10月8日:骨髄移植後の腸内細菌を便移植により正常化する(9月28日号Science Translational Medicine掲載論文)
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10月8日:骨髄移植後の腸内細菌を便移植により正常化する(9月28日号Science Translational Medicine掲載論文)

2018年10月8日
様々な標的薬が開発され、最近ではCAR-Tなどの免疫治療が白血病に用いられるようになってきているが、現在でも白血病根治治療の主役は骨髄移植と言っていい。そして、現在もなお骨髄移植には一定の危険が伴う。その最大のものは、白血病細胞と同時にホストの血液幹細胞を除去して、移植細胞が定着しやすくするための放射線治療や化学療法による副作用と、移植骨髄の中のT細胞による宿主細胞への障害GvHだ。とくに前者は、一般のガンの化学療法と比べても徹底的に行うことから、腸内も含め体内の細菌を徹底的に除去し、移植骨髄の定着までは無菌室内に隔離する。

当然ながら、これまで完全に腸内細菌叢を除去すると、その回復には時間がかかることがわかっている。そして、最近の研究から腸内細菌叢のバランスにより、病原性の細菌の増殖が抑えられていることもわかっている。とすると、定着が確認され無菌室を出た患者さんもそれで安心せず、できるだけ早期に正常の細菌叢の回復を図る必要がある。今日紹介する米国スローン・ケッタリングガン研究所からの論文。これは移植前に採取していた本人の便の移植で実現できるか確かめた臨床治験で、9月28日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Reconstitution of the gut microbiota of antibiotic-treated patients by autologous fecal microbiota transplant (抗生物質の治療を受けた患者さんの腸内細菌叢を自分の便の移植で回復させる)」だ。

研究では、700人以上の骨髄移植を受けた患者さんの便の細菌叢の追跡を行い、100日経っても、細菌叢の量と多様性の回復が遅々として進まないことを確認している。しかし、腸内細菌叢の回復の遅延が移植の成績にどう関わるかは、大半の患者さんで細菌叢が正常化しないため、正確な比較ができない。そこでこの研究では、25人と少数ではあるが、骨髄移植を受けた患者さんを無作為に便移植群と、非移植群にわけ、骨髄移植後に移植処置前に採取していた本人の便移植により、細菌叢の回復を早めることができるか、そして便移植は骨髄移植と組み合わせても安全かを調べている。

結果は明瞭で、様々な手法で検査して、便移植を行うことで、細菌の量、多様性、いわゆる善玉菌の量など、どの点を取っても便移植は、細菌叢の正常化におおきな効果がある。そして何よりも、移植後定着が始まってからの便移植はこれまでのところ重大な副作用がないという結果だ。

これは治験研究で、エンドポイントといわれる評価項目を、安全性と、細菌叢の回復に絞っているため、それ以上の項目、例えば移植自体の成績への効果については何も述べられていない。しかし最終的に、腸内細菌叢の正常化が骨髄移植の結果に関わるかを知ることが目的なので、今後さらに大規模な研究が行われると予想できる。

もちろん便移植といっても、カテーテルでの移植で患者さんに不快感はないい、何よりもコストは低い。したがって、例えば移植後の腸炎などが減るという結果がでれば、当然一般治療として定着するだろうし、長期の生存率なども時間をかけて調べられると思う。しかし、同種骨髄移植過程を考えてみれば、このような治験はもっと早い時点で試みられるべきだったように思える。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月7日:数を数えるニューロン(11月7日号発行予定Neuron掲載論文)

2018年10月7日
私たち日本人は、表意文字も、表音文字(実際には子音と母音それぞれに別れたアルファベットと異なり、仮名は音節に対応しているので表音節文字になる)両方利用する稀有の民族だが、英語でも一部は表意文字を使っている。その代表が、アラビア数字で、例えばoneという3つのアルファベットが一文字で表現されている。そしてそのルーツを辿ると、対象の具体的な数に至るのだが、この数字の認識を脳はどう処理しているのか大変興味がある。とはいえ、人間で数字の認識や計算を調べようとしても、今の画像技術ではどうしてもおおきな神経集団を追いかけるしかなく、一個一個の神経細胞がどう反応しているのかを調べることは難しかった。そのかわりに、猿を用いた実験でこの課題は研究されてきたが、想像通り数字や計算を猿がどう理解しているのか、なかなか猿の気持ちになれないため、研究の解釈には限界が伴った。

今日紹介するドイツ・ボン大学からの研究はてんかんの診断のために手術的に多数の電極からできている記録装置を海馬近くに埋め込んだ患者さんの、様々な数に対する反応を調べた稀有な研究で、11月7日発行予定のNeuronに掲載された。タイトルは「Single Neurons in the Human Brain Encode Numbers(ヒトの脳内で数をコードする単一ニューロン)」だ。

