10月10日:地中海食による乳腺細菌叢の変化(10月2日号Cell Reports掲載論文)
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10月10日:地中海食による乳腺細菌叢の変化(10月2日号Cell Reports掲載論文)

2018年10月10日
体外に直接開いている組織は、必ず細菌感染の可能性がある。腸管は当たり前だが、尿管、感染や皮脂腺など、全て外界に開いた管状構造をとり、常に感染の危険がある。誰もが経験するニキビはその典型だろう。また、当然のように常在細菌も存在し、細菌叢研究が進むとともに、研究の対象になっており、多くの論文が発表されている。

この外界に開いた管状構造のもう一つの典型が乳腺で、母乳を飲む子供の腸内細菌叢への影響を調べる意味で乳腺内の細菌叢研究が行われるようになった。今日紹介する米国ウェークフォレスト大学医学部からの論文は、その中でもかなり変わり種で、猿に地中海食を食べさせたとき乳腺の細菌叢の構成が変化するかどうか調べた研究で10月2日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「Consumption of Mediterranean versus Western Diet Leads to Distinct Mammary Gland Microbiome Populations(地中海食と普通食は異なる乳腺の細菌叢の原因になる)」だ。

変わり種といったのは、体に良いことが示されているオリーブオイル中心の地中海食を30週間(8ヶ月近く)アカゲザルに摂取させ、しかも乳腺組織内の細菌層を調べた徹底性で、おそらくこれが可能な研究所はそう多くないだろう。 また、地中海食など、長期的食習慣の効果を確かめた研究結果は、メカニズムが思い通りに追求できない現象であるため一般紙に登場することは、あまりないが、この点でもこの研究は変わり種だ。しかし、両方の間で大きな違いが示されており、雑誌でも掲載を決めたのだろう。

結果をまとめると、「細菌叢の絶対バクテリア数などでは何の変化も起こらないが、細菌叢の多様性には大きく貢献し、また個々の細菌の数については大きな変化を引き起こす」になる。

個人的に意外に思ったのは、地中海食により、セルロース分解性のルミノコッカスノコッカスが腸でも乳腺でも減少することだ。このようにまだまだ腸内細菌叢の変化を頭のなかで理屈をつけて理解するのは難しい。 中でも最も大きな変化を示すのが、乳酸菌でなんと10倍も数が増える。これまで、乳酸菌が乳がんの予防に効くという論文もあるが、どうして食べた乳酸菌が乳腺に到達するのか説明できていなかった。この研究では、地中海食による腸内での変化が、乳腺の細菌叢の変化を誘導し、回り回って乳がんの予防効果を持つと考えている。腸内で起こる変化を理解しようと、乳腺のメタボロームも調べ、胆汁に含まれる様々なメタボライトが地中海食で上昇することを見出している。すなわち、胆汁成分を分解する腸内の細菌層の変化が、胆汁由来代謝物を介して乳腺細菌叢の変化を誘導するというシナリオだ。結局、食の効果は全て腸内細菌叢を通して起こることになるが、このシナリオの妥当性については直接実験が行われておらず、現象論でとどまっている。 以上が結果で、普通の研究になれた頭から考えると、変わり種としか言いようがない。しかし、薬剤開発と異なり、食の栄養学的評価はそう簡単ではなく、おそらく21世紀の重要な課題と言えるだろう。その意味で、このような変わり種の研究が積み重なることは重要だと思う。
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10月9日:古細菌、アルケアから真核生物進化の機能的進化研究(Natureオンライン版掲載論文)

