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11月3日 自然免疫に関わる2型自然リンパ球が生後の抑制神経シナプス形成に関わる(11月1日 Science 掲載論文)

2024年11月3日
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新生児期に脳は刺激に応じてシナプスを剪定し、脳回路をより外界の刺激に適応するよう変化させる可塑性を発揮する。この重要な過程は、脳への刺激だけでなく、炎症刺激などによっても影響されることが知られている。例えば、この時期に寄生虫に強く晒されると、学習能力の低下が起こることが知られている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、新生児期の神経発達に、寄生虫に対する免疫を担う2型自然リンパ球 (ILC2) が、外界からの感染とは無関係に髄膜内で発達し、この細胞から分泌される IL13 が直接抑制性シナプス形成を促し、主に社会性を発展させることを示し、また IL4/13 と神経回路との関わりを示した興味深い研究、11月1日 Science に掲載された。タイトルは「Group 2 innate lymphoid cells promote inhibitory synapse development and social behavior(2型自然リンパ球は抑制性シナプスを促進して社会性を発展させる)」だ。

ILC2 は新生児期に様々な組織で発達することが知られているが、この研究ではこのとき脳ではどうなっているのか、これまであまり問われなかった疑問にチャレンジしたことがハイライトになる。Single cell RNA sequencing と組織学を組み合わせて調べた結果、脳実質内にまでは侵入しないが、髄膜で生後急速に ILC2 の数が増加し、生後15日ぐらいでピークに達すること、このとき自然に IL-13 や IL-5 といった Th2 型サイトカインを強く分泌することを発見する。この ILC2 の増加とサイトカイン分泌を誘導するメカニズムについてはわからないままだが、おそらく外界からの刺激ではなく、発生の一つの過程として ILC2 が脳髄膜で発達していることになる。

IL-13 受容体は脳細胞で発現していることは何度も報告され、またこのブログでも紹介しているので、ILC2 の新生児期の発達は当然脳発達に影響が及ぶ可能性がある。そこで、ジフテリア毒素を特異的に発現させることで ILC2 を除去する実験を行うと、なんと抑制性シナプス形成が特異的に低下することを発見する。一方、抑制性神経細胞数や興奮性シナプスについては全く影響を受けない。

この効果が IL-13 が直接神経細胞に作用した結果であることを示すために、IL-13 の受容体 ( IL-4Rα と IL-13Rα1 のダイマー) を様々な抑制神経でノックアウトすると、抑制シナプスの減少が観察される。一方、他の細胞で IL-13 受容体をノックアウトしても、抑制性シナプスに影響はない。この結果は、ILC2 の発達と、そこから分泌される IL-13 が発生のシグナルとして、抑制性シナプス形成に関わっていることを示している。

抑制性シナプスと、興奮性シナプスのバランスの乱れは、自閉症や統合失調症の重要な特徴だ。そこで ILC2 を欠損させたとき行動変容が起こるかについて、様々な行動テストを用いて調べている。活動性や、不安症などは認められないが、他の個体との社会性を示す行動テストは ILC2 が欠損すると強く抑制されていた。

以上の結果は、本来は自然免疫細胞として進化してきた ILC2 が、免疫以外の組織の発達に、IL-4 や IL-13 を介して関与するようになり、その一つが脳内の抑制性シナプス形成を促進して、興奮/抑制バランスを安定させる働きを獲得したことになる。もちろん ILC2 は様々な外界の刺激にも反応するので、新生児期の感染は脳発達に影響が及ぶ可能性があるので、これからは発達期の髄膜 ILC2 は注目していく必要がある。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月2日 アルコール毒を除去してくれる ALDHがオウムの鮮やかな赤い色の決定要因になっている(11月1日 Science 掲載論文)

2024年11月2日
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これまで3回、オーストラリアに鳥や動物を見に行って、名前が覚えきれないぐらいの鳥を見たが、なんと言ってもカラフルなオウムやインコの印象が強い。典型はゴシキセイガイインコで、カミさんが撮影した写真を掲載する。これからわかるように。緑、青、橙、黄色と本当に美しい。

これほど複雑な色合いを、マウスのようにメラニンだけでは到底説明はつかない。これまでの研究で、赤、橙、そして黄色まではオウムやインコ独自で合成する Psittacofulvins と呼ばれる色素がベースになっていることがはわかっていたが、異なる色を作る化学的基盤についてはよくわかっていなかった。

今日紹介するポルトガル・ポルト大学、米国ワシントン大学から共同で発表された論文は、Psittacofulvins からどのように黄色から赤までの様々な色が作り出せるのかを明らかにした研究で、11月1日号 Science に掲載された。タイトルは「A molecular mechanism for bright color variation in parrots(オウムの鮮やかな色の多様性の分子メカニズム)」だ。

研究では、まず様々な色彩の羽の化学分析から Psittacofulvins 分子の末端基がアルデヒドの場合は赤く、それがカルボン酸基になるほど黄色(緑も同じ)になることを発見する。