この研究では内側側頭葉(MTL)と呼ばれる、記憶に関わる海馬とその周りを含み領域に数百本の電極の束を留置し、各電極からの神経興奮を記録するという、動物では普通に行なわれている記録を、人間で行なっている。

記録をとる課題だが、約5秒ほどの間に、画面に連続的に提示される様々な大きさのドットで表現された具体的数(例えば3つのドット)と計算の指示(+ or ー)を見せて頭の中で計算させ、その数を1ー10までの数字が並ぶキーボードで答えるという課題をこなしてもらい、それぞれの段階で(例えば数字を見たり、足し算をしたりする)、神経細胞がどう興奮するかを調べる。例えば、2個のドットをみて、それを2として認識し作業記憶として保持しているあいだに、今度は足すのか引くのか演算ルールが提示され、その後でもう一つの数字がドットの数として示される。それを前に見た数字に足すか、引くかして、最終的に5という数字を押すという一連の過程で、神経細胞の活動を記録している。500を越す電極一本一本の一定時間内の反応をPCの助けを借りながら解析する一種のビッグデータアナリシスだ。

この研究では、視覚から数の概念を統合するプロセスは対象にせず、この初期過程で数の表象へと変換されたあとの過程が調べられている。結果を見て最も驚くには、1、2、3といった数に反応する細胞が存在することだ。すなわち、3つの点を見た時いつも強く反応し、他の数の点には弱くしか反応しない神経細胞が数多く見つかる。すなわち、細胞ごとに反応を起こす好みの数を持っているということだ。しかし、これは決して一対一の対応になっているわけではない。例えば5に反応する神経細胞は、4、3、2と数が5から離れるにしたがって反応の強さが低下していく。すなわち、全体の数の表象が把握された上で、それぞれの数と他の数との関係性が一つのニューロンに認識されていることになる。また、最初の図に示されたドットの数を見た時形成されたそれぞれの細胞の反応パターンは、少し経過した後の作業記憶でも同じように維持されるが、他の数と計算した後、答えを出した時に反応する数に対しては同じ細胞は対応していない。

さらに面白いのは、同じような実験をアラビア数字、すなわち抽象的文字で表された数でを見せて行なっており、ドットで示された具体的な数の表彰と、アラビア数字を見た時に反応する神経とは、一致していることは珍しく、それぞれの神経は離れて存在していることを示している。

他にも色々解析が行われ、とくに一種のAIアルゴリズムを用いて、予測性が生まれるかなども調べているが、この論文の重要なメッセージはすでに紹介したと思う。数字の概念については、やはり人間でも行う必要があったこと、また誰もが関心がある問題なので、私のような素人にもとても面白い論文だった。 最後に、最も面白かった現象をもう一つ紹介すると、1から5までの数に反応する神経を数えると、1と5に反応する神経が最も多いのにも驚いた。ひょっとしたら私たちの指の数と何か関係があるのかもしれないし、十進法の原点を見る思いがした。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月6日:ミトコンドリア病の遺伝子治療(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2018年10月6日
ミトコンドリア病については、一度ニコニコ動画で取り上げたが、一般の方にはなかなか理解しにくいことが多いのではないだろうか。ミトコンドリア(Mt)は細胞自体からは反独立した小器官で、自らの活動のための独立した遺伝子も持っている。さらに、これらの遺伝子に突然変異が起こる場合も、全てのMtが変異型に変わるわけではなく、そのため異なるゲノム構造を持つMtが一個の細胞の中で共存するヘテロプラスミーと呼ばれる状態が起こり、変異があっても、そのMtが正常と比べて優勢になるまで症状が出ない。また、症状が出る場合も、全ての組織で同じように異常が発生するのではなく、高いエネルギー代謝を必要とする、脳や網膜、心筋などが選択的に侵されることになる。

ミトコンドリア病の治療は当然変異遺伝子をもとに戻すことが究極の治療だが、ヘテロプラスミーの状態を考えると、変異Mtを減らして、機能的Mtを増やすことで症状の改善が望める可能性がある。今日紹介するマイアミ大学からの論文はこの可能性を動物モデルで探った研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「MitoTALEN reduces mutant mtDNA load and restores tRNA Ala levels in a mouse model of heteroplasmic mtDNA mutation (MitoTalenは変異ミトコンドリアの比率を減らし、マウスモデルのミトコンドリア変異でtRNA-Alaを回復させる)」だ。

この研究が治療対象にしたミトコンドリアゲノムの変異は、5024番目のCがTへと変化した変異で、この結果Alaninに対するtRNAが不安定化する。変異の性格から、激烈な症状が出るわけではなく、高齢になってから心機能が侵されることが主症状になっている。 この変異を持つMtを、彼らがMitoTalenと呼ぶミトコンドリア特異的遺伝子編集法(CRISPRとは異なる)を用いて生体内でも細胞から除去できるか調べている。