2018年10月9日
これまでの細菌学の研究では、それぞれの細菌をまず培養して研究する必要があった。しかし、大量のDNAシークエンスが可能になったおかげで、培養ができなくとも、ある環境に存在している細菌のDNAをまとめてシークエンスするメタゲノム解析から、続々新しい細菌が発見されている(といっても当然遺伝子上での話)。とくに、熱水環境などに存在する古細菌類のゲノムは、メタゲノム解析により大きく進展した。この結果、驚くことに、真核生物特異的と考えられてきた多くの分子が古細菌から見つかったことで、真核生物の小胞体輸送、ユビキチンシステム、そして細胞骨格のダイナミズムに関わる分子か、その前駆体が軒並み発見された。細胞骨格の核と言えるアクチン分子はその一つだ。例えば最近発見されたLokiといった北欧神話の神々の名を持った古細菌のアクチン様分子は5ー6割ぐらいの相同性を持っており、真核生物と同じ様に働いていた可能性は十分ある。しかしアクチンの重合を支えるプロフィリン分子については、古細菌の対応分子の相同性は2割以下に落ちる。また、古細菌はかなり特殊な環境に生きており、遺伝子がわかってもアクチンタンパク質を調整して、生化学的に調べることが簡単ではなかった。

今日紹介するシンガポールAーStarからの論文は、遺伝子の配列に加えて、構造や実際の機能を組み合わせることで古細菌の持つプロフィリンの機能と進化に迫れる可能性 を示した研究でNatureオンライン版に掲載された、。タイトルは「Genomes of Asgard archaea encode profilins that regulate actin (Asgard系統の古細菌のゲノムに存在するプロフィリンは実際にアクチンを制御している)」だ。

おそらくこのグループの究極の狙いは古細菌のアクチンの機能と動態を調べることだろうと思うが、残念ながらまだ機能的なタンパク質を合成することができない。一方プロフィリンの方は、相同性は低いが古細菌の分子を合成することができる。そこで、まずプロフィリン構造と機能を調べてみようとこの研究に至ったのだと思う。

DNA配列での相同性は極めて低いが、Asgard(北欧の神々の住む領域)古細菌のプロフィリンの結晶構造を調べると、真核生物と結構似ており、アクチンの結合機能にふさわしい構造をしている。また、構造的に重要な領域をベースにしたアミノ酸配列の比較から、古細菌のプロフィリンは、独自のグループに分類できることがわかる。 となると、古細菌のプロフィリンが本当にアクチン重合に関わるか調べる必要がある。ただ、古細菌のアクチンタンパク質が使えないので、ウサギのアクチンに古細菌のプロフィリンを加える実験を行い、真核生物のプロフィリンと比べて100倍近くの濃度が必要だが、ウサギのアクチン重合を誘導できることを示している。また、同じAsgard系統の古細菌のプロフィリンの間でも、活性に大きな開きがあることも分かった。さらに、ウサギアクチンと古細菌ポルフィリンの結合タンパク質を結晶化し、構造を調べている。面白いことに、正常温度で生存しているOdinのプロフィリンとウサギアクチンが結合した複合体は、哺乳動物同士の組み合わせの構造に最も近く、古細菌の中でも生息温度に合わせて様々な変化が起こっていることがわかる。

もちろん似た点だけではなく、はっきりと違っている点もわかる。特に古細菌のアクチンには、真核生物アクチンが集まる際に利用されるプロリンに富む領域が存在しない。これに対応して、古細菌プロフィリンはウサギアクチンのプロリンに富む領域とは結合しないこともわかった。 最後に、真核生物の膜でアクチンの調節に関わる脂質PIP2と古細菌プロフィリンとの相互作用を調べ、反応は見られても極めて弱いことが示され、古細菌でのアクチン重合調節にも脂質は関わっているかもしれないが、哺乳動物とはかなり様相が異なるだろうと結論している。
話はこれだけで、要するにプロフィリンは真核生物と同じ作用を持っているようなので、おそらく古細菌アクチンも同じように使われてそうだというロジックの論文だ。全てを合成できないというもどかしさの中で、なんとか機能を明らかにしたいという気持ちはわかるが、結局は古細菌のアクチンを合成できないと、本当の解決はないだろう。
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10月8日:骨髄移植後の腸内細菌を便移植により正常化する(9月28日号Science Translational Medicine掲載論文)