とすると、まさに色の多様性を決める酵素はアルデヒドデヒドロゲナーゼ (ALDH) 、すなわちアルコールからできるアルデヒドをカルボン酸に変えて無毒化してくれる酵素と同じということになる。そこで、羽を形成する羽囊細胞で発現している ALDH を探索し、ALDH3A2 が Psittacofulvins のアルデヒドをカルボン酸に変える酵素であることを突き止める。

一羽のオウムで濃い緑の羽根、薄緑の胸、そして真っ赤な頭それぞれで、ALDH3A2 の発現を見ると、見事に真っ赤な頭では ALDH3A2 の発現は低く、濃い緑の羽根で最も高いことから、間違いなく ALDH3A2 の発現量が羽の色を決めている。

次の課題は、ALDH3A2 が赤から黄色までの遺伝的多様性を種ごとに決めているメカニズムになる。幸い、交雑可能な同じ種で、赤いオウムと黄色いオウムが存在しており、それぞれの羽囊細胞、特に分化して羽を形成する分化した細胞で ALDH3A2 の発現量が大きく異なっており、これを決めているのが遺伝子発現に関わる調節領域の多型であることを突き止めている。

この結論をさらに突き止めるため、遺伝子調節領域のクロマチン構造や、結合転写因子についても詳しく調べているが、割愛する。結論をまとめると、極めて多様なオウムの色彩も、赤から黄色(緑)の変化については、ALDH3A2 の発現レベルが決めており、Psittacofulvins のアルデヒドとカルボン酸修飾のバランスで全て決まっているという結果だ。

もちろん羽の色だけでなく、模様の遺伝的基盤についても解明する必要があるが、色は多様に見えても、比較的シンプルなメカニズムで調節されているようだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月1日 幹細胞は様々なエピジェネティック不安要素に備える必要がある(10月29日 Cell 載論文)

2024年11月1日
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毛根は多分化能を持つ幹細胞システムだが、これがなくなっても実験室のマウスは生きられるので、全身でノックアウトすると致死的な分子でも、毛根幹細胞系では研究がしやすい。特に毛根幹細胞は増殖と安定な休止期を繰り返すことから、幹細胞維持に必要な分子について多くの研究が行われ、またこのブログでも紹介してきた。

今日紹介するテキサス大学 MD アンダーソン ガン研究所からの論文は、内因性レトロウイルスを抑制しているエピジェネティック過程の調節因子の一つをノックアウトすると毛が消失してしまう原因を追及し、内因性のレトロウイルスの一部が、幹細胞システムにとって有害であることを示した研究で、10月29日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Stem cell activity-coupled suppression of endogenous retrovirus governs adult tissue regeneration(幹細胞の活動とリンクして内因性レトロウイルスを抑制することが生体の組織再生に重要な働きを演じている)」だ。

この研究では、幹細胞が増殖休止を繰り返すとき DNA メチル化に関わるエピジェネティックな変化が起こり、このとき内因性のレトロウイルスを再活性化する危険があるため、これを抑制するメカニズムを幹細胞システムが持っているはずだと仮説を立てた。そして、これまで内因性レトロウイルスの抑制因子として知られるヒストンメチル化酵素 SETDB1 を毛根特異的にノックアウトしてみると、期待通り増殖期幹細胞が死にやすくなり、結果ヘアサイクルの期間が短くなり、最終的に毛が失われることを発見する。実際毛母の増殖細胞では、カスパーゼの発現が上昇して、細胞死が亢進していることが観察される。

この増殖幹細胞死の原因を探ると、期待通りマウスゲノムに最近組み込まれたばかりの内因性のレトロウイルスが再活性化し、ウイルス粒子まで合成されていることがわかる。言い換えると、ほぼウイルス感染と同じ状態が起こっている。そこで HIV などに用いられる抗ウイルス剤を投与してウイルス活性を抑制すると、ヘアサイクルを正常化させることができる。また、ウイルスに対する防御センサー AIM2 分子をノックアウトしても、毛根幹細胞の減少を抑えることができるため、細胞内で抗ウイルス反応が誘導され、炎症的細胞死が誘導される可能性が高い。

では直接ウイルスが細胞を傷害しているのか調べるとそうではなく、細胞死の原因はウイルスの複製と転写が活発に起こるため、転写と複製の競合しておこる DNA 損傷が、特に増殖幹細胞で高まり、これが細胞死の原因であることを突き止める。以上の結果は、SETDB1 が存在しないと、幹細胞増殖期に内因性レトロウイルスが活性化するのを抑えきれず、ウイルスの転写と複製が活発化し、その結果起こる DNA 損傷が細胞死を誘導していることを示している。