TALENとよばれる編集法の原理については説明を省略するが、2本の相補的合成DNAを用いてDNA分解酵素のユニットが出会うように設計して、特異的配列を持つDNAを分解させる。このとき、ミトコンドリアに選択的にTALENが取り込まれるよう設計している。この2種類のTALENをアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)に組み込んで、筋注、あるいは全身投与で、変異ミトコンドリアの比率が減り、症状の改善があるかを調べている。

結果はかなり有望だ。まず筋肉注射をした実験では、MitoTalenで治療した群では。変異Mtの比率が24週まで徐々に低下し、最終的に20%程度に抑えられている。これは、変異Mtが除去され、正常Mtが期待通り増加していることを意味している。さらに同じような効果が、静脈注射でも得られている。したがって、心筋や骨格筋を標的にするとき、全身投与が可能であることを示している。また、異常Mtの低下を反映して、tRNA-alaの数も正常化していることから、正常Mtと競合させるという戦略が十分治療に仕えることを示している。

今回調べられたモデルマウスは、もともと症状が少ない。おそらく、より重症で早期に病気が発症するケースについては、早期診断、早期治療が必要になると思う。ミトコンドリア病は、眼科領域にも多いため、おそらく局所投与に向くという意味では実用化も早いかもしれない。遺伝子編集の医療応用は着々と進んでいることがよくわかる。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月5日:自由意志の脳回路(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2018年10月5日
デカルトの2元論、すなわち心と体 (わかることとわからないこと)を分けて考えることは、科学を宗教から解き放った点で、近代の根幹に今も位置している。

もちろん、デカルトが科学の対象から外した(すなわち神に任せた)心は、イギリス経験論、特にヒュームによる確信に満ちた神の否定の結果、居場所を求めてさ迷うことになる。しかし、彷徨うと考えるのは二元論を支持することを前提とした議論で、実際には分離すること自体が間違っている。しかし心を含め、分からないことがある以上、つねに「心」の領域は顔をのぞかせる。この時の一つの顔が「自由意志」があるのか?という問いだ。私の答えは、「私たちの脳はちゃんと自由意志の回路を持っており、今は100点ではないが、科学的説明は常に可能で、それも少しづつ進んでいる」になる。

今日紹介するテキサス・バンダービルト大学からの論文は私と同じで100点でなくても自由意志を脳回路で説明しようとした研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載されている。タイトルは「Lesion network localization of free will(自由意志の脳領域の障害ネットワーク)」だ。

この研究では自由意志を、1)自発的に動く気持ちが失われる精神状態、および2)自己の行動に対する責任感、に分解し、このどちらかが障害される脳の局所的損傷を自分の症例について対応させている。

それぞれの症状とも、脳の1箇所に支配領域が限定されるのではなく、様々な脳領域の損傷がそれぞれの症状に対応する。これまでの考えに従って見たとき、自由意志を支える2本柱を支配する特定の領域はないという結論になる。しかしこの研究では、自由意志に関わる脳領域は、一見バラバラに存在するように見えても、必ず関連があるはずだと考え、それぞれの領域を、データベース化されている、安静時の脳内各領域の結合性と対応させると、自発的行動を障害する脳領域は、MRIで検出できる共通のネットワークに属している。すなわち、一見領域はバラバラに見えるが、実際にはほとんどの領域が一つの大きなネットワークを形成しているという結果だ。

とはいえ、自由意志が障害される脳損傷部位だけから結論を急ぐのは問題があると考えたのだろう。膨大なデータベースの中から脳刺激により自由意志に変化をきたす部位を集め、これらが損傷領域を繋ぐネットワークに乗っていること、さらには自由意志が侵される精神疾患患者さんの脳の活動に変化が見られる領域も同じネットワークに乗っていることを確認して、損傷領域から明らかにされるネットワークが、荒唐無稽なものではないことを強調している。

ではどんなネットワークかと良く読んで見ても、明確な答えが示されていない。もちろん、脳上にネットワークが描かれていても、それは太い筆で領域を塗ったと言った印象で、ネットワークを明示するには至っていない。はっきり言って、掛け声倒れの研究ではないかという印象を持った。

とはいえ、私はこのような研究がどんなに中途半端で終わっていても、強く支持したい。それは、自由意志もいつかは科学的説明(おそらく単純な回路図では済まない)が必ず可能であろうという信念で研究が行われているからだ。これからも、このような論文に出会えば、ぜひ紹介していきたいと思っている。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月4日:母親の自覚症状から死産を早期発見できるか?(The Lancetオンライン版掲載論文)

2018年10月4日
多くの先進国で少子化は重要な問題になっている。このために最初に考えられる取り組みが、世界で260万人発生する死産を減らすことだが、このためには死産の前兆をキャッチし、対応する必要がある。これまでヨーロッパでは、早期診断の方法として、妊婦さんの自覚症状が使えるのではと、研究が進んで来た。すなわち、妊娠後期の子供の胎動の変化を、自覚的にいち早くキャッチして、医師にできるだけ早く相談し、必要なら帝王切開などで早期に出産させる体制を確立し、これにより死産を減らすという戦略だ。

