免疫チェックポイントガン治療の副作用として様々な自己免疫病が発生し、その中には天疱瘡のような抗体による免疫病も存在することが明らかになることで、我々の免疫トレランスは微妙なバランスの上に存在することがわかってきた。同じような例が、腫瘍発生に伴い急に様々な自己抗原に対して抗体が形成され、腫瘍とは関係のない部位の異常が誘導される腫瘍随伴性自己免疫症候群だ。自己抗体の中にはグルタミン酸受容体 (NMDAR) に結合して、神経興奮の閾値を下げ、てんかんなど重篤な神経刺激症状を示すケースの存在が知られている。これは、NMDARが急に腫瘍に発現することで自己免疫を誘発すると考えられているが、脳内ではNMDARが多く発現しており、さらに一部の血液細胞でも発現が認められるのに、何故抗体が産生されるのか、また抗体がNMDARの反応をどのように促進しているのか等は不明な点が多い。
今日紹介するコールドスプリングハーバー研究所からの論文は、トリプルネガティブ乳ガン (TNBC) でNMDARに対する自己抗体の産生機構と神経症状のメカニズムを明らかにするためのマウスモデルを構築し、腫瘍随伴性自己免疫性神経症 (ANRE) の発症機序をかなり解明できた論文で、3月25日 Nature にオンライン掲載された。
研究ではまずANRE症状にかかわらずTNBCの遺伝子発現を調べ、腫瘍の1−2%がNMDARの構成成分である GluN1 及び GluN2 を発現していることを確認している。
次に実験モデルの構築で、マウスTNBC細胞の GluN1 & GluN2 の発現を誘導出来るようにしてマウスに注射、ガンが増殖したところで GluN1/N2 を誘導すると、例外なくNMDARに結合する抗体が誘導されてくる。即ちNMDARに対するトレランスはそれほどしっかりしていない。
そこでどんな抗体が出来ているのか、腫瘍内に存在する抗原反応性B細胞を集め、single cell RNA sequencing で抗体遺伝子を始め様々な発現遺伝子を調べている。すると、抗体遺伝子では4種類のクローンが検出され、突然変異からもともとゲノムに存在していた抗体遺伝子 (germ line) が、徐々に変異を積み重ねて進化していることを発見する。Germ line 自己抗体遺伝子はB細胞の中でもB1細胞と関連付けられているが、今回得られたク4ローンでもB1タイプのB細胞が発見されている。ただB2タイプも混在していることから、B1/B2 が一つのクローンから発生したと考えられる。
それぞれの遺伝子から抗体を再構成してNMDARへの結合力を調べると、germ line から変異を重ねて結合力が大きく高まる、affinity maturation が起こっていることが観察された。このことは、NMDARに対する自己抗体が簡単にできてしまう理由は、変異のないgerm line抗体遺伝子ですでにNMDARへの結合が見られ、おそらくT細胞はほとんどトレランスが成立していないため、リンパ節内ですぐにB細胞の affinity maturation やクラススイッチが誘導されると考えられる。
次に、それぞれの抗体がNMDARと結合する領域を調べると、N末のアミノ酸への結合に集約される。ただ、クライオ電顕的に結合部位の構造を調べると、結合様態はまちまちで、様々なクローンがNMDARに反応する自己免疫B細胞として現れてくることがわかる。さらに詳しい検討から結合によりおこるNMDAR受容体変化から、刺激閾値を変化させる抗体とそれ以外を区別できることも明らかにしている。
ただ、機能を促進させる自己抗体が出来ただけでは脳症状は現れない。しかし、その抗体を直接脳室に注射すると、体温が上昇し多動になり、体重が低下するとともにてんかん症状も現れる。すなわち、病気の成立には脳血管関門の破綻がもう一つ重要な要素としてあることがわかる。
これだけだと自己抗体は悪い話だけになってしまうが、実際にはNMDARの自己抗体を持っているTNBC患者さんの再発は、持っていない人と比べて圧倒的に良い。事実、2倍NDMARの活性を上げるマウス自己抗体を注射するだけで免疫がなくてもガンの増殖を止めることができる。
以上が結果で、germ line遺伝子が最初からNMDARに緩く結合すること、そしてT細胞のトレランスが本来NMDARには成立していないことで、ガンがエピジェネティックな変化などでNMDARを発現してしまうと、速やかに様々な自己抗体が誘導され、何らかのきっかけで脳血管関門が壊れたときに、脳症状が出るというシナリオは十分納得できる。あとはT細胞側の反応メカニズムを明らかにすれば、完璧だと思う。また、新しいガン治療の方法までおまけでついてきた。