とすると、最後に残った問題は、内因性レトロウイルスのエピジェネティックな抑制が増殖期の幹細胞で特異的に外れるメカニズムになる。内因性レトロウイルスは通常 DNA メチル化により抑制されている。増殖幹細胞では、メチル基をハイドロオキシメチル基に転換する酵素TETが上昇しており、これを欠損させると、SETB1 が存在しない動物でも毛根は正常化することから、TET による脱メチル化反応がウイルス活性化に関わっている。そして、TET によりハイドロオキシメチル化されようとしている領域のヒストンを SETB1 が抑制的に変化させて、染色体を閉じて、ウイルスの活性化を抑制していることを明らかにしている。

実際には、SETB1 により誘導される H3K9 メチルヒストンの関わりを詳細にしらべ、さらに幹細胞の運命を決定する転写因子との関わりを調べて、なぜ増殖期幹細胞だけで、しかも完全なウイルス機能を持つ内因性レトロウイルスだけを SETB1 が抑制するのかについて詳細に検討されているが、ここでは割愛する。

以上の結果は、私たちのゲノムは常に新しいレトロウイルスに晒され、これに対してゲノムに組み込まれるとすぐにエピジェネティックに抑制仕組みを我々は備えているが、増殖、休止を繰り返す幹細胞では、通常の DNA メチル化だけでは新しく組み込まれたウイルスの抑制が外れやすい。そのため、ヒストン修飾を介する別ルートの抑制システムが用意されたことを示している。

まさに、利己的遺伝子とホストゲノムのバトルが新しい進化の引き金を引く面白い例だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月31日 免疫リボゾームを可能にするメカニズム(10月21日 Cell オンライン掲載論文)

2024年10月31日
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免疫リボゾームという概念がこれまでも提唱されている。すなわち、一部のリボゾームが機動的に免疫反応特異的にリクルートされ、様々なサイトカインが関与して起こる反応に必要なタンパク質を機動的に作っているという考えだ。実際、考えてみると mRNA の量でだけ翻訳が決まるとすると、免疫反応のように抗原やサイトカインに反応して様々なタンパク質を急速に用意するのは簡単ではなく、今必要な mRNA を必要とされるときに優先して作る仕組みがあることは望ましい。

今日紹介するオランダ ガン研究所からの論文は、免疫リボゾームが存在するはずだという信念で、サイトカインに反応して免疫に関わる分子の翻訳が特異的に高まる可能性を探り、P-Stalk と呼ばれる翻訳の速度や正確性を調節している分子により実現していることを明らかにした面白い論文で、10月21日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「P-stalk ribosomes act as master regulators of cytokine-mediated processes(リボゾームから突き出た P-stalk はサイトカインにより媒介される過程のマスター調節因子として働いている)」だ。

もし免疫反応に必要な分子が優先的に翻訳されるなら、サイトカインの刺激によりリボゾームで飜訳されている分子を調べると、他の分子に比べ、免疫反応に関わる分子の飜訳が高まっているリボゾームが存在し、そのリボゾームと他のリボゾームは構成しているリボゾームタンパク質に差があると考えられる。そこでメラノーマを様々なサイトカインで刺激すると、期待通りクラス I MHC をはじめとする抗原提示に必要な分子の翻訳が高まる。選択的な免疫リボゾームが存在する可能性を強く示唆する。そこで、サイトカインで刺激したときだけにリボゾーム起こる分子変化を探索した結果、p-Stalk として知られる構造の構成因子 P1 分子がサイトカイン刺激によってもう一つのタンパク質 P2 と結合し、それがリボゾームに統合されることを発見する。すなわち、サイトカインに反応してリボゾームの構造が変化する主役が、P-Stalk の形成になる。

そこで、実際に P-Stalk がサイトカイン刺激時のリボゾームの機動性を担っているのか調べる目的で siRNA を用いたノックダウン実験を行っている。P1 をノックダウンしたメラノーマ細胞では HLA タンパク質の発現が強く抑制され、その結果機能的にもT細胞を刺激する活性が強く抑制されることを明らかにしている。この間、ハウスキーピング分子などの飜訳には特に影響がないので、サイトカイン刺激により、免疫刺激に関わる分子がより選択的に飜訳される。実際、サイトカインにより形成された P-Stalk により翻訳が促進される分子の7%は免疫関連で、これらは翻訳されている全タンパク質のなかでは0.6%に過ぎない。

最初の実験はメラノーマで行っているが、どの細胞を使っても、またインターフェロン、TNF、IL17 などほとんどのサイトカインで同じように P1 と P2 の会合とそれに続く P-Stalk 形成が誘導される。また、細胞はガン細胞に限らず、本来免疫刺激の役割を担っている、正常マクロファージや樹状細胞でも同じことが起こる。

最後に、P1/P2 の会合の分子メカニズムを調べている。その結果、サイトカインは P1/P2 会合を阻害しているタンパク質リン酸化を何らかの経路でブロックすることで、P1/P2 会合を誘導することがわかった。面白いのは、例えば TGFβ のようなサイトカインとは逆の反応を起こす分子は、P1/P2 のリン酸化を誘導して、両者の会合をブロックし、急速に免疫に関わる分子の翻訳は低下する。