今日紹介する英国医学研究協議会のトミーセンターを中心とする、全英国を巻き込んだ治験研究は、なんとお母さんに胎動に気をつけてもらって、変化があれば医師に早期に相談するというパッケージが、本当に効果があるのか調べた研究で、The Lancetオンライン版に掲載された。タイトルは「Awareness of fetal movements and care package to reduce fetal mortality (AFFIRM): a stepped wedge, cluster-randomised trial (胎動の認識と子供の死産を低下させるケア・パッケージ(AFFIRM):クラスターレベルで無作為化したステップウェッジデザイン治験)だ。

要するにお母さんに胎児の異常を早期に気づいてもらう必要があり、この研究ではノルウェーで開発されたお母さんの教育プログラムを用いて、これを行っている。具体的には、参加した連合王国33箇所の出産施設を、無作為に教育群と、教育をしない群にわけ、教育する群に選ばれた施設では、出産に関わる医療従事者の教育とともに、妊婦さん自体もどのように胎児の動きの異常を感知するかについてトレーニングする。その後妊娠期間を追跡し、教育プログラムを受けることで死産が減るかどうかを調べている。

さすが英国で、総勢で40万人の妊婦さんが治験に参加している。結果だが、結局死産の数や、低体重児の発生でみると、教育プログラムを受ける効果はほとんど認められないという結論になった。その上で、帝王切開数や陣痛誘導処置の数は10%ほど上昇するし、入院日数も増える。当然、教育プログラムを用意して、それを受けてもらうことにも多くのコストがかかる。まだ進行中の治験もあるらしいので、これらの結果が出てくるまで最終判断はないとは思うが、政策的にはおそらくこのプログラムは中止ということになるように思う。

お腹の中の胎児の動きと聞くと、確かに利用価値が高そうに思えるが、結論としては「そんなことを気にせず、おおらかに妊娠期間を過ごしてください」ということになるのだろう。我が国のお母さんにも、小さな変化に一喜一憂する必要はないことは伝えられるような気がする。

しかし、この研究結果は妊婦さんに伝えるために行われたものではない。死産を防ぐ決め手は見つからず、残念な結果に終わったが、少子化を少しでも食い止めようと医療界全体で、可能性を科学的に検証し、その結果を見て政策を決める英国NHSの徹底性だ。このことを知るだけでも、この研究の意義は大きい。
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10月3日:スタチンと抗PD-1の併用(11月1日Cell掲載論文)

2018年10月3日
昨日に続いてPD-1を使った新しい論文がないかと、雑誌を眺めていたら、極めて風変わりで、意表を突く論文が11月1日に発行予定のCellで見つかった。本庶さんは昨日の会見で、CellやNatureの論文は9割間違っていると言っているらしく、この中国広州からの論文を信じるようには思えないが、なんと高コレステロールに対する薬剤スタチンとPD-1を組合わせたガンの免疫療法が可能であることを示した研究で、タイトルは「The Mevalonate Pathway Is a Druggable Target for Vaccine Adjuvant Discoveryメバロン酸経路はワクチンのアジュバントの発見のための薬剤開発標的になる」」だ。言ってみれば、本庶さんのノーベル賞と、Brown/Goldsteinのノーベル賞が重なったような話だ。

この研究はメバロン酸経路の酵素に変異が起こった患者さんでは、免疫が亢進しているという1990年代に示された報告から、メバロン酸抑制剤のスタチンが免疫を高めるアジュバントとして働くのではないかと言う発想から研究を始めている。

まず市販の様々なスタチンと抗原を混合してマウスに注射する極めて単純な実験で、脂肪に親和性を持つ形のスタチンが免疫反応を10−100倍増加させ、よく使われるアラムアジュバントをはるかに凌駕することを示している。また、これを利用してマウスをインフルエンザから守れるワクチンも作ることができることを示している。

期待通り、スタチン、特にシンバスタチンが免疫反応を強く誘導するアジュバントとして働くことが分かったので、次にメバロン酸経路のさまざまな酵素を薬剤で阻害する実験を行い、

1) シンバスタチンが、樹状細胞の抗原の保持時間を高め、
2) これはシンバスタチンによりゲラニル・ゲラニルディフォスフェート(GGPP)の合成を抑え、この結果small GTPaseのゲラニル化を低下させ、細胞内のエンドゾームの成熟が止まり、抗原が長くエンドゾーム内にとどまるため、多くの抗原が長時間提示される、
3) その結果強い抗原刺激が長く起こり、免疫反応が高まることを示してい
このように、メバロン酸の下流の阻害剤、またsmall GTPaseのゲラニル化阻害剤、そしてエンドゾームの成熟阻害剤など、樹状細胞の抗原提示能を高める可能性のある、多くの標的が示されたことになる。