2018年10月8日
様々な標的薬が開発され、最近ではCAR-Tなどの免疫治療が白血病に用いられるようになってきているが、現在でも白血病根治治療の主役は骨髄移植と言っていい。そして、現在もなお骨髄移植には一定の危険が伴う。その最大のものは、白血病細胞と同時にホストの血液幹細胞を除去して、移植細胞が定着しやすくするための放射線治療や化学療法による副作用と、移植骨髄の中のT細胞による宿主細胞への障害GvHだ。とくに前者は、一般のガンの化学療法と比べても徹底的に行うことから、腸内も含め体内の細菌を徹底的に除去し、移植骨髄の定着までは無菌室内に隔離する。

当然ながら、これまで完全に腸内細菌叢を除去すると、その回復には時間がかかることがわかっている。そして、最近の研究から腸内細菌叢のバランスにより、病原性の細菌の増殖が抑えられていることもわかっている。とすると、定着が確認され無菌室を出た患者さんもそれで安心せず、できるだけ早期に正常の細菌叢の回復を図る必要がある。今日紹介する米国スローン・ケッタリングガン研究所からの論文。これは移植前に採取していた本人の便の移植で実現できるか確かめた臨床治験で、9月28日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Reconstitution of the gut microbiota of antibiotic-treated patients by autologous fecal microbiota transplant (抗生物質の治療を受けた患者さんの腸内細菌叢を自分の便の移植で回復させる)」だ。

研究では、700人以上の骨髄移植を受けた患者さんの便の細菌叢の追跡を行い、100日経っても、細菌叢の量と多様性の回復が遅々として進まないことを確認している。しかし、腸内細菌叢の回復の遅延が移植の成績にどう関わるかは、大半の患者さんで細菌叢が正常化しないため、正確な比較ができない。そこでこの研究では、25人と少数ではあるが、骨髄移植を受けた患者さんを無作為に便移植群と、非移植群にわけ、骨髄移植後に移植処置前に採取していた本人の便移植により、細菌叢の回復を早めることができるか、そして便移植は骨髄移植と組み合わせても安全かを調べている。

結果は明瞭で、様々な手法で検査して、便移植を行うことで、細菌の量、多様性、いわゆる善玉菌の量など、どの点を取っても便移植は、細菌叢の正常化におおきな効果がある。そして何よりも、移植後定着が始まってからの便移植はこれまでのところ重大な副作用がないという結果だ。

これは治験研究で、エンドポイントといわれる評価項目を、安全性と、細菌叢の回復に絞っているため、それ以上の項目、例えば移植自体の成績への効果については何も述べられていない。しかし最終的に、腸内細菌叢の正常化が骨髄移植の結果に関わるかを知ることが目的なので、今後さらに大規模な研究が行われると予想できる。

もちろん便移植といっても、カテーテルでの移植で患者さんに不快感はないい、何よりもコストは低い。したがって、例えば移植後の腸炎などが減るという結果がでれば、当然一般治療として定着するだろうし、長期の生存率なども時間をかけて調べられると思う。しかし、同種骨髄移植過程を考えてみれば、このような治験はもっと早い時点で試みられるべきだったように思える。
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10月7日:数を数えるニューロン(11月7日号発行予定Neuron掲載論文)

2018年10月7日
私たち日本人は、表意文字も、表音文字(実際には子音と母音それぞれに別れたアルファベットと異なり、仮名は音節に対応しているので表音節文字になる)両方利用する稀有の民族だが、英語でも一部は表意文字を使っている。その代表が、アラビア数字で、例えばoneという3つのアルファベットが一文字で表現されている。そしてそのルーツを辿ると、対象の具体的な数に至るのだが、この数字の認識を脳はどう処理しているのか大変興味がある。とはいえ、人間で数字の認識や計算を調べようとしても、今の画像技術ではどうしてもおおきな神経集団を追いかけるしかなく、一個一個の神経細胞がどう反応しているのかを調べることは難しかった。そのかわりに、猿を用いた実験でこの課題は研究されてきたが、想像通り数字や計算を猿がどう理解しているのか、なかなか猿の気持ちになれないため、研究の解釈には限界が伴った。

今日紹介するドイツ・ボン大学からの研究はてんかんの診断のために手術的に多数の電極からできている記録装置を海馬近くに埋め込んだ患者さんの、様々な数に対する反応を調べた稀有な研究で、11月7日発行予定のNeuronに掲載された。タイトルは「Single Neurons in the Human Brain Encode Numbers(ヒトの脳内で数をコードする単一ニューロン)」だ。

