2月28日 X染色体から見るネアンデルタール人と現生人類の生活様態(2月26日号 Science 掲載論文)
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2月28日 X染色体から見るネアンデルタール人と現生人類の生活様態(2月26日号 Science 掲載論文)

2026年2月28日
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我々現生人類 (anatomical modern human:AMH) のゲノムにはネアンデルタール人 (NM) のゲノムが紛れ込んでおり、一人の人間ではゲノム全体の2%程度ぐらいの量でも、今生きている人間全てに紛れ込んでいるNMゲノムを探していくと、ほとんどNMゲノム全域をカバーする断片を特定できる。即ち、交雑したときのNMゲノムは何万年も経つ間に断片化されていても、現在の人間にしっかりと受け継がれていることになる。とは言え、X染色体には neanderthal desert と呼ばれる世界中の人を調べてもNMゲノムが存在しない箇所が存在する。

何故このようなことが起こるのかについて、一つはNMのX染色体にコードされる遺伝子がAMHと比べて生殖能力に劣るからと言う自然選択説と、交雑時のバイアス、すなわち交雑時にAMHのメスが選ばれる確率が高いとする性バイアス説が存在していた。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、この問題に対しNMのX染色体に導入されたAMHゲノムを調べることで、単純な自然選択説を否定するとともに、NHとAMHの交雑時の好みの問題がNM desertの原因である可能性を明らかにした研究で、2月26日号 Science に掲載された。タイトルは「Interbreeding between Neanderthals and modern humans was strongly sex biased(ネアンデルタール人と現生人類の交雑は強い性バイアスが存在した)」だ。

単純に自然選択説が働いてこの現象が起こるとすると、NMのX染色体を調べると、desert領域に選択的にAMHゲノムが挿入されているはずである。研究ではまずこの可能性を、Altai、Vinja、ChagyrskayaのNMゲノムと、NMとの交雑のないサハラ以南のホモサピエンスゲノムの解析結果から計算している。

その結果、Altai NMの女性には広くAMHのゲノムが入り込んでいるが、desert領域選択的に置き換わっているわけではないこと、また自然選択に関わるコーディング領域やエンハンサー、プロモータと言った遺伝子機能に関わる部位より、機能のない領域により多く置き換えが見られることから、自然選択は考えにくいと結論している。

驚くことに、Altai NMの常染色体とX染色体でのAMHゲノムの置き換え比率を調べると、X染色体の方が1.62倍も多く置き換わっている。しかし既に述べたように、機能的領域は逆に置き換えが少ないため、このX染色体にみられる2倍近い置き換えを説明するには、自然選択ではなく、何らかの性バイアスが働いたと考える必要がある。

問題は、一度の交雑で発生するバイアスは、オスが1X, メスが2Xとして計算するとNMオスからメスへの交雑でAMH Xが優勢になる確率は高々4/3=1.33なので、NMに見られる1.6のような高い比率を説明するためには、例えばNMのオスがAMHのメスをNMのメスより好むと言った状況が生じる必要がある。研究では、例えば25万年前にNMに導入されたAMHのオスの遺伝子が、NM集団に好まれるメスのタイプを発生させ、そこで出来上がったAMHのメスへの嗜好性が、AMHのメスを集団に取り込んで一緒に暮らした可能性まで様々なシミュレーションを行い、AMHのメスがNMのオスに何らかの理由で好まれたと考えるのが、一番現象を説明できると結論している。

逆に、NMから入ったX染色体遺伝子はAMHのオスにも好まれなかったと考えると、NM desertが存在するのも説明できる。

もちろん「好まれる」というのが単純に「かわいい」と言った話でないとは思うが、今後NM X desertに存在する遺伝子から生まれる形質の変化が予測できると、当時のオスの異性への嗜好性の理由、あるいはAMHのメスの生物学的優位性の特定も可能になる。

これまでNMとAMHの交雑というと、道すがらの強姦と言ったイメージを持っていたが、この論文を読んで、NMとAMHが一つの集団として一緒に生活する可能性すらある事がよくわかった。面白い。

カテゴリ:論文ウォッチ
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