この方法がガン免疫にも利用できるか、ガン細胞を免疫源として使う実験で確かめている。すなわち、シンバスタチンとともにガン細胞を免疫したほうが、長期の延命がはかれることを明らかにしている。そして最後に、ガン細胞とシンバスタチンを注射した後、抗PD-1抗体を併用すると、ガンの増殖を強く抑制できることを示している。 2種類のガンモデルで行なった研究で、他のガンにどこまで通用するかはわからないが、差はおおきい。ただ本当に抗原提示だけでここまで反応があがるのか、他のアジュバント作用がないのかわからない。しかし、ガンの標的としてこれまでガン細胞の増殖に関わる分子が探索されてきたが、PD1抗体のおかげで、免疫過程も抗ガン剤開発の標的になっていることがよくわかる。

我が国ではPD-1が効かない人がいることがよく問題にされるが、PD-1が効果を示すためには免疫が成立していることが必須条件になる。従って、効かないと思われても、免疫を成立させればPD-1を用いてその免疫を高めることができる。そのために今必要なのは、この論文のように、PD-1を効くようにするため、馬鹿らしいと思えるような可能性までしらみつぶしに当たる研究の多様性だ。また、このためにはネオ抗原に標的を定めるといった声も聞こえてくるが、研究の多様性を奪ってしまえば、せっかくのPD-1も使用が限られる。今何が必要かをしっかり見定めることが、今こそガン治療の領域では求められている。
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10月2日:免疫チェックポイント治療の効果を予想する(9月19日号Science Translational Medicie掲載総説)

2018年10月2日
昨日仕事からの帰りの電車の中で本庶先生のノーベル賞受賞のニュースを聞いた。James Allisonとの共同受賞で、免疫チェックポイント治療がこれほど急速に普及し、多くのガン患者さんを救っていることが評価された。もともと本庶先生は、免疫グロブリン遺伝子のクラススウィッチが遺伝子再構成により起こることを発見した業績で有名で、私も免疫学会でアメリカから帰ってきたばかりの本庶先生がGパン姿でこの話をしたのを今もおぼえている。その後、このメカニズムをめぐって長い研究が続き、本庶先生が医学部長の頃、ついにAIDを発見し、このメカニズムを解明した。その時、教授会で「もう安心して引退できますね」と余計なことを言ったところ、「これからや」と一喝された。

今回のノーベル賞にちなんで、何かチェックポイント治療に関わる論文が手持ちのリストにないかどうか見てみると、一つ総説があったので、今日はそれを紹介することにした。コーネル大学医学部を中心として、様々な国の臨床家が集まって書いた総説で、ちょっと古いが9月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「The hallmarks of successful anticancer immunotherapy (ガンの免疫療法の成功のための指標)」だ。総説としては羅列的で、そう面白くはなかったが、扱う問題は大事だ。

さて私がガンの根治の鍵は免疫が握っていることをはっきりと認識したのは、実は現役を退いてから、CAR-Tと呼ばれるガン抗原に対するキメラ抗原受容体を発現するT細胞による白血病の治療治験の論文を読んだ時と、メラノーマに対する抗CTLA4及び抗PD-1抗体の効果についての治験論文を読んだ時だ。20世紀後半のがん免疫に関する研究が、ついに臨床に実ったと強く感銘を受けた。

とはいえ、すべての患者さんが免疫療法に反応するわけではない。どうしても反応する人と、反応しない人が出てしまう。この差を決めるさまざまな指標についてまとめているのがこの総説論文だ。ただ、まだまだ効果を前もって予測する決め手はなく、やってみないと分からないことが強調されている。総説の順番に紹介する。

ガン細胞側の要因 チェックポイント治療(CPT)は、すべての免疫機能を活性化するので、それがガンの治療に有効であるためには、まずガンに対する免疫が成立している必要がある。現在この指標が最もよく研究されている。

免疫成立には、正常には存在せず、ガンにだけ存在する抗原の存在が必要で、これをネオ抗原と呼ぶが、これはガンゲノムに突然変異が多いほど、存在する確率が高くなる。CPTが最初に認可されたメラノーマは日光にさらされ多くの変異があると考えられるし、肺がんもタバコをはじめとする様々な因子に晒されて変異が多い。最近、FDAはDNA複製エラーを修復する酵素の不全が認められる患者は、ガンの種類を問わず CPTの適用として認めたが、これも修復酵素欠損で突然変異によるネオ抗原の数が上昇するからだ。

また、ガン細胞内で自然免疫が刺激される状態にあると、免疫反応が高まるため、CPTも効果が高くなる。また、インターフェロンの分泌が高いと免疫の成立が抑えられることもわかっており、癌自体誘導性も治療の成否に深く関わる。

一方、癌自体が免疫を抑えると、予後が悪い。もともとCPTはPD-L1を発現する癌により、PD−1を介して免疫反応が弱められるのを、抗体で抑えるから効果を示す。その意味で、治療前のガンがPD-L1を発現している事は、この治療が効果を持つ可能性が高い。他にも、免疫機能を抑えるさまざまな分子が知られており、これらの発現から治療効果を予測することができる。

