5月15日 肺線維症治療の新しい視点(5月13日 Science Translational Medicine 掲載論文)
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5月15日 肺線維症治療の新しい視点(5月13日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年5月15日
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肺で急速に線維芽細胞が増殖し、肺からの酸素取り込みを阻害する肺線維症は、ほとんど治療方法のない病気の一つだ。TGF-βによるコラーゲン合成誘導などを抑えて進行を抑える方法が唯一の治療として行われるが、根本的な治療にならない。これに対し、最近肺線維症を老化線維芽細胞の蓄積として捉え、老化細胞除去 (senolysis) で肺線維症を治療できる可能性が指摘されている。Senolysis誘導の方法として広領域チロシンキナーゼ阻害剤ダサニティブとケルセチンを投与する治験も行われている。

今日紹介するハイデルベルグ大学からの論文は、肺線維症で senolysis を誘導するという点ではこれまでの研究の延長だが、老化線維芽細胞除去機構でのNK細胞の役割に注目した点が新しい視点で、既に開発中の薬剤で肺線維症を治療できる可能性を示した重要な研究だと思う。タイトルは「Natural killer cell immunotherapy reverses lung fibrosis by eliminating senescent fibroblasts(NK細胞の免疫治療は老化線維芽細胞を除去して肺線維症を改善する)」だ。

損傷治癒過程の線維化の調節にNK細胞が関わることが指摘されてきた。逆に考えるとNK細胞機能不全が起こると線維化の調節異常が起こる可能性がある。そこで肺線維症を線維芽細胞の増殖調節以上という新しい視点から見直したのがこの研究だ。

研究では、肺線維症の患者さんの血液、肺洗浄液のNK細胞を single cell RNA sequencing により解析、NK受容体のうちNKG2Aを発現し、機能が低下した (exhausted) 集団が上昇していることを発見する。一方、線維芽細胞の方を調べると HLA-E を発現し、HAS1 を始め様々な老化マーカーを発現する繊維芽細胞が増えていること、そしてNKG2A受容体を発現するNK細胞のほとんどが HLA-E、HAS1 を発現している線維芽細胞の近くに集中していることを発見する。T細胞のPD-1と同じように、NKG2A はNK細胞のチェックポイント分子で HLA-E はこれに結合してNK細胞の機能を抑える。以上のことから、線維芽細胞の老化が始まり HLA-E が発現することで、NK細胞の機能を抑制、その結果老化線維芽細胞が除去されないというサイクルが起こっていることが想定される。

これを確かめるため、現在ガン治療目的で開発が進む NKG2A に対するモノクローナル抗体を老化線維芽細胞とNK細胞との共培養に加えると、期待通り強い細胞死の誘導がおこる。そこで、ブレオマイシン注射により誘導される肺線維症モデルで NKG2A に対する抗体の効果を調べると、老化線維芽細胞の数を半減させ、線維化を抑えることを示している。

ヒトでも同じ可能性があるかを調べる目的で、末梢血から調整したNK 細胞を放射線照射で老化させた線維芽細胞と共培養し細胞死の誘導を調べると、NKG2A に対する抗体を加えた培養だけで細胞死を誘導出来ている。

最後に、患者さんの肺組織を調べて、線維化が進むほど HLA-E を発現した線維芽細胞が増え、その周りに NKG2A陽性NK細胞が集まっていることを確認し、肺線維症のトランスレーションが可能である事を示している。また、線維芽細胞の老化マーカーHAS1 の血中濃度を調べると、肺線維症で有意に上昇が見られることを示して、肺線維症で見られる線維芽細胞老化の分子マーカーとして用いられることが示された。

以上が結果で、急速に進む肺線維症に対する治療法がない現状を考えると、まだ認可はされていないがアストラゼネカが開発した NKG2A に対するモノクローナル抗体を使う治験を始める価値は十分あると思う。安全性などは既に小細胞性未分化ガンなどで確認されているので、ハードルは低いと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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