この研究では内側側頭葉(MTL)と呼ばれる、記憶に関わる海馬とその周りを含み領域に数百本の電極の束を留置し、各電極からの神経興奮を記録するという、動物では普通に行なわれている記録を、人間で行なっている。

記録をとる課題だが、約5秒ほどの間に、画面に連続的に提示される様々な大きさのドットで表現された具体的数(例えば3つのドット)と計算の指示(+ or ー)を見せて頭の中で計算させ、その数を1ー10までの数字が並ぶキーボードで答えるという課題をこなしてもらい、それぞれの段階で(例えば数字を見たり、足し算をしたりする)、神経細胞がどう興奮するかを調べる。例えば、2個のドットをみて、それを2として認識し作業記憶として保持しているあいだに、今度は足すのか引くのか演算ルールが提示され、その後でもう一つの数字がドットの数として示される。それを前に見た数字に足すか、引くかして、最終的に5という数字を押すという一連の過程で、神経細胞の活動を記録している。500を越す電極一本一本の一定時間内の反応をPCの助けを借りながら解析する一種のビッグデータアナリシスだ。

この研究では、視覚から数の概念を統合するプロセスは対象にせず、この初期過程で数の表象へと変換されたあとの過程が調べられている。結果を見て最も驚くには、1、2、3といった数に反応する細胞が存在することだ。すなわち、3つの点を見た時いつも強く反応し、他の数の点には弱くしか反応しない神経細胞が数多く見つかる。すなわち、細胞ごとに反応を起こす好みの数を持っているということだ。しかし、これは決して一対一の対応になっているわけではない。例えば5に反応する神経細胞は、4、3、2と数が5から離れるにしたがって反応の強さが低下していく。すなわち、全体の数の表象が把握された上で、それぞれの数と他の数との関係性が一つのニューロンに認識されていることになる。また、最初の図に示されたドットの数を見た時形成されたそれぞれの細胞の反応パターンは、少し経過した後の作業記憶でも同じように維持されるが、他の数と計算した後、答えを出した時に反応する数に対しては同じ細胞は対応していない。

さらに面白いのは、同じような実験をアラビア数字、すなわち抽象的文字で表された数でを見せて行なっており、ドットで示された具体的な数の表彰と、アラビア数字を見た時に反応する神経とは、一致していることは珍しく、それぞれの神経は離れて存在していることを示している。

他にも色々解析が行われ、とくに一種のAIアルゴリズムを用いて、予測性が生まれるかなども調べているが、この論文の重要なメッセージはすでに紹介したと思う。数字の概念については、やはり人間でも行う必要があったこと、また誰もが関心がある問題なので、私のような素人にもとても面白い論文だった。 最後に、最も面白かった現象をもう一つ紹介すると、1から5までの数に反応する神経を数えると、1と5に反応する神経が最も多いのにも驚いた。ひょっとしたら私たちの指の数と何か関係があるのかもしれないし、十進法の原点を見る思いがした。
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10月6日:ミトコンドリア病の遺伝子治療(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2018年10月6日
ミトコンドリア病については、一度ニコニコ動画で取り上げたが、一般の方にはなかなか理解しにくいことが多いのではないだろうか。ミトコンドリア(Mt)は細胞自体からは反独立した小器官で、自らの活動のための独立した遺伝子も持っている。さらに、これらの遺伝子に突然変異が起こる場合も、全てのMtが変異型に変わるわけではなく、そのため異なるゲノム構造を持つMtが一個の細胞の中で共存するヘテロプラスミーと呼ばれる状態が起こり、変異があっても、そのMtが正常と比べて優勢になるまで症状が出ない。また、症状が出る場合も、全ての組織で同じように異常が発生するのではなく、高いエネルギー代謝を必要とする、脳や網膜、心筋などが選択的に侵されることになる。