以上が結果で、リボゾームも P-Stalk 形成により、ある程度選択的に翻訳を高めることで、細胞の急速な変化を支えていることが明らかになった。残念ながら、なぜ特定の mRNA だけが P-Stalk -リボゾームにリクルートされるのかのメカニズムはわからないままだが、ガンの免疫逃れを考える上でも面白い発見だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月30日 GLP-1 受容体刺激剤使用対象の止めどない拡大(10月22日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)

2024年10月30日
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2023年の医学の最大トピックスは、抗肥満薬としての GLP-1 受容体アゴニストの快進撃で、体重を低下させるだけでなく、インシュリン抵抗性まで改善が見られるという研究結果が相次いで発表された。その結果、GLP-1 受容体アゴニスト (GRA) が品薄になり、この薬剤の本来の治療対象だった2型糖尿病患者さんに薬剤が回らないという事態にまで至った。

ただ、この快進撃は今年も止まらず、糖尿病や肥満から、その適用がさらに拡大する有様になっているので、簡単にまとめておく。

まず読んでほしいのは、9月26日号の Nature に掲載されたレポートで、

、「どうして抗肥満薬はこれほどたくさんの病気に効果を示すのか」というセンセーショナルなタイトルがついている。

実際、2型糖尿病の罹患者の数は天文学的なので、GRA で治療したグループと、そうでないグループに分けて、一つの病気の罹患頻度を比べると、GRA の効果が推定できることが多く、それまで考えられたことのない病気への GRA の効果が報告されるようになった。

最近ケースウェスタン大学から発表された例は、アルツハイマー病にかかっていない糖尿病患者さんを追跡し、3年目にアルツハイマー病の診断がついた患者さんを、GAR 治療群とそれ以外で比べると、AD と診断される確率が50%程度の低下するという結果だ。

これを受けて糖尿病とは切り離して、治療治験が行われており、その結果も近々現れるだろう。

実際パーキンソン病については、糖尿病から切り離して偽薬を用いた無作為化治験が今年4月 The New England Journal o Medicine に発表された。

結果は、MDS-UPDRS という指標で調べると、12ヶ月目で運動機能のコントロールは3ポイント低下したのに、GRA 使用群は全く低下しなかった。これは第2相の試験なので、さらに大きな治験が行われていると思う。

さらに驚くのは麻薬やアルコールの中毒を抑えられる可能性で、米国 NIH の研究グループが JAMA Network Open に9月25日オンライン発表した論文では、米国で乱用され問題になっているオピオイド・オーバードーズに陥る患者さんが GRA 利用で強く抑えられるという結果が発表されている。

このように神経系だけでなく、今日最後に紹介するオランダ フロニンゲン大学を中心とする国際チームが10月22日 Nature Medicine に掲載した論文は、これまで糖尿病性腎症を対象に GRA の効果が示されてきた慢性腎症 (CKD) を、糖尿病の合併がない CKD 患者さんを対象に効果を確かめた治験だ。

この研究では、糖尿病に罹患していない HbA1c が平均5.7の CKD 患者さんを50人づつに分け、片方は GRA としてセマグルタイド、もう片方は偽薬を投与。約半年、24週間、eGRF や urine albumin-to-creatinine ratio (UACR) の変化を追跡している。

結論は明確で、eGFR は SGLT2 治療と同じで、セマグルタイド群でも初期の低下が見られるが、これは正常化する。SGLT2 の方は糸球体の生理から説明がついているが(Youtube 解説を参照してください:https://www.youtube.com/watch?v=Z6Tsb4AvU1Q&t=3s ) GRAでも同じようなパターンが得られるのは面白い。

24週という短い時間で明確な効果が見られたのが UACR で、投与群では24週で50%の低下が見られている。すなわち尿タンパク質量が低下している。この指標は通常糖尿病の合併のある患者さんの腎機能を知るために使われるが、今回の対象は全く糖尿病の既往がない。しかし、25%低下すると腎不全の確率が抑えられることが知られており、糖尿病とは関係なく50%低下を達成できたことは大きい。ただ、メカニズムは明確ではない。

以上、最近報告された論文をピックアップして紹介したが、Nature のレポートが報告しているように、ほとんどの病気が GRA の対象になる勢いだ。神経系に関しては、代謝改善、炎症抑制が合わさった効果と考えられるが、まだまだメカニズムはわからない。いずれにせよ快進撃がどこまで続くか期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月29日 高地文明を無人機とレーザースキャンで白日に晒す(10月23日号 Nature オンライン掲載論文)

