最初に臨床応用が行われたCAR-T治療は、T細胞にCD19に対するキメラ抗体を導入することでCD19を発現するBリンパ性白血病を殺す治療だった。最初の論文を読んでCAR-T治療がいかに効果が強いか認識したのは、白血病細胞だけでなく、なんと正常B細胞まで除去されていた点で、キラー細胞の力を思い知った。
ただこのキラー細胞の強さが、CAR-T治療の普及を妨げている。すなわち正常細胞に全く影響の出ないガン特異的抗原をみつけるのが難しい。実際、大人では発現していないだろうと考えて行った治療で、正常細胞が障害されたケースが報告されている。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、このガン特異的抗原を特定することの難しさを逆手にとって、すべての血液細胞に発現しているCD45分子を標的にしたCAR-Tを用いる代わりに、造血系とCAR-T自身のCD45が発現するエピトープを編集して、CAR-Tに殺されないようにする逆転の発想を検証した研究で、8月31日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Epitope base editing CD45 in hematopoietic cells enables universal blood cancer immune therapy(CD45陽性血液幹細胞のエピトープ編集によりすべての血液ガンに対する免疫治療が可能になる)」だ。
同じ週の Nature にも、ハーバード大学から血液幹細胞や血液ガンで発現する FLT3、c-Kit、 IL3-R などをエピトープ編集するCAR-T 開発の論文が発表されており、この方向研究も競争が激しいことを示している。
さて、ペンシルバニア大学からの論文だが、CD45ノックアウトCAR-Tを用いてCD45がCAR-Tの増殖と維持に必須であることを確認している。すなわちCD45に対するCAR-Tを実現するには、まずCAR-Tが発現するCD45の機能を保ったまま、抗体には反応しないようにエピトープ編集を行う必要がある。結局CD45の機能部位とは全く異なる場所を認識する抗体をCAR-Tのキメラ抗体として用い、抗体に認識されるエピトープのアミノ酸を置換する作業をCRISPRを用いて行い、CD45を発現するガンは殺すが自分自身は認識されないCAR-Tを完成させている。編集の効率は高いが、いずれにせよ本来の編集できないCD45を発現しているCAR-Tは培養しているうちに殺し合って消滅する。こうしてできたCAR-Tは移植したマウスの中で長期に維持され、CD45を発現しておればすべての血液ガンを殺してくれる。
このCAR-TをCD45を発現する人間で応用するためには正常血液のCD45もCAR-Tに認識できないようにエピトープ編集する必要がある。そのため、ヒトCD34造血幹細胞を精製し、同じ方法でCRISPRを用いたエピトープ編集を行い、こうしてできたCD45造血幹細胞を免疫不全マウスに移植、増殖維持されることを確認した上で、最後のCD45を標的にしたガン治療が可能かの実験を行なっている。
エピトープ編集を行った血液幹細胞を移植、その後骨髄性白血病を移植、そして最後にやはりエピトープ編集を行ったCAR-Tを移植すると、見事に白血病は除去され、ほぼすべてのマウスが生存している。
結果は以上で、CAR-Tもどんどん複雑になっているが、しかし元々多くの白血病では骨髄移植が行われるし、またCAR-Tのほうも現在治験が進んでいる誰でも利用できるユニバーサル型を編集すれば、割と簡単に実現できるような気がする。期待したい。