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9月11日 In vivo-CRISPRスクリーニングで発見したガン増殖促進を助ける好中球シグナル因子(9月6日 Nature オンライン掲載論文)

2023年9月11日
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腫瘍の周りの環境は4種類に分類される。最も望ましいのは Hot 状態で、ガン抗原特異的なT細胞が活性化され、腫瘍内に浸潤し、それをさらにNK細胞が助けるといった状態だ。この理想的な状態に対して、Cold と呼ばれるのは、T細胞反応が様々な理由で低くなっている状態で、チェックポイント治療やワクチン治療はこの状態を Hot にするために行われる。これら2つの状態以外に、ガン自体が免疫を抑制する suppressed と呼ばれる状態があり、例えばガンが PD-L1 を発現してキラー細胞を抑えるのもこの中に入る。そして最後の状態がキラー細胞の浸潤を防ぐ状態で、Excluded と呼ばれる。

この Excluded と呼ばれる状態は、膵臓ガンのように間質反応により機能的血管密度が抑えられたりするケースもあるが、最も重要な要因として活性化された白血球や樹状細胞が腫瘍局所に浸潤して、リンパ球の浸潤をブロックするケースが最も重要と考えられ、これを標的にして腫瘍内に抗腫瘍免疫活性を回復させる試みが進んでいる。

今日紹介する上海復旦大学からの論文は、CRISPR/Cas により356種類の膜に発現する蛋白質を網羅的にノックアウトした造血幹細胞を作成し、これを放射線照射マウスに移植したあと、腫瘍を移植、その周囲に集まる血液細胞を single cell RNA sequencing により解析し、ノックアウトにより白血球の浸潤が抑えられる分子を探索している。

CRISPR/Cas による網羅的スクリーニングは当たり前の技術になったが、この研究では通常の試験管内スクリーニングではなく、正常骨髄細胞を標的にした後、骨髄再建を行い、さらに腫瘍を移植する in vivo のスクリーニングで、大変な労力をかけている。

その結果、腫瘍組織での発現が低下した細胞膜分子のトップが CD300ld で、期待通り好中球に強く発現し、ノロウイルスの受容体であることがわかっているが、機能がまだよくわかっていない膜分子だった。

この分子をノックアウトしたマウスを作成し、腫瘍移植実験を行うと、腫瘍の増殖が抑えられる。すなわち、この分子は好中球で発現し、腫瘍免疫を抑える働きがある。実際、ノックアウトマウスの腫瘍組織では、腫瘍増殖を助ける CD14陽性好中球の浸潤が選択的に抑えられ、さらにキラー細胞が増加し、逆に抑制性T細胞が低下し、ガンの環境を完全に増殖抑制型にリプログラムできる。

次に、ノックアウトマウスを用いて下流のシグナルを探ると、CD300ld は炎症増強性の環境を形成する S100A8/A9分子の発現を誘導し、腫瘍への好中球の浸潤を促し、腫瘍増殖を助けていることが明らかになった。

残念ながら、CD300ld を刺激する分子が何かは特定されていないが、子の分子を活性化する抗体を用いて刺激実験を行うと、STAT3 が下流で働いていることがわかる。そこで、CD300ld の細胞外部分を抗体Fc部分と合体させたキメラを形成し、CD300ld の機能を阻害すると、ノックアウトと同じ効果が得られ、腫瘍増殖を抑制する。

また、PD-1 に対するチェックポイント治療と組みあわせると、相乗効果が得られることから、ガンの周囲環境を整えることの重要性を示している。

人間の腫瘍組織でも発現が見られ、さらに高い発現を示す患者さんほど予後が悪いことから、人間でも同じように働いており、ガンの治療標的になり得ることを示している。

以上が結果で、本当なら PD-1 チェックポイント治療で Cold 状態を Hot にするとともに、CD300ld を阻害して excluded 状態を元に戻すという治療は十分説得力がある。

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