2024年10月29日
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レーザーを照射して返ってくる光をキャッチするまでの時間から距離を計算するリモートセンシング技術は Light Detection and Ranging (LiDAR) 、例えばゴルフでグリーンまでの距離を測る機器として一般にも出回っているが、地図の作成には欠かせない技術になっている。さらに、森林に覆われた対象物のように、森林の表面からの反射と、その奥からの反射を計算して隠れた構造物をcm単位で明らかにできる技術へと発展しており、軍事だけではなく様々な用途に広がりを見せており、このリモートセンサーを積んだヘリコプターでスキャンすることで、アマゾンの森林の中に隠されていた伝説の都市機構が発見された考古学的発見については以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/19737)。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、ヘリコプターの代わりに、今や戦争の主役に躍り出た無人機に LiDAR を搭載して、探索がしにくい高地に存在した都市機構を、ウズベキスタンで発見し、解析した研究で、10月23日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Large-scale medieval urbanism traced by UAV–lidar in highland Central Asia(中央アジアの高地で中世の大規模都市機構を無人機―LiDARを用いて追跡した)」だ。

今回研究対象となったウズベキスタン Tashbulak と Tugnubulak の2000mから2500mの高地に都市遺跡が埋もれていることはすでに2011年、2015年にそれぞれ一部が発掘されていた。本来なら長い年月をかけてそのまま発掘が続けられるということになるのだろうが、まずその前に都市の規模と位置を完全に把握する目的で今回の調査が行われている。

この遺跡は森で囲まれたアマゾンの遺跡とは異なり、実際には様々な堆積物で埋まってその上を草が覆っているという、大きな丘が対象になる。写真が示されているが、一部を除くと、ただの丘にしか見えない。このようなケースでも、LiDAR が威力を発揮できるとすると、今後同じ方法がさらに大きな発見につながる可能性があると思う。その意味で、今後実際の発掘が進むこの遺跡を、LiDAR で調査し、方法を検証することの意味は大きい。

実際に発掘して確かめた結果ではないので、測定結果を処理して画像に仕上げるまでの過程が最も重要な問題になる。ただこの評価は専門外の私には難しい。ただ輪郭線から計算され再構成された立体画像は驚く精度で、ここでも AI が活躍する。そして、明らかになったのは、12ヘクタールの要塞型都市構造だ。この構造の中には、要塞の壁、都市の道路、広場、様々な構造の建物などが含まれている立派な都市だ。時代測定から中世に存在したことが確認されており、一部の100ヘクタールを超す要塞都市を除外すると、当時では都市のサイズとしても大きな方に属する。

その結果考古学的問題として浮き上がってきたのは、これほどの都市遺構が存在するにもかかわらず、人の住居のあとが見当たらない点で、常に住人が行き来するという現在の都市からはほとんど考えられない。もちろん想像の域を出ないが、遊牧民がテント生活をしながら、夏の間だけ成立させていた都市があるなら、その例になる可能性がある。実際、周辺で農耕活動は極めて低く、住民が牧畜を中心としていたことがわかっているので、この可能性は十分ある。

以上が結果で、実際の発掘が進むことでこの技術の有効性が明らかになる。その結果を是非知りたい。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月28日 突然変異によるクローン性造血細胞は骨髄移植のホストでドナーよりよく増殖する(10月23日 Science Translational Medicine 掲載論文

2024年10月28日
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昨日は遺伝子導入したあとの骨髄幹細胞移植の動態を長期に観察した研究を紹介したが、細胞レベルでは遺伝子が導入されていても自家移植についての観察だ。今日も昨日に続いて移植した骨髄幹細胞の追跡実験を紹介する。

米国、フレッドハッチソン癌研究所からの論文は、一般的なアロ骨髄移植を受けた後6.6年から45.7年まで、平均観察期間33.8年経過したレシピエント内の血液細胞をに見られる体細胞突然変異や、クローン性増殖を、同じ時期に採取したドナーの血液と比べた研究で、10月23日 Science Tranlational Medicine に掲載された。タイトルは「Characterization of clonal dynamics using duplex sequencing in donor-recipient pairs decades after hematopoietic cell transplantation(duplex sequencingを用いて、骨髄移植後何十年もたったあとのドナーとレシピエントのペアの血液クローンの動態を調べる)」だ。

レトロウイルスなどの細胞標識を用いないと移植した細胞を追跡できなかったのは昔のことで、現在では deep sequencing と呼ばれる同じ箇所を何度も読むことで低い変異を検出する方法を用いると、細胞ごとにランダムに起こる体細胞突然変異の組み合わせから、変異クローンを特定することができる。さらに、タイトルにある Duplex sequencing と呼ばれる、ペアリングしている DNA の配列を両方の鎖で読んで比べることで、配列解読に伴うエラー率を一千万分の一にする技術を使って変異を探すと、これまでよりかなり高い率で体細胞突然変異を特定することができる。

この研究ではタンパク質へと翻訳される遺伝子で見られる変異に絞って duplex sequencing を行い、急性骨髄性白血病リスクとしてリストされている変異に注目して調べている。骨髄移植時、そして長期間経過したあとの2時点で変異を調べることで、白血病リスク変異の発生率、そしてその結果として幹細胞の増殖能力が高まった結果起こる老化で、現在、最も注目されているクローン性増殖の発生の頻度を把握することができる。

