プロトカドヘリンについてはこれまで何回か紹介したと思うが、神経細胞に発現するカドヘリンファミリーの接着分子で同じ分子同士結合するのだが、クラシカルなカドヘリンと異なり、同じカドヘリンと結合すると、細胞膜上でクラスターを形成し、これがアクチンの再活性化を促して神経突起の repulsion を誘導する。このおかげで、同じ細胞に同じ神経突起が結合できないようになっている。このため、一個の神経細胞は一個のプロトカドヘリンだけを発現する必要があるが、最近の研究でこれに染色体3D構造調節が関わることも示されている。
今日紹介するUCLAからの論文は、プロトカドヘリンの一つ γC3 が神経細胞ではなくアストロサイトに強く発現している意味を極めてマニアックな実験で示した研究で、5月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Astrocyte morphogenesis requires self-recognition(アストロサイトの形態形成に自己認識が必要)」だ。
これまでプロトカドヘリンというと神経細胞を中心に研究されてきたが、実際にはアストロサイトやミクログリアにも発現が認められることが知られている。この研究では、アストロサイトが γC3 プロトカドヘリンだけを強く発現しているのに注目し、この発現がアストロサイトの機能に必須かどうかを調べるため、まず γC3 遺伝子をノックアウトして調べると、神経発生やアストロサイト同士の関係性にほとんど変化は認められないが、突起を広く伸ばしたアストロサイトの形態が大きく変化し、突起の広がりが減少し、突起間の感覚が減少し、縮こまった感じになることを発見する。
あとは、この変化が γC3 同士の結合、homophilic adhesion によるものかどうかを調べるため、γC3ノックアウトマウスにアストロサイト特異的に様々な構造をもつ γC3 の変異体を導入して、アストロサイトの形態を正常化できるかどうか調べている。
完全ノックアウトマウスのアストロサイトに正常の γC3 を戻すと完全に形態は正常化する。しかし、homophilic adhesion 機能を欠損した γC3 変異体では全く正常化しない。他にも、様々なプロトカドヘリンのドメインを交換して分子構造は異なるが homophilic adhesion は維持されている γC3 を導入する実験を組み合わせて、homophilic adhesion が形態形成に必須であることを示している。
実にプロトカドヘリンを知り抜いたマニアックなプロの実験だが、紹介はこの程度でいいだろう。要するに、アストロサイトは神経とは異なるプロトカドヘリンを強く発現することで、自分の形態を維持していることになる。
メカニズムや、アストロサイト形態異常が神経機能にどう影響するのかについてはほとんど調べられていないが、神経と同じで homophilic adhesion が突起同士の反発に関わるとすると、自分の突起が自分に結合するのを防ぐというプロトカドヘリンの性質をうまく使って、細胞突起を広く広げるのに使っていることになる。しかし、神経機能に及ぼす影響が気になる。