ミトコンドリア病の治療は当然変異遺伝子をもとに戻すことが究極の治療だが、ヘテロプラスミーの状態を考えると、変異Mtを減らして、機能的Mtを増やすことで症状の改善が望める可能性がある。今日紹介するマイアミ大学からの論文はこの可能性を動物モデルで探った研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「MitoTALEN reduces mutant mtDNA load and restores tRNA Ala levels in a mouse model of heteroplasmic mtDNA mutation (MitoTalenは変異ミトコンドリアの比率を減らし、マウスモデルのミトコンドリア変異でtRNA-Alaを回復させる)」だ。

この研究が治療対象にしたミトコンドリアゲノムの変異は、5024番目のCがTへと変化した変異で、この結果Alaninに対するtRNAが不安定化する。変異の性格から、激烈な症状が出るわけではなく、高齢になってから心機能が侵されることが主症状になっている。 この変異を持つMtを、彼らがMitoTalenと呼ぶミトコンドリア特異的遺伝子編集法(CRISPRとは異なる)を用いて生体内でも細胞から除去できるか調べている。

TALENとよばれる編集法の原理については説明を省略するが、2本の相補的合成DNAを用いてDNA分解酵素のユニットが出会うように設計して、特異的配列を持つDNAを分解させる。このとき、ミトコンドリアに選択的にTALENが取り込まれるよう設計している。この2種類のTALENをアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)に組み込んで、筋注、あるいは全身投与で、変異ミトコンドリアの比率が減り、症状の改善があるかを調べている。

結果はかなり有望だ。まず筋肉注射をした実験では、MitoTalenで治療した群では。変異Mtの比率が24週まで徐々に低下し、最終的に20%程度に抑えられている。これは、変異Mtが除去され、正常Mtが期待通り増加していることを意味している。さらに同じような効果が、静脈注射でも得られている。したがって、心筋や骨格筋を標的にするとき、全身投与が可能であることを示している。また、異常Mtの低下を反映して、tRNA-alaの数も正常化していることから、正常Mtと競合させるという戦略が十分治療に仕えることを示している。

今回調べられたモデルマウスは、もともと症状が少ない。おそらく、より重症で早期に病気が発症するケースについては、早期診断、早期治療が必要になると思う。ミトコンドリア病は、眼科領域にも多いため、おそらく局所投与に向くという意味では実用化も早いかもしれない。遺伝子編集の医療応用は着々と進んでいることがよくわかる。
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10月5日:自由意志の脳回路(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2018年10月5日
デカルトの2元論、すなわち心と体 (わかることとわからないこと)を分けて考えることは、科学を宗教から解き放った点で、近代の根幹に今も位置している。

もちろん、デカルトが科学の対象から外した(すなわち神に任せた)心は、イギリス経験論、特にヒュームによる確信に満ちた神の否定の結果、居場所を求めてさ迷うことになる。しかし、彷徨うと考えるのは二元論を支持することを前提とした議論で、実際には分離すること自体が間違っている。しかし心を含め、分からないことがある以上、つねに「心」の領域は顔をのぞかせる。この時の一つの顔が「自由意志」があるのか?という問いだ。私の答えは、「私たちの脳はちゃんと自由意志の回路を持っており、今は100点ではないが、科学的説明は常に可能で、それも少しづつ進んでいる」になる。

今日紹介するテキサス・バンダービルト大学からの論文は私と同じで100点でなくても自由意志を脳回路で説明しようとした研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載されている。タイトルは「Lesion network localization of free will(自由意志の脳領域の障害ネットワーク)」だ。

この研究では自由意志を、1)自発的に動く気持ちが失われる精神状態、および2)自己の行動に対する責任感、に分解し、このどちらかが障害される脳の局所的損傷を自分の症例について対応させている。

それぞれの症状とも、脳の1箇所に支配領域が限定されるのではなく、様々な脳領域の損傷がそれぞれの症状に対応する。これまでの考えに従って見たとき、自由意志を支える2本柱を支配する特定の領域はないという結論になる。しかしこの研究では、自由意志に関わる脳領域は、一見バラバラに存在するように見えても、必ず関連があるはずだと考え、それぞれの領域を、データベース化されている、安静時の脳内各領域の結合性と対応させると、自発的行動を障害する脳領域は、MRIで検出できる共通のネットワークに属している。すなわち、一見領域はバラバラに見えるが、実際にはほとんどの領域が一つの大きなネットワークを形成しているという結果だ。