さらに面白いのは、移植したリシピエントと同じ造血系を持つドナーを、長期間経過した後、同時に調べることで、移植という強いストレス状態で変異が起こりやすいか、そしてクローン性増殖については差があるのかなど調べることができる。

16人という限られた数での結果だが、まず驚くのはこれまでクローン性増殖が誘導される原因とされてきた体細胞突然変異が、移植時のドナー細胞でかなりの確率で見られることで、高齢者のドナーほど変異の頻度が高くなるのは間違いないが、小児のドナーでもクローン性増殖が見られる(ドナーの年齢が12歳から64歳まで大きくひろがっているのは、家族間の移植が含まれているのだろう)。いずれにせよクローン性造血がこれほど若い児童に見られることは、造血システムのもつ、変えることのできない性質といえることを示唆している。

次に移植後に起こる変異が、ドナーとレシピエントで差があるかだが、結論的には全く差はない。一定の率で変異が起こるが、レシピエントで異常が起こりやすいことは全くない。

ところが、クローン性増殖を誘導する変異の場合は、移植されたレシピエントの方でより増殖する傾向があることがわかった。これを調べるのは大変な実験で、移植時に含まれていたクローン性造血変異を持つクローンを特定し、その増大率をレシピエントとドナーで計算して比べる必要がある。シェアされているクローン性造血細胞の数はドナーごとに違っているが、それぞれのクローンの増殖率を平均した指標を作って比べると、多くは移植されたレシピエントで増大するクローンが多い。ただ、レシピエントより、ドナーの方で増殖する変異も存在するので、変異によって環境の影響が異なると考えられる。

例えば、 TET2 や DNMT3A のように DNAメチル化に関わる変異は、レシピエントの方で増殖率が高いが、ヒストンH2K27 のメチル化やアセチル化を調節する ASXL1 遺伝子の変異ではドナーの方が増殖率が高いという結果が出ており、レシピエントとドナーの造血環境がちがっていることは間違いないが、実際に何が起こっているかはわからない。

結果は以上で、新しいゲノム解読技術のパワーに感心するとともに、感度の高い方法を用いることで、クローン性造血は決して特殊なことではなく、造血システムのもつ性であることがよくわかった。そして、ドナーとレシピエントの骨髄環境の複雑な機能的差異も明らかになり、新しく動物モデルで研究されるだろう。16人だけの結果だが面白い。

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10月27日 移植された造血幹細胞の想像以上の可塑性(10月18日 Nature オンライン掲載論文)

2024年10月27日
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造血システムの研究は、幹細胞の分化と自己再生を追跡する方法の開発に大きく依存している。私が研究を始めた1980年代、フランスの Claude Basset やカナダの Robert Phillips がレトロウイルスを造血幹細胞に感染させ、ゲノムへの挿入部位を利用して幹細胞の再生と分化を追跡する技術を報告した論文を読んで、是非使ってみたいとワクワクしたことが思い出される。現代ではもっと洗練されたバーコード法などが使える様になり、しかも single cell レベルでクローンを追跡できるようになっているが、これらの技術ももとをたどれば Phillips や Basset の方法に起原がある。

今日紹介する人間の遺伝子治療を積極的に進めるイタリア・ミラノ、サンラファエロ研究所からの論文は、それぞれ原因遺伝子がわかった metachromatic leukodystrophy、Wiskott-Aldrich syndrome、そして βThalasemia の患者さんの自家造血幹細胞に遺伝子を導入したあと、ブスルファンで造血を抑えた患者さんに戻す治療を行ったあと、治療効果や造血システムの回復について、レンチウイルス+遺伝子が組み込まれたゲノム部位を元に追跡して調べている。まさに、1980年代にマウスで行われた追跡方法が、今治療としてヒトに使われているのを見て感慨が深い。タイトルは「Long-term lineage commitment in hematopoietic stem cell gene therapy(造血幹細胞遺伝子治療でみられたコミットした幹細胞の長期維持)」で、10月18日 Nature にオンライン掲載された。

この研究では、移植を受けた患者さんを、最初は3ヶ月おき、1年目からはほぼ毎年患者さんの血液を調べ、移植した幹細胞からの造血状態を追跡しており、すでに8年近くにわたって観察を続けている。

それぞれの遺伝子治療の経過については期待通りの効果があり、血液系の遺伝子欠損の場合、自己幹細胞にレンチウイルスベクターで遺伝子導入して治療することは可能になっているといえる。そのおかげで、ウイルスベクターの挿入部位の多様性から、人間でも骨髄移植後の幹細胞動態が推測できる。

