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9月5日 耐性が起こらない夢の抗生物質は可能か(8月22日 Cell オンライン掲載論文)

2023年9月5日
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微生物を分離しその抗菌活性を調べることで多くの抗生物質が開発されてきたことは一般にもよく知られている。このことは、細菌が培養できないと抗生物質は発見できないことを意味し、できるだけ多くの細菌を集めることの重要性が語られてきた。逆にいうと、培養が難しい微生物は研究の対象外になってしまう。

今日紹介するドイツ・ボン大学とオランダ・ユトレヒト大学からの論文は、普通は培養が難しい細菌を分離し、ここからこれまでとは全く異なるメカニズムで黄色ブドウ球菌をはじめ多くの細菌を殺すことのできる抗生物質を開発した研究で、8月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「An antibiotic from an uncultured bacterium binds to an immutable target(培養困難微生物から分離した抗生物質は変化が起こらない標的に結合する)」だ。

最初 uncultured を、培養していない細菌と間違ってしまい、細菌叢のゲノム研究から新しい抗生物質を発見する論文かと読みはじめて、普通の培養では他の細菌に押されて培養できない細菌を培養して抗生物質活性を探索する研究であることを理解した。

この研究の培養方法は96ウェルのクラスタープレートに、ほぼ一個づつ細菌が入る程度に培養し、なんと12週もかけてようやく細菌が増えてきたことがわかるほどゆっくりと増殖してくる細菌を黄色ブドウ球菌に作用させ、抗生物質活性のある細菌を分離し、それが Eleftheria 菌であることを遺伝子解析から明らかにしている。

あとは、この細菌の培養上凊を生化学的に分離精製し、最終的に Clovibactin と名付けたアミノ酸が組み合わさった新しい抗菌化合物に辿り着いている。このように、わざわざ培養困難微生物を選び出したことがこの論文のハイライトだが、実際に Clovibactin を分泌していた菌は Eleftheria 一種類だけなので、努力に報いようと運も味方についてくれたのかもしれない。

次に、Eleftheria 菌がこのような複雑な抗生物質を作っているのかを確認するため、ゲノム解析を行い、四種類の酵素からなる合成のためのオペロンを特定し、合成過程を明らかにしている。

肝心の効果だが、バンコマイシンと比べても、黄色ブドウ球菌を急速に溶菌させる活性がある。また、最終殺菌効果も高い。さらに、抗菌スペクトラムも広い。また、動物細胞には全く影響がなく、動物に静脈注射してもはっきりした副作用は見られない。またマウスでのブドウ球菌感染をバンコマイシンと同程度に抑えることができる。

最も重要なのは、これまでの抗生物質と比べて、耐性菌の出る確率が100倍以上低いことで、今後の感染治療に変革をもたらせる可能性がある。そのため、詳しく作用メカニズムを解析している。この過程はまさにこの分野のプロの仕事といった感じで、まず Clovibactin が細胞壁構成に関わる基本分子 Lipid II および C55PP 分子に結合していることを突き止めると、NMR や原子間力顕微鏡を駆使した構造解析から、ほとんどの細菌が依存しており、他の分子経路が存在しない Lipid II に結合し、これを重合させることで、細胞壁のペプチドグリカン合成が阻害される。このユニバーサルに存在する他の経路で代償できない過程を標的にしているため、耐性が起こりにくい原因であることがわかる。

結果は以上で、Clovibactin自体がそのまま夢の抗生物質として利用されるかどうかはわからないが、作用機序がわかったことで耐性のない抗生物質という夢を実現する方法が明らかになったことは大きい。このようなプロがいてくれるおかげで医学も進む。

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