とはいえ、自由意志が障害される脳損傷部位だけから結論を急ぐのは問題があると考えたのだろう。膨大なデータベースの中から脳刺激により自由意志に変化をきたす部位を集め、これらが損傷領域を繋ぐネットワークに乗っていること、さらには自由意志が侵される精神疾患患者さんの脳の活動に変化が見られる領域も同じネットワークに乗っていることを確認して、損傷領域から明らかにされるネットワークが、荒唐無稽なものではないことを強調している。

ではどんなネットワークかと良く読んで見ても、明確な答えが示されていない。もちろん、脳上にネットワークが描かれていても、それは太い筆で領域を塗ったと言った印象で、ネットワークを明示するには至っていない。はっきり言って、掛け声倒れの研究ではないかという印象を持った。

とはいえ、私はこのような研究がどんなに中途半端で終わっていても、強く支持したい。それは、自由意志もいつかは科学的説明(おそらく単純な回路図では済まない)が必ず可能であろうという信念で研究が行われているからだ。これからも、このような論文に出会えば、ぜひ紹介していきたいと思っている。
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10月4日:母親の自覚症状から死産を早期発見できるか?(The Lancetオンライン版掲載論文)

2018年10月4日
多くの先進国で少子化は重要な問題になっている。このために最初に考えられる取り組みが、世界で260万人発生する死産を減らすことだが、このためには死産の前兆をキャッチし、対応する必要がある。これまでヨーロッパでは、早期診断の方法として、妊婦さんの自覚症状が使えるのではと、研究が進んで来た。すなわち、妊娠後期の子供の胎動の変化を、自覚的にいち早くキャッチして、医師にできるだけ早く相談し、必要なら帝王切開などで早期に出産させる体制を確立し、これにより死産を減らすという戦略だ。

今日紹介する英国医学研究協議会のトミーセンターを中心とする、全英国を巻き込んだ治験研究は、なんとお母さんに胎動に気をつけてもらって、変化があれば医師に早期に相談するというパッケージが、本当に効果があるのか調べた研究で、The Lancetオンライン版に掲載された。タイトルは「Awareness of fetal movements and care package to reduce fetal mortality (AFFIRM): a stepped wedge, cluster-randomised trial (胎動の認識と子供の死産を低下させるケア・パッケージ(AFFIRM):クラスターレベルで無作為化したステップウェッジデザイン治験)だ。

要するにお母さんに胎児の異常を早期に気づいてもらう必要があり、この研究ではノルウェーで開発されたお母さんの教育プログラムを用いて、これを行っている。具体的には、参加した連合王国33箇所の出産施設を、無作為に教育群と、教育をしない群にわけ、教育する群に選ばれた施設では、出産に関わる医療従事者の教育とともに、妊婦さん自体もどのように胎児の動きの異常を感知するかについてトレーニングする。その後妊娠期間を追跡し、教育プログラムを受けることで死産が減るかどうかを調べている。

さすが英国で、総勢で40万人の妊婦さんが治験に参加している。結果だが、結局死産の数や、低体重児の発生でみると、教育プログラムを受ける効果はほとんど認められないという結論になった。その上で、帝王切開数や陣痛誘導処置の数は10%ほど上昇するし、入院日数も増える。当然、教育プログラムを用意して、それを受けてもらうことにも多くのコストがかかる。まだ進行中の治験もあるらしいので、これらの結果が出てくるまで最終判断はないとは思うが、政策的にはおそらくこのプログラムは中止ということになるように思う。

お腹の中の胎児の動きと聞くと、確かに利用価値が高そうに思えるが、結論としては「そんなことを気にせず、おおらかに妊娠期間を過ごしてください」ということになるのだろう。我が国のお母さんにも、小さな変化に一喜一憂する必要はないことは伝えられるような気がする。