この方法では効率よく遺伝子導入が行われるため、各検査時に機能している造血幹細胞は1-5万の範囲になる。そして、移植直後からしばらくは多くの幹細胞クローンが機能しているが、1年目ににかけて急速に機能的幹細胞数は低下し、1年後は安定に1万程度の数で造血が行われる。

また、ホストの骨髄造血をブスルファンで抑制しているため、最初は少し分化して各系統へコミットした幹細胞が、すぐに必要な血液を供給できることから、機動的に働いて必要な血液細胞を供給し、その後は定着したより未熟な多能性幹細胞から様々な系統の血液が分化してくる。

しかし、時間がたつと必ず全能性の幹細胞からの造血に集約するかというと決してそうではなく、一人の患者さんで活動している造血幹細胞の半分は全ての系統を作る多能性造血幹細胞由来だが、残りの半分はよりコミットした、一部の系統だけを供給する幹細胞由来であることがわかった。すなわち、8年という時間スケールでは、少し分化して限られた系統だけを作る幹細胞も持続的に働いている。

そしてこのコミットした幹細胞は、それぞれの病気に合うよう選択されており、遺伝子欠損で骨髄系の異常が起こる metachromatic leukodystrophy では、骨髄球系列へコミットした幹細胞の数が増えており、またリンパ球系の欠損が見られる metachromatic leukodystrophy ではリンパ球造血へコミットした幹細胞が増えており、赤血球異常の βThalasemia では赤血球系へコミットした幹細胞が選択的に維持されていることがわかった。もちろんメカニズムは検討されていないが、多くのクローンの中から、特にそれぞれの病気で必要な系列の血液幹細胞が造血ニッチが提供されていることになる。

結果は以上で、コミットした幹細胞を長期に使うことで、その中から病気治療に必要な系統の血液がより効率的に合成できるよう選択されているという結果だ。骨髄幹細胞への遺伝子治療による遺伝子治療法がここまで進んでいるかと言う感慨とともに、我々の造血系が必要に応じてプログラムを変えられる可塑性を持っていることに感心した。

しかし何よりも、Basset や Phillips が始めたレトロウイルス標識法が、治療という現場を借りて、ヒトでも実際に行えるという事実に、私の世代はおそらく興奮すると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月26日 クマムシの放射線抵抗性(10月25日 Science 掲載論文)

2024年10月26日
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昨日に続いてユニークな生物についての研究を紹介する。今日紹介する北京プロテオーム研究センターからの論文は、クマムシがなぜ放射線照射に強いかを、ゲノムをはじめとする様々なオミックスを組み合わせて調べた研究で、クマムシの驚くべき強さを知るという意味では、かなり面白い研究だと思う。タイトルは「Multi-omics landscape and molecular basis of radiation tolerance in a tardigrade(クマムシの放射線耐性のマルチオミックスから見た分子基盤)」で、10月25日 Science に掲載された。

クマムシはなんとなく一種類という先入観があるが、実際には何種類も存在し、この研究では long read も加えて新しく解読したゲノムをこれまでのデータと比べ、系統樹を描いている。これにより、遺伝子発現を調べるための基盤が作成できるとともに、各遺伝子の保存状況が明らかになり、重要な機能をゲノムから推察することができる。

さて驚くのはここからで、放射線を 200Gy、2000Gyと照射したときに誘導される遺伝子を調べている。しかし、2000Gy も照射して生きているというのが驚きで、しかも照射によって2801個もの遺伝子の発現が変化し、その多くは発現が落ちるのではなく、上昇する。 さらに驚くのは、200Gy から2000Gy へ線量を上げると、変化するのは同じ遺伝子だが、発現量がさらに上昇する。すなわち、線量を感知して発現を上昇させることができる。このように、多くの遺伝子を線量に合わせて放射線への耐性を獲得している。

研究では2801個の中から、おそらくバクテリアなどから水平遺伝子伝搬してきて放射線で強く誘導される遺伝子の中から 4,5-DOPA dioxygenase1 (DODA1) に着目してその機能を調べている。この酵素は betalain と呼ばれる植物の赤い色素を合成する酵素で、この合成系を導入するとヒト細胞でも betalain を合成するようになり、その結果放射線耐性が獲得され、放射線による DNA 分断が大きく減少する。この効果の一つは直接 DNA 損傷を抑えることだが、もう一つは活性酸素の誘導も強く抑えることができ、結果として DNA 損傷が抑えられる。このように、重要な酵素を水平伝搬により獲得し、クマムシの放射線耐性が実現している。この研究のゲノム解析から、クマムシでは459種類の遺伝子が水平遺伝子伝搬により獲得されたと考えられ、他からの遺伝子を積極的に使うことが放射線耐性に大きく寄与している。

次に 2000Gy を照射したときにクマムシ特異的に誘導される遺伝子の中から、放射線抵抗性やストレス反応に関わるとされている3次元構造がとりにくい分子を探索し、TRID1 を特定し、その機能を探っている。これも驚くべき分子で、それ自身で相分離することで、DNA 損傷箇所の分子コンプレックスの濃度を上げる役割があり、この分子をノックダウンするとクマムシも放射線で死ぬことを明らかにしている。

