3月17日 驚くことに卵子の透明体構成成分 ZP2 が人間の小脳で発現している(3月11日 Cell オンライン掲載論文)
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3月17日 驚くことに卵子の透明体構成成分 ZP2 が人間の小脳で発現している(3月11日 Cell オンライン掲載論文)

2026年3月17日
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モデル動物を人の代わりに使う前提には、調べたい細胞で遺伝子やタンパク質の発現の差があまりないと言う期待がある。しかし、マウス、サル、類人猿、人類と進化する間に消失した遺伝子も、新たに獲得した遺伝子も存在する。さらに、遺伝子発現を詳しく見ると、同じ遺伝子は持っていても、人間と類人猿の間ですら違いを認めることができる。この違いが、人間を他の動物から分かつ要素だが、まだまだ研究は進んでいない。

今日紹介するイエール大学からの論文は、小脳に絞ってサルや類人猿と比べた時、人間だけで見られる遺伝子発現について調べる中で、なんと卵子を取り巻く透明体を構成するタンパク質の一つ ZP2 が小脳の顆粒細胞で発現し、生後に進むシナプス形成が過剰に起こらないよう調節しているという、ちょっと驚くべき話で、3月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Human-specific features of the cerebellum and ZP2regulated synapse development(小脳の人間特異的特徴と、ZP2によるシナプス形成の調節)」だ。

小脳は美しい構造を持っており、これをイメージして貰うため、GPTが書いたイラストを添えておくので、これを見ながら読んでほしい。断っておくが、私の使っているGPTから生成されるイラストは日本文字がおかしいので、そこは無視してほしい。

この研究では人間、チンパンジー、アカゲザル、マーモセットの小脳細胞から核を調整してRNA sequencing と Atac-seq で遺伝子発現とクロマチンの構造を調べ、人間だけに見られる特徴を探索している。多い少ないはあっても、小脳には同じ種類の細胞が特定され、またそれぞれの細胞での遺伝子発現には大きな差がない。しかし、小脳で最も多い顆粒細胞だけは、種による遺伝子発現の差が大きい。その中で最も大きな発現差が見られたのが ZP2 で、おそらく著者らも驚いたと思う。

ZP2 は卵子の透明膜を構成する4種類のタンパク質の一つで、過剰な精子で受精しないような防御システムの一つになっている。驚くことに、ZP2 だけでなく、卵子と精子の相互作用に関わる分子のいくつかも小脳での発現が認められる。

次に、何故人間だけで ZP2 が小脳で発現するようになったのか、進化の過程を調べて、ポジティブな進化として ZP2 が小脳でも発現するようになった軌跡を明らかにしているが、詳細は省く。

最も気になるのは、ZP2 の発現が機能的に重要な進化かどうかだが、元々モデル動物では発現がないので研究が難しい。まず ZP2タンパク質が、様々なシナプスが集まる Glomerulus で強く発現していることを明らかにし、次に試験管内での培養システムで、ZP2 を加えたとき、顆粒細胞のシナプス形成が抑えられる事を明らかにしている。

他にもマウス小脳での共生発現実験も含めて様々な実験を重ね、

  • ZP2は顆粒細胞が小脳外からのmossy fiberとシナプスを形成するときに誘導されること。
  • ZP2が分泌されると、新たなシナプス形成を抑えること、
  • ZP2と相互作用する分子のいくつかは運動障害での多型が認められる遺伝子である事、
  • やはりZP2と相互作用するESR2とMSR1は自閉症で多型が見られる遺伝子である事、

等を明らかにし、ZP2 をはじめとする、卵子と精子の相互作用を調節する分子が、特に生後運動機能獲得に長期間を要する人間で発現して、生後の小脳のシナプス形成を調節しているようになったと結論している。

タイトルを見てはじめは何のことかと思ったが、十分納得できる論文だと思う。ディスカッションに述べられているように、希にZP2遺伝子変異を持つ人が発見されることがあるようで、この人たちの小脳機能や認知機能を調べることが最も重要な課題になると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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