昨日に続いて脳と身体のつながりについての研究を紹介したい。
ご存じのように、私たちの細胞一つ一つは地球の時間に活動を概ね合わせるための概日周期メカニズムが備わっており、研究が進んでいる分野だ。そして、この身体レベルの概日周期を、実際に地球の自転を感じる脳レベルの周期で調節しており、その中心が視交差上核だ。
今日紹介するスペイン・Pompeu Fabra大学からの論文は、老化とともに機能が低下する筋肉に焦点を当て、筋肉と脳との間の概日周期を独自に狂わせたらどうなるかを調べた面白い研究で、5月3日号 Science に掲載された。タイトルは「Brain-muscle communication prevents muscle aging by maintaining daily physiology(脳と筋肉のコミュニケーションにより概日機能が維持され筋肉老化が防がれる)」だ。
我々は老化すると視交差上核と身体の神経ネットワークが変化することが知られており、リズムの振幅が低下する。問題は、この変化が身体レベルの老化の原因にもなっている。実際、概日周期の中心的遺伝子Bmal1 をノックアウトしたマウスでは、身体の老化が早まることも報告されている。
この研究では Bmal1ノックアウトマウスをベースに、筋肉でだけ Bmal1 を回復させた M-Bmal1マウス、脳でだけ回復させた B-Bmal1マウス、そして両方で回復させた MB-Bmal1マウスを作成している。これにより、M-Bmal1 は筋肉レベルの概日周期システムは回復するが、脳による調整ができない。一方 B-Bmal1 では筋肉レベルの概日周期は失われるが、脳の概日周期での調節は起こる。そして MB-Bmal1 では筋肉の概日周期が脳により調節されるようになるが、ほかの臓器からは完全に孤立化している。
これらのマウスの筋肉での遺伝子発現の概日リズムを調べると、正常と MB-Bmal1、そして M-Bmal1 の 三者は比較的似ており、B-Bmal1 は完全ノックアウトマウスに近い。すなわち、筋肉の概日周期で見たとき、やはり筋肉独自の周期が優勢で、脳のコントロールだけでは組織レベルの周期を回復できない。
しかし、詳しく見ていくと遺伝子によっては脳のコントロールがないと回復しないグループも存在する点で、筋肉の概日周期は筋肉で独立して行われている部分は大きいが、脳のコントロールも厳然と存在する。それどころか、MB-Bmal1 のように脳、筋肉でのコミュニケーションが完成していても、正常マウスと比べると半分の遺伝子発現の周期が完全に戻らないことは、他の組織からの概日リズム調整が筋肉のリズムに影響しており、一つの組織の概日周期が複数の複雑なコントロールを受けていることを示している。
それぞれの調節を受けている遺伝子群の特徴についても面白い。例えばミトコンドリアの分裂を見ると、脳のコントロールの影響が大きい。他にも様々な重要な機能がそれぞれのネットワークにより調節していることが示されているが、ややこしくなるので割愛する。要するに概日リズムは組織の健康にとって必須にできている。
いずれにせよ、脳と筋肉の概日周期レベルの連結が、筋肉のミトコンドリア活性化などの必須とすると、脳の概日レベルの影響が落ちてくる老人はどうすればいいのか。
これについても考えてくれていて、食べる時間と食べない時間をはっきりさせる、Time restricted feeding により脳のリズムによるコントロールを大分取り戻せることを示して、運動などとともに、fasting を行うことで筋肉老化を防げる可能性を示している。
結局マウスの話で、人間でどうか結論はできないし、またすべてノックアウトマウスの現象論なので、そのまま鵜呑みにはできないが、身体全体の時間調整の重要性はマウスも人間も同じだろう。