1月20日 人類の祖先アウストラピテクスは殆ど草食だった(1月17日 Science 掲載論文)
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1月20日 人類の祖先アウストラピテクスは殆ど草食だった(1月17日 Science 掲載論文)

2025年1月20日
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初めてのアフリカ旅行で里美が足を骨折して手術を受けたので、やむなくヨハネスブルグに少し長めに滞在した。そのときせっかくの機会なのでどこか行くところはないかと考えたが、ヨハネスブルグは観光客には危険ということで浮かんできたのが、アウストラピテクスが最初に発見されたスタルクフォンテインだった。タクシーを借り切って、里美を車椅子に乗せて洞窟に着くと、さすが車椅子は無理ということで、里美にはドライバーさんとレストランに残ってもらって、私一人洞窟ツァーに参加した(写真はオルドワン型石器と洞窟入り口)。

そこで展示されていたオルドワン型の石器は、骨を割ったりするのに使われていたとされているが、今日紹介するドイツ・マインツにあるマックスプランク研究所からの論文は、歯のエナメルに残っている窒素から、アウストラピテクスは基本的に草食だったことを示した研究で、1月17日号 Science に掲載された。タイトルは「Australopithecus at Sterkfontein did not consume substantial mammalian meat(シュタークフォンテインのアウストラピテクスは哺乳類の肉を多く食べてはいなかった)」だ。

当時の動物が何を食べていたかは考古学的にも最も重要な課題で、アウストラピテクスは犬歯があり、オルドワン型石器を使っていたことから、肉食ではなかったかと個人的には思っていた。ただ、専門家の間では議論が行われていたが、現在肉食か草食かを区別するために使っている窒素同位元素を使う方法は、骨の中のコラーゲンが急速に消失するため難しかった。

この研究のハイライトは、開発が進んだ微量の N15 と N14 を区別する方法を、通常の骨コラーゲンの代わりに安定にマトリックスが残っている歯のエナメル質の有機物測定に使ったことで、これにより200万年以上前のアウストラピテクスの食べ物を調べることができるようになった。

シュタークフォンテーンでは今も発掘が進んでいたが、決して人類の化石だけではなく、同じ時代に生息していた多くの動物の化石も収集されている。これら動物の歯も同時に調べて、アウストラピテクスの N15 の割合は、草食動物と同じレンジで同じ時期に生息している肉食動物と比べると、遙かに低いことが明らかになった。

重要なのは、他の草食動物と比べると N15 の比率が極めて多様な点で、これは現存の類人猿と比べても大きい。従って、現在のチンパンジーのように、哺乳動物の肉を食べることもあったが、基本的には様々な植物の葉や実を食していたと考えられる。

この方法の信頼性は、乳歯のテストでも明らかになっている。早い段階では母乳で育つため、N15 の値が上昇すると予想されるが、出土した乳歯の一本は、殆ど肉食動物並みの値を取っており、信頼性を裏付けている。

さらに、炭素13を調べることでも草食動物と同じであることが確認されている。

もちろん他の地域ではどうなのかなど、これからの研究が必要だが、現在のチンパンジーが基本は草食でたまに狩りをして肉を食べているのに似ていると思う。ただ、動物性タンパク質を多くとることで脳の発達が促されたとされているが、実際にはどうだったのかなど知りたいことは多い。いずれにせよ、食べ物を知るためのパワフルな方法が出てきた。

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