このようにクマムシ特有のメカニズムだけでなく、放射線照射で誘導される遺伝子の中には、ミトコンドリア呼吸チェイン分子群の発現上昇が目立つことに注目し、ヒト培養細胞にこの遺伝子の一部を導入することで、放射線耐性が生まれることを示している。この酵素群では NAD が合成され、DNA 損傷箇所に PARP1 をリクルートして修復を高める役割を持つことを明らかにしている。

以上が結果で、ここで示された3種類の経路は、それぞれ放射線抵抗性獲得に大きな寄与があることが示されることが証明された。実際には検討されなかったもっと多くの遺伝子が、放射線照射で誘導されることを考えると、おそらく他のメカニズムも動員され寄与している可能性は高い。このように、多くのメカニズムを放射線に反応して誘導し、集中的に DNA 損傷を抑えているクマムシの像がよくわかった。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月25日 大蛇の腸の中(10月18日 米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)

2024年10月25日
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考えたことはなかったが、言われてみると蛇の消化器は面白そうだ。というのも、我々のようにかみ砕いて胃に送るのではなく、大きな動物でもまるごと飲み込んで消化する。従って消化に何日もかかると言うことは知っていても、いつどこでどう消化するのかは考えたことがなかった。いずれにせよ、丸呑みにした餌は長く胃にとどまり、骨まで溶かされ、そこから小腸へ少しづつ移動すると想像できる。

今日紹介するテキサス大学アーリントン校からの論文は、解剖学的構造を説明せず、消化に何日もかかる大蛇パイソンの食後の腸の細胞構成変化に注目して、single cell RNA sequencing を用いて解析した研究で、蛇の消化器についの知識不足のため、よく理解できない点は多かったが、蛇という特殊なボディープランをもつ脊椎動物の特殊性と共通性を学べる論文で、物知りになった気分になる。タイトルは「Single-cell resolution of intestinal regeneration in pythons without crypts illuminates conserved vertebrate regenerative mechanisms(Single cell 解像度のクリプトの存在しないパイソン小腸再生は背椎動物共通の再生メカニズムを明らかにする)」だ。

腸の再生というと我々はクリプトに存在する幹細胞の活動を思い浮かべるが、パイソンの腸にはそのようなクリプトは全く存在しないようだ。しかも、消化管に食物が存在しない時期には文字通り痩せ細ってしまう小腸は、食物が入ってくると急に活性化し、ものを飲み込んだあと48時間で小腸の大きさは2倍になり、絨毛の長さは5倍にもなるらしい。ただ、消化管の細胞構成は、我々と大きく異なってはおらず、幹細胞とパネット細胞からなるクリプトの幹細胞システムのようなファインな仕組みはよくわかっていないが、ゴブレット細胞や消化管ホルモン産生細胞などが小腸上皮の中に散らばって存在している。

丸呑みにした餌は胃の中で消化されて少しづつ腸へ送られると想像するが、胃からの刺激で小腸組織の大きな再構成が誘導されるのだろう。ただこの点には言及がない。研究では、食事をおそらく詰め込んだあと、6時間、12時間、1日と極めて短時間の変化を single cell RNA sequencing で調べ、細胞がどう変化するかを調べている。

6時間という極めて早い時間で調べると、最も大きな変化が見られるのが間質細胞で、特に急速に多様化する。例えば、PDGFRα を発現した細胞が現れて絨毛の伸長を助ける点は、我々の絨毛が伸びるのとよく似ており、線維芽細胞が大きな変化の先導役を務めていることがわかる。

この先導役線維芽細胞に導かれ、ゴブレット細胞や上皮細胞の中に幹細胞様の遺伝子を発現した細胞が見られこれが増殖を支えている。このとき、我々の腸の幹細胞と同じで、Wnt シグナルが働いている証拠も認められる。これと平行して細胞の遺伝子発現パターンが大きく変化し、上皮細胞ではこれから襲ってくるストレスに耐えるための遺伝子と、上皮内で脂肪を処理するための遺伝子発現が誘導される。

これも全く知らなかったが、BEST4 細胞として知られる上皮の増殖が他の脊椎動物と比べて特に上昇している点で、発現しているシグナル分子を調べると、上皮以外の様々な細胞の増殖を誘導するための相互作用のハブになっており、特に脂肪吸収に必要なリンパ管形成に重要な働きを演じていることがわかる。我々人間では、この BEST4 細胞は神経刺激、炎症刺激を調節する上皮と考えられているようだ。ただ、タイトルにあるように、増殖要求性や転写因子は我々人間に至るまで共通性も多い。

以上が結果だが、具体的解剖学の理解がないのと、組織学的に示されないと、やはり浅い理解で終わる。いずれにせよ、パイソンの腸を考えてみるという希有な機会になった。

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