ガン特異的抗原に対する抗体とT細胞を刺激する受容体を合体させたキメラ受容体を導入して、自分のT細胞にガンをアタックさせるCAR-T治療は、重要な抗ガン治療として広く認められるようになった。効果を設計出来るという点で期待が大きい治療法だが、まだまだ完璧ではなく、新しい方法開発競争が世界中で繰り広げられている。この領域は、うまくいくと一人勝ちの技術になるチャンスもある事から、生きるか死ぬかと言った緊張感がある分野だ。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、患者さんごとに CAR-T を調整する現在の方法をガラッと変えて、体内でT細胞を CAR-T に変えてガンにアタックさせる方法の開発で、3月18日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「In vivo site-specific engineering to reprogram T cells(体内でT細胞をリプログラムして CAR-T に変える操作法の開発)」だ。
患者さんごとにT細胞を取り出して、遺伝子を操作し、試験管内で増殖させてから患者さんに戻す現在のCAR-T作成法は、例えば遺伝子編集を用いたとしても、コストの面で問題がある。従って、遺伝子を直接体内に注射して、T細胞を CAR-T に変えてしまえば、同じ製剤をほぼ全ての人に使えることから、コストを下げることができる。
ただ、従来のようなレンチウイルスベクターに CAR を導入する方法では、T細胞以外に遺伝子が導入され、当然ガン細胞にも遺伝子が導入され、抗原をマスクしてしまう心配すらある。そのため、CRISPR などの遺伝子編集法を用いて CAR をT細胞受容体にノックインすることで、T細胞だけで CAR を発現させられると期待される。
ただ体内での遺伝子編集、特に遺伝子を他の遺伝子で組み換える操作は、CRISPR を用いても効率の面からハードルが高い。これにチャレンジしたのがこの研究だ。
まず、T細胞受容体遺伝子をターゲットにするガイドRNAが結合した CRISPRタンパク質を VSVウイルス粒子に詰める遺伝子編集法を用いている。これを用いると、試験管内でT細胞の6割で抗原受容体がノックアウトされる。この系に、組み換えたいCARの遺伝子を同時に存在させると、ノックアウトだけでなく、高い効率で組み替えが起こり、T細胞受容体がCARに置き換わるが、細胞の自然免疫を誘導しないで大きな CAR遺伝子を導入する目的に、アデノ随伴ウイルスベクター (AAV) を用いている。
試験管内だと、この2つを組み合わせるだけで、2割以上のT 細胞で受容体がCARに置き換わるが、体内にこのセットを注入するだけでは、効率が低い。
この効率を上げるための様々な開発がこの研究のハイライトで、
- VSV粒子にCD3に対する抗体可変部分を取り込ませて、T細胞特異的に粒子が取り込まれるとともに、CD3抗体によりT細胞の増殖を誘導出来る粒子を開発し、
- AAVを、それに対する抗体を持つ人血清存在下で汗腺実験を繰り返し、AAVに対する抗体の影響を受けず、さらにCD7を持つT細胞により選択的に感染するAAV-hT7を開発、
している。
この2つの遺伝子導入システムを組み合わせると、ほぼ完全にT細胞特異的に、ほぼ15%の細胞の遺伝子編集が可能になる。導入はCD4、CD8に同じようにされるが、都合の良いことにTregには感染性が低い。
こうして改良した遺伝子導入法をヒト化したマウスを用いて白血病抑制効果を調べると、同じセットでを用いて試験管内で CAR-T を誘導した後、マウスに注射した治療より、直接このセットをマウスに静脈注射した方が腫瘍抑制効果が高いことがわかった。最後にCD19を標的とした CAR-T だけでなく、骨髄腫や肉腫を標的としたセットの注射背も高いガン抑制効果が見られることを示している。
ヒト化したとはいえ、まだマウスの実験段階で、このまま人間でも利用できるようになるかどうかはわからないが、これが可能になると、試験管内での CAR-T調整方法は消える可能性がある。最後にだれが笑うのか、全く予想は立たない。