ネオ抗原は組織適合性抗原と結合してはじめて免疫原性を示す。そのため、がん細胞に組織適合性抗原が発現していないとCPTは効果が無い。このような免疫の標的になりにくいがんの特徴を知ろうと研究が続いているが、まだ認定されたガンの感受性指標はまだはっきりしていない。

癌組織浸潤細胞の要因 実際の患者さんのがんのリンパ球の構成を調べることは簡単でない。しかし、浸潤細胞の構成や、がん組織内での分布、そして浸潤細胞の機能を調べることは今後のCPTの効果を占う上で大変重要で、予後に関わるいくつかの指標もわかりつつあるが、まだまだ研究と経験が必要だ。 最も重要なのが、がん組織に癌を殺す機能を持つリンパ球浸潤がはっきりしていることで、これが多いと免疫が成立している可能性が高く、重要な指標になる。逆に、いわゆる抑制性T細胞とそれを誘導する樹状細胞の存在はCPTの効果が低いことを予言する。他にも最近では、NK細胞は免疫成立を高めることも知られている。 ただ、このような浸潤細胞の絶対数を算定することは簡単ではない。

組織上の浸潤細胞の分布も予後因子になる可能性がある。がんの中まで浸潤しているか、がんの周辺だけに存在するのかなど、世界規模の研究が進んでいる。今後、癌の組織像から効果が占える時が来るのではと期待される。 また、浸潤細胞により分泌されるサイトカインなどの種類も予後を知るのに利用できる。例えば、インターフェロンの発現はがん免疫の成立を抑制している。このような機能的な分子パネルを作成するために研究が進んでいる。

ガンのストローマと血管

ガンの活動を調節する最も重要な条件が、ガン周囲の環境で、ガン組織で間質細胞のタイプは予後を占う因子として、標識の探索が続いている。また、浸潤リンパ球の入り口になる血管細胞の性質もCPT の効果を予測するための重要な指標となる。ただ、これは当然ガンごとに多様で、はっきりとしたする分子マーカーの発見にはいたっていない。 全身性の要因

長くなるので、これ以上詳しい紹介はやめるが、もちろん様々な全身性要因も予後因子になることが知られている。例えば、腸内細菌叢がCPTの効き方に影響するという研究などはその典型だ。 結局この総説は羅列的で、まとまりのないものだが、結局まだまだCPTの効果を予測するのは難しいことを物語っている。このような状況から、一つの指標で確実に予後を占えないことは確かなので、指標を組み合わせて診断することが重要になる。いくつかの指標をdeep learningさせて診断するAIの開発で、ここでは紹介されていないが、最近論文の数が増えてきたことから、おそらく予後診断の中心になるような気がする。 もっとふさわしい論文を選ぶべきで、いつものことながら、本庶先生の期待を裏切ることになった。とはいえ、本庶先生おめでとうございます。
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10月1日:老化グリア細胞がアルツハイマー病を助長する:わかっていても驚く結果(Natureオンライン版掲載論文)

2018年10月1日
9月19日、「医療の対象としての老化」というタイトルで、JAMAに掲載された3編の意見論文を紹介したが、要するに体全体の老化を、役立たなくなった老化細胞を積極的に除去することで遅らせることができるという結果に基づき、老化を医療の対象にすることができるという、前向きの話だった。またこの総説だけでなく、実際私のブログでも同じ内容の論文を多く紹介してきた。従ってよく似た論文がでても、少々のことでは驚かないのだが、今日紹介するメイヨークリニックの論文を読んで、また驚いてしまった。

タイトル「Clearance of senescent glial cells prevents tau-dependent pathology and cognitive decline(老化したグリア細胞を除くことでタウタンパク質による認知機能低下を抑えることができる)」で、Natureオンライン版に掲載されている。

9月19日に紹介した3編の総説のうち一編(http://aasj.jp/news/watch/8968)、および7月15日に紹介したNature Medicineの論文(http://aasj.jp/news/watch/8679)とも、メイヨークリニックの老化研究所からの論文だったが、今日紹介するのもグループは異なるがメイヨークリニックで、メイヨークリニックが老化研究に重点を置いているのがよくわかる。

今日紹介する論文の発想は、「同じ柳の下にドジョウ」の話で、発想は単純だ。異常Tauタンパクを発現するアルツハイマー病モデルマウスの認知機能の低下を、これまで用いられている老化によりp16が発現した細胞を薬剤でアポトーシスを誘導して除去する定番の方法ATTAC法を用いて防げるか?すなわちアルツハイマー病の発症に異常たんぱく質の蓄積だけでなく、グリア細胞の老化も関わっているのかを調べた研究だ。

