6月16日 セントラルトレランスの進化と胸腺:ヤツメウナギもトレランス機構が存在する(6月11日 Nature オンライン掲載論文)
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6月16日 セントラルトレランスの進化と胸腺:ヤツメウナギもトレランス機構が存在する(6月11日 Nature オンライン掲載論文)

2025年6月16日
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このブログでもすでに4回紹介するとともに、YouTube 配信も行った「胸腺上皮細胞が体内に存在する様々な細胞の転写」を再現することで発生途中のT細胞に自己抗原を提示し、トレランスを誘導するという巧妙なメカニズムが存在する。マウスの場合、胸腺上皮の発生過程から生後1ヶ月まで、上皮は身体の組織を真似た転写を行う真似細胞として胸腺細胞を教育するのだが、それぞれの身体の真似細胞が発生する詳しい過程はまだわかっていないことが多い。

今日紹介するドイツフライブルグにあるマックスプランク免疫学・エピジェネティックス研究所からの論文は、胸腺発生に重要な Foxn1 の真似細胞の発生での役割を調べることで、真似細胞が必ずしも正常胸腺発生に依存しないことを示すとともに、胸腺が無いとされているヤツメウナギでも体内組織の真似細胞を形成してセントラルトレランスを誘導する仕組みがある可能性を示した研究で、6月11日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Developmental trajectory and evolutionary origin of thymic mimetic cells(胸腺の真似細胞の発生過程と進化起原)」だ。

この研究は Foxn1 がヌードマウスの原因遺伝子であることを明らかにしたトマス・ベーム研究室からで、お得意の胸腺発生過程での様々な組織を代表する真似細胞の出現を詳しく調べている。その結果、筋肉や繊毛細胞,浸透圧調節細胞のように進化の早くから存在する細胞については発生の初期から、そして皮膚や肝臓細胞のような脊椎動物以降の組織では生後に真似細胞が現れることをまず発見する。

即ち発生は進化を繰り返すというドグマにまさに合致しているので、今度は Foxn1 をノックアウトしたマウスで真似細胞を調べると、繊毛細胞などの進化的に古い細胞に対応する真似細胞は Foxn1 非依存的に発生することを発見する。

以前も紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/2083)、顎や胸腺が存在しないヤツメウナギにも Foxn1 のパラログ Foxn4 が存在し、マウスの Foxn1 を Foxn4 に置き換える実験を発表しているが、真似細胞の観点からもう一度 Foxn1 が Foxn4 に置き換わったマウスを調べると、なんと進化の後期に現れる肝臓や膵臓、皮膚に対応する真似細胞が強く抑制されることを発見した。

ヤツメウナギからサメへの進化過程で、魚は Foxn1 と Foxn4 を発現するようになると同時に、肝臓や膵臓といった臓器が発生してくるが、これらに対応する真似細胞を効率よく発生させるために Foxn1 が進化してきた可能性を示唆している。

とすると、胸腺が存在しないナメクジウオでもT細胞が集まる胸腺様原基に同じような真似細胞の発生が起こっている可能性があり、調べるとミオシンや肝臓の TTR 遺伝子が原基に限局して発現しているのを明らかにしている。

さらに、Foxn1 と Foxn4 を両方発現するゼブラフィッシュから Foxn1 をノックアウトすると、筋肉や浸透圧調節細胞といった進化の古い細胞に対応する真似細胞が多くなることを示している。

以上が結果で、実際には完全にシャープに分かれるわけではないが、我々とは全く異なる免疫系を持つナメクジウオでも、同じように真似細胞が必要で、胸腺発生以前からセントラルトレランスメカニズムが存在したことを示す、トマス・ベームらしい研究だと感心した。

カテゴリ:論文ウォッチ
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