1月8日 エボラウイルス粒子の形成過程(12月31日 Cell オンライン掲載論文
AASJホームページ > 2025年 > 1月 > 8日

1月8日 エボラウイルス粒子の形成過程(12月31日 Cell オンライン掲載論文

2025年1月8日
SNSシェア

エボラウイルスの電子顕微鏡 (EM) 写真を見たことがあるだろうか。国立感染症研究所のホームページに掲載されているので(https://idsc.niid.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_32/32_04.jpg)是非ご覧いただきたいが、ひもが絡まったような驚くべき形をしている。これはウイルス粒子がいくつかのユニットタンパク質が束状に集まって紐構造を作るためで、最終的には900nmぐらいの長さに揃っている。

この特異な構造が感染後1日で形成されるが、今日紹介するドイツ ハイデルベルグ大学からの論文は感染後ウイルスが形成される過程を丹念に追いかけた研究で、12月31日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nucleocapsid assembly drives Ebola viral factory maturation and dispersion(ヌクレオカプシドの組み立てがエボラウイルス工場の成熟と分散を主導する)」だ。

Covid-19 で多くの研究者がウイルス研究に参加したおかげで、細胞内でウイルス粒子(ヌクレオカプシド:NC )が形成される過程で、ウイルスの拡散やタンパク質が濃縮した相分離体が形成され、これがウイルス工場として材料を集め組み立てる工場として働くことがわかってきた。

この研究では、細胞内の分子のクライオ電顕など形態学的解析方法を駆使して、相分離体の形成から NC の形成までを丹念に追いかけている。感染後初期から NC ができるまでが詳しく示されているが、詳細は省いてウイルスができるまでの結論だけをまとめることにする。

まず感染によりウイルスRNA が細胞質に侵入すると、ウイルスのポリメラーゼで複製が起こり、RNA が複製されると同時に、ホストのリボゾームを用いてウイルスがコードするタンパク質の合成が始まる。こうしてできたウイルス構成成分は細胞内で相分離体を形成し始める。この相分離体はほとんどの細胞成分からは分離されているが、形成には中間径フィラメント・ビメンチンを必要としている。また、リボゾームは周りに存在して分子を供給する。このように、部品を細胞から調達するウイルス工場が相分離体として独立し、拡大する。

ウイルス粒子成分が集まると、自然に NC の形成が始まるが、最初は構成成分が繋がったらせん構造として現れる。この構造は様々な大きさを持っているが、RNA を中心に核タンパク質と外郭タンパク質のユニットが集まった束構造を形成し、最終的に RNA を含んだ900nmのウイルスが組み立てられる。

細胞工場として働く相分離体は効率よく構成成分が集まれるよう粘性が低いが、束状の NC の形成が始まると、急速に粘性を消失し、工場としての機能が消失し、球状の相分離体は消失する。これによりウイルスの NC は細胞内の様々なシステムと相互作用が可能になるが、特にウイルスの NP40 を介してアクチンと結合することで、ウイルスは細胞膜へと輸送され、さらにアクチンの再構成を介して細胞外にバッディングする。

以上が結果で、ウイルス工場が相分離体として形成され、ウイルスの組み立てを効率化するとともに、組み立て終わるまで隔離していること、そして相分離体を自然に解消することで、細胞膜への移動を可能にするアクチンとの結合が始まることなど、ウイルスの見事な戦略を教えてくれる素晴らしい論文だ。おそらく、工場をうまく攻めることで、エボラ完全制圧も可能になると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年1月
« 12月  
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031