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9月16日 サルコイドーシスが増悪するメカニズム(9月13日 Science Translational Medicine オンライン掲載論文)

2023年9月16日
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京大医学部の同窓会誌で、卒業後胸部疾患研究所で臨床を始めたときに世話になった泉孝英先生が亡くなったのを知った。私がすぐに基礎医学に行かずに臨床から始めたのも、また臨床研究のイロハを教えてもらったのも全て泉先生のおかげだ。この時臨床研究として取り組んだのが、サルコイドーシス、慢性ベリリウム症、そして汎細気管支炎だった。中でもサルコイドーシスは専門外来に最初から補助役として参加した。

その後1980年に留学して、完全に臨床を離れたので、これらの疾患についての私の知識はここで途切れている。しかし、何10年もたって当時感じた疑問が一つの研究で解明され感動することがある。その例が、このHP で紹介したように金属によりMHC構造が変化し、それに対する免疫反応が基盤にあることを示した研究だ(https://aasj.jp/news/watch/1783)。

今日紹介する米国・テネシー州立大学からの論文は、サルコイドーシスの重症化に関わるCD8T細胞と細胞活性化メカニズムについて明らかにした研究で、9月13日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「SHP2 promotes sarcoidosis severity by inhibiting SKP2targeted ubiquitination of TBET in CD8 + T cells(SHP2がCD8T細胞内でSKP2によるTBETのユビキチン化を阻害することでサルコイドーシスを重症化させる)」だ。

サルコイドーシスに関する私の知識は1980年からアップデートしていないので、Nature Review Disease Primers のサルコイドーシスを読んでみると、他の肉芽腫性疾患と同じで、何らかの抗原で刺激されたCD4T細胞が、自然免疫系、特にマクロファージを巻き込んで肉芽腫性炎症へ発展することは間違いなさそうだが、まだ抗原や悪性化についてはわかっておらず、治療も私が特殊外来に出ていた頃から特に進歩していないことがわかった。

この研究では、サルコイドーシスの進展にインターフェロンγ(IFNγ) が関わっており、膜型脱リン酸化酵素SHP2を阻害するとFNγが低下、症状が抑えられることに注目し、マウス肉芽腫モデルを用いて、SHP2を発現する細胞の特定から始めている。

結果は、CD4細胞ではなく、CD8T細胞のSHP2が肉芽腫の重症化に関わっていることを突き止める。そして、SHP2阻害剤を用いることで、肉芽腫性病変をつよく抑えることを示している。

あとは、CD8T細胞でのSHP2シグナル下流を生化学的に探索し、

  1. SHP2はT細胞の転写因子TBETを介して、FNγ分泌を促進しするとともに、クラス1MHCの発現を高める。
  2. TBETは、ユビキチンリガーゼSKP2によってユビキチン、分解経路に導かれる。
  3. SHP2は直接SKP2に結合して脱リン酸化を介してその機能を低下させることで、TBETの分解が抑制され、TBETによるインターフェロン合成が誘導される。
  4. サルコイドーシスの患者さんではSHP2の活性が高まっている。
  5. サルコイドーシスの肺組織スライスをSHP2阻害剤で処理すると、FNγの分泌が抑えられるとともに、コラーゲン遺伝子の発現も抑えて肺線維症の進行を止めることが出来る。

以上が結果で、サルコイドーシスの重症化にCD8T細胞が関わること、この細胞が何らかの抗原で刺激されることで、サルコイドーシスの重症化が始まることをを明らかにしている。

治療の面では確かに大きな革新があるとは言えないが、ゆっくりとしてではあってもサルコイドーシスのメカニズムも徐々に解明が進んでいると実感できた。

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