まず予備実験として、変異型Tauを神経で発現させたトランスジェニックマウスの脳を調べ、期待通りp16を発現したアストロサイトやミクログリア細胞が集積することを確認する。そのあと、このp16陽性老化グリア細胞の増加を、薬剤でアポトーシスを誘導できるようにしたATTAC法で止められるか調べている。すなわち脳内のグリア細胞の中でp16陽性老化細胞を積極的に除去できることを確認して、タウタンパク質の沈殿によるアルツハイマー病の発症に老化グリア細胞が関わっているかどうかの実験に進んでいる。 すなわち、タウトランスジェニックマウスと、p16―ATTACマウスを掛け合わせ、3週間目からカスパーゼを活性化する薬剤投与を週2回行い、p16を発現した老化グリア細胞を除去し続けると、海馬でのタウタンパクの蓄積を防げることを示している。

また、タウトランスジェニックマウスは8ヶ月で神経変性を起こしてくるが、この神経変性をATTACによる老化グリア細胞除去で防ぐことができる。

そして最後に、実際の治療を考えて、p16-ATTACトランスジェニックマウスを掛け合わせるのではなく、タウタンパク質が蓄積するアルツハイマーモデルマウスを、細胞のアポトーシスを防ぐ機能を持つBcl2の機能を抑えるABT263で治療することで、リン酸化タウの上昇を抑えられるか調べ、見事にタウタンパク質の沈殿を抑えられることを示している。

アポトーシスを逆に高めてやることが、アルツハイマー病を抑えることを示したわけで、これが本当ならこの分野の創薬は大きく変化する可能性がある。今後他にも、オンコリティック薬剤としてやはり期待されている非特異的キナーゼ阻害剤ダサニチブもテストされるだろう。研究のシナリオ自体は陳腐になっているが、同じシナリオを適用できる分野の幅がこれほど広がっていくのに、ただただ目を見張っている。
カテゴリ:論文ウォッチ

9月30日 オキシトシン受容体刺激剤の開発(Journal of Medical Chemistryオンライン発表論文)

2018年9月30日
自閉症スペクトラム(ASD)の最も重要な症状は、社会性の障害、言葉の発達障害、そして繰り返し行動だが、これらは全て社会性の障害を起点に説明できると個人的には思っている(あくまでも私見として聞いてください)。というのも、言語の発達には、他人とのコミュニケーションを求める積極的な気持ちが必要で、社会性が障害されると、当然言語の発達は遅れる。また社会を避けて自分を守ろうと、反復行動を示すのではないだろうか。実際、社会性ではASDの正反対と言えるあまりにも無警戒に他人と関係を持とうとするウイリアムズ症候群の児童は、知能の発達は遅れていても、言語発達は目をみはる。このように、ASD治療の重点は社会性の回復であるとして、これまで愛情ホルモンと呼ばれ、人間の社会性を高めることができるオキシトシンが自閉症の薬剤として期待されている。事実我が国から100名を越すASDに対するオキシトシン経鼻スプレーの効果を調べた論文がすでに発表されており、プラセボ群と有効な違いが得られないという残念な結果に終わっています。ただ、反復行動や、相手の目を見る時間については改善が見られたので、ある程度の効果は認められることも間違いなく、今後更なる研究が必要と結論している(Yamasue et al Molecular Psychiatry :https://doi.org/10.1038/s41380-018-0097-2 2018)。 ただ、これらの研究の最大の問題は、脳に近い経鼻ルートでオキシトシンを投与したとして、どれほど脳に移行するのかよくわかっていないことで、本当はもっと効果があるのに、脳内への移行の問題で高い効果には至らないのかもしれない。オキシトシンは、8つのアミノ酸が結合して作る複雑な構造をしており、視床下部で合成される脳内で効果を示す神経ホルモンで、脳血管関門を簡単に通過するようには見えない。確かにこれまでの多くの研究で脳外からの投与でも効果があるようなので、一定量が脳に到達しているとは思うが、脳への移行がはっきりしない段階では、一般治療へと発展することは難しいと思う。

今日紹介するフランスストラスブール大学からの論文は、まさにこの問題を解決しようと、オキシトシンと同じ作用を持つ、ペプチドとは違う化合物を開発した研究でJournal of Medical Chemistryに掲載された。タイトルは「LIT-001, the First Nonpeptide Oxytocin Receptor Agonist that Improves Social Interaction in a Mouse Model of Autism (世界初のペプチドとは異なるオキシトシン受容体刺激剤LIT-0001はマウスの自閉症モデルで社会性を改善する)」だ。

この研究では、オキシトシン受容体がバソプレシン受容体と構造的に似ていることに注目し、これらの受容体に結合できる化学構造としてのベンゾイル・ベンズアゼピンを骨格とする化合物から始めて、様々な合成を繰り返し、バソプレシン受容体、オキシトシン受容体を発現させた細胞でのシグナル伝達を指標に検討を繰り返し、最終的に化合物57、LIT-0001を合成している。

