前頭葉から側頭葉にかけての言語野の活動とその強さを調べた結果、以下のことが明らかになった。

  • まず、多言語を話す人では、母国語に対する言語野の反応が、通常の人と比べるとかなり低い。すなわち、あまり頭を使わなくても、母国語を理解できるように変化している。
  • 母国語と、その他の外国語を聴いた時の反応場所、すなわちネットワークを調べると、ほぼ全ての言語で同じような領域が活動する。すなわち、言語が異なっても、対応する脳ネットワークの根幹はほぼ同じ。
  • すべての言語は理解される限り同じ領域が反応するが、反応の強さを調べると、最も流暢な言語から流暢さが減じるにつれて順々に脳の反応が弱まっていく。
  • 面白いのは、最も流暢な言語に対する反応は母国語に対する反応より強い点で、大体母国語は3番目から4番目に流暢に使える言語に対する反応の強さと同じになる。いずれにせよ、流暢さに比例して反応が高まるというルールに母国語は当てはまらない。熟練すると無意識になっていく手続記憶のようなものかもしれない。

結果は以上で、結果の解釈についてはこれからの問題だと思う。例えば自分の経験から言えば、母国語も含め流暢なほど頭を使っているのかと思っていた。すなわち、日本語は聞き流せるが、英語、そしてドイツ語と、理解しようとすればするほど頭を研ぎ澄まさないと聞き取れない。この流暢なほど反応が高いというのが、他言語を使える人だけなのか、2−3ヶ国語でもそうなのかはぜひ知りたいところだ。

脳データが示された被験者の中には、日本語が3番目に流暢という人もいたが、失語の研究から日本語と英語はネットワークが分離できるという話を聞いたこともある。この研究で調べているのは、言語ネットワークの核構造なので、さらに複雑な結合になると別の研究が必要だが、ぜひ多言語を使える人が失語になった時の臨床像も知りたい。

いずれにせよ、多言語を使う稀な人を調べることで、新しい言語の構造が見えてくることがよくわかる面白い論文だ。

カテゴリ:論文ウォッチ
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