今日紹介するのはカナダ・トロント大学が10月14日Natureにオンライン掲載した論文で、マイクロエクソンと呼ばれる3-27塩基の小さなエクソンのスプライシングの差が自閉症発症に深く関わることを示し、これまで遺伝子変異だけでは捉えきれなかった自閉症のゲノム研究を大きく進展させるように感じた。タイトルは「A microexon regulatory code reveals autism-linked genetic variation(マイクロエクソン制御コードにより自閉症様の遺伝子変化を捉えることができる)」だ。
これまで何度も自閉症スペクトラム(ASD)のゲノムについて紹介してきたが、この論文を読むまでマイクロエクソンについては全く知らなかった。論文を遡ってみると、同じグループが2014年、脳細胞でのマイクロエクソンのスプライシング異常がASDで高い頻度で見られることを報告していた(Cell 159, 1511–1523,2o14)。ASDの症状は多様だが、強い遺伝性が見られることからゲノム研究が進んでいる。実際、ASDと明確に相関するゲノム多型は100を超すが、これらが原因であると特定できる例はASD全体の15%程度で、残りの症例で遺伝性は認められてもゲノムと対応することが難しい。
このグループはこれまでほとんど研究されていないマイクロエクソンのスプライシングの差が、ASDの遺伝性のかなりの部分を説明できるのではと考えて研究している。そこでまず、mRNAの配列を比べることで、ゲノムにコードされているマイクロエクソンを網羅的に特定し、95種類の神経細胞特異的にスプライシングされるマイクロエクソンを特定している。そして、このうちの多くが、mRNAの分解につながる事も確認している。
次にいくつかの遺伝子について、マイクロエクソンスプライシングの変化を追跡し、特に介在神経で大きく変化すること、遺伝子により発生の様々な段階でスプライシングの変化が認められることを明らかにしている。ただ、マイクロエクソンスプライシング異常をRNAで調べるだけでは、たとえばASD の予測にはつながらない。
そのためには、これらマイクロエクソンのスプライシング異常が誘導される、ゲノム上の変化を特定する必要がある。そのためにマイクロエクソンの前後配列を学習させたニューラルネットAIモデルを作成し、スプライシングでマイクロエクソンが遺伝子の中に挿入されるスコアを計算できるようにしている。またいくつかの遺伝子で、実際のコードの変化がスプライシング分子の結合の変化につながることも明確にしている。
こうして得られたマイクロエクソンが挿入されるスコアをASDゲノムで調べると、他の遺伝子変異と同じで、レアバリアントとコモンバリアントに別れ、レアバリアントのASDへの貢献が大きいこと、そしてゲノムから計算されるスコアで、22.7%のASD患者さんについてはゲノムから予測可能であることを示している。
最後にASDと相関するマイクロエクソンの変異が認められる遺伝子をリストすると、これまでASDに関わるとされてきた多くの遺伝子とオーバーラップすることがわかった。即ち、タンパク質をコードするエクソンの変異だけでなく、これまで見落とされてきたマイクロエクソンの挿入を決めるスプライシングコードの変異が同じ遺伝子に起こることで、遺伝子発現に大きな変化が発生してASDにつながる可能性が示唆された。
以上が結果で、これまで全く知らなかったので、マイクロエクソンスプライシング異常がASDの原因になる可能性は説得力のある重要なアイデアだと思った。