開発に興味ある人にとっては、合成有機化学としてのLOT-0001までの試行過程が最も面白いのだと思う。また、この薬剤を起点にさらに磨きをかける場合も、これに至るまでの過程は大きな情報と言える。」しかし、私たち合成化学についての素人にとっては、最後に示される化合物の性質が最も重要で、それだけを紹介する。

まず3種類のバソプレシン受容体、およびオキシトシン受容体をそれぞれ発現した細胞を用い、これら受容体のシグナル伝達経路、カルシウム遊離やβアレスチンの受容体へのリクルートを指標にLIT0001を調べると、オキシトシン受容体への作用はオキシトシンと比べて1オーダー低いが、特異性はLT-0001の方が優れていることがわかった、

その上で、オピオイド受容体が欠損することで社会性が失われるモデルマウスに投与すると、10mg/kgで社会性を回復させられることがわかった。

この結果から、全身投与で、脳のオキシトシン受容体を効果的に刺激してくれる薬剤の開発への道が開いたことは明らかで、これまでのオキシトシンの効果を考えると、ぜひ早期にさらなる至適化が行われ、治験が行われる事を期待する。欧米ではASDは60−70人に一人発症すると言われており、医療だけでなく、ビジネスとしても大ヒットにつながる可能性を秘めている。
カテゴリ:論文ウォッチ

9月29日パーキンソン病の神経死を誘導するαシヌクレイン重合阻害剤の開発(Cell Chemical Biology 12月号掲載予定論文)

2018年9月29日
パーキンソン病では黒質のドーパミン産生神経細胞が変性するが、この時細胞内には特徴的なレビー小体と呼ばれる細胞内構造が形成される。レビー小体の分子成分を調べた研究から、これが140アミノ酸の大きさのαシヌクレイン(αSN)からできていることが分かり、パーキンソン病の細胞変性にαシヌクレインの重合と、それが完全に繊維状の構造として固定する前の前駆構造(αSO)が細胞膜やミトコンドリア、そして小胞体の膜に突き刺さって細胞を障害すると考えられている。従って、αSNの合成を阻害し、またαSOの毒性を落とすことで、パーキンソン病の進行を止めることができると期待される。

今日紹介するデンマーク・ Aarhus大学からの論文は、αSNを標的にしたパーキンソン病の進行を止める薬剤の開発で、Cell Chemical Biologyの12月号に掲載予定だ。タイトルは「Potent a-Synuclein Aggregation Inhibitors, Identified by High-Throughput Screening, Mainly Target the Monomeric State (ハイスループットスクリーニングで探索したαシヌクレイン重合阻害剤はモノマー型を標的にする)」だ。

αSNの重合阻害剤の開発はもちろんこれまでも試みられて、薬剤としては使用できるところまでには至らなかったが、いくつか化合物も開発されている。ただ、薬剤として開発するためには、多くの化合物をスクリーニングし、多くのリード化合物を特定し、その構造をもとに薬剤として最適化する必要がある。このためには、重合過程を短い時間で検出するアッセイ系が必要になる。著者らは、αSNのN末端に異なる化合物を結合させ、両方がαSN重合時に近接したとき蛍光を発するFRETという方法を用いて、70万種類以上の化合物のスクリーニングを行うことに成功し、重合阻害剤の候補58種類を特定している。

その後、化合物として望ましい幾つかの性質を合わせた指標を用いて、58種類の化合物を評価し、トップ9種類について、重合阻害活性、さらにオリゴマー、αSOの毒性の抑制活性などを調べ、最終的に薬剤のリード候補として著者らがクラスIIIと呼ぶ、全てスルフォンアミドを骨格として持つ化合物を6種類特定している。こうして得られた化合物は重合化を抑えるとともに、αSOの脂肪膜への結合を抑え、また細胞毒性を弱める活性を持っている。

次に、作用機序を調べ、これらの化合物はαSNの特異的部位に結合して阻害するというより、分子と非特異的にコーティングして重合を阻害し、またその結果αSOの毒性を弱めることが明らかになった。

このスクリーニングでは同時に、重合を高める化合物も特定することができている。共にベンゾオキサゾールを骨格に持っており、今後重合過程をより詳しく解析するのに役立つと思われる。

以上、重合阻害やαSOの毒性阻害活性を持つ薬剤を開発できる可能性はよくわかったが、結局上がってきた化合物が非特異的な一種のコーティング剤だったというのは少し残念だ。というのも、おそらく使用のためには高い濃度が必要になる。また薬剤としての開発を進めるにしても、まだまだ長い過程が必要だと思う。しかし、重合を高める化合物も含めて、それぞれの活性に介入できる化合物が共通の構造を持つことの発見は、今後至適化と呼ばれる過程を進めていくためには重要な情報になっているはずだ。この構造を見て、私たち素人には思いもよらないイメージが頭の中でくるくる回り出している有機化学者が世界には何人もいることは間違いない。
カテゴリ:論文ウォッチ
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