しかし、この研究結果は妊婦さんに伝えるために行われたものではない。死産を防ぐ決め手は見つからず、残念な結果に終わったが、少子化を少しでも食い止めようと医療界全体で、可能性を科学的に検証し、その結果を見て政策を決める英国NHSの徹底性だ。このことを知るだけでも、この研究の意義は大きい。
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10月3日:スタチンと抗PD-1の併用(11月1日Cell掲載論文)

2018年10月3日
昨日に続いてPD-1を使った新しい論文がないかと、雑誌を眺めていたら、極めて風変わりで、意表を突く論文が11月1日に発行予定のCellで見つかった。本庶さんは昨日の会見で、CellやNatureの論文は9割間違っていると言っているらしく、この中国広州からの論文を信じるようには思えないが、なんと高コレステロールに対する薬剤スタチンとPD-1を組合わせたガンの免疫療法が可能であることを示した研究で、タイトルは「The Mevalonate Pathway Is a Druggable Target for Vaccine Adjuvant Discoveryメバロン酸経路はワクチンのアジュバントの発見のための薬剤開発標的になる」」だ。言ってみれば、本庶さんのノーベル賞と、Brown/Goldsteinのノーベル賞が重なったような話だ。

この研究はメバロン酸経路の酵素に変異が起こった患者さんでは、免疫が亢進しているという1990年代に示された報告から、メバロン酸抑制剤のスタチンが免疫を高めるアジュバントとして働くのではないかと言う発想から研究を始めている。

まず市販の様々なスタチンと抗原を混合してマウスに注射する極めて単純な実験で、脂肪に親和性を持つ形のスタチンが免疫反応を10−100倍増加させ、よく使われるアラムアジュバントをはるかに凌駕することを示している。また、これを利用してマウスをインフルエンザから守れるワクチンも作ることができることを示している。

期待通り、スタチン、特にシンバスタチンが免疫反応を強く誘導するアジュバントとして働くことが分かったので、次にメバロン酸経路のさまざまな酵素を薬剤で阻害する実験を行い、

1) シンバスタチンが、樹状細胞の抗原の保持時間を高め、
2) これはシンバスタチンによりゲラニル・ゲラニルディフォスフェート(GGPP)の合成を抑え、この結果small GTPaseのゲラニル化を低下させ、細胞内のエンドゾームの成熟が止まり、抗原が長くエンドゾーム内にとどまるため、多くの抗原が長時間提示される、
3) その結果強い抗原刺激が長く起こり、免疫反応が高まることを示してい
このように、メバロン酸の下流の阻害剤、またsmall GTPaseのゲラニル化阻害剤、そしてエンドゾームの成熟阻害剤など、樹状細胞の抗原提示能を高める可能性のある、多くの標的が示されたことになる。

この方法がガン免疫にも利用できるか、ガン細胞を免疫源として使う実験で確かめている。すなわち、シンバスタチンとともにガン細胞を免疫したほうが、長期の延命がはかれることを明らかにしている。そして最後に、ガン細胞とシンバスタチンを注射した後、抗PD-1抗体を併用すると、ガンの増殖を強く抑制できることを示している。 2種類のガンモデルで行なった研究で、他のガンにどこまで通用するかはわからないが、差はおおきい。ただ本当に抗原提示だけでここまで反応があがるのか、他のアジュバント作用がないのかわからない。しかし、ガンの標的としてこれまでガン細胞の増殖に関わる分子が探索されてきたが、PD1抗体のおかげで、免疫過程も抗ガン剤開発の標的になっていることがよくわかる。

我が国ではPD-1が効かない人がいることがよく問題にされるが、PD-1が効果を示すためには免疫が成立していることが必須条件になる。従って、効かないと思われても、免疫を成立させればPD-1を用いてその免疫を高めることができる。そのために今必要なのは、この論文のように、PD-1を効くようにするため、馬鹿らしいと思えるような可能性までしらみつぶしに当たる研究の多様性だ。また、このためにはネオ抗原に標的を定めるといった声も聞こえてくるが、研究の多様性を奪ってしまえば、せっかくのPD-1も使用が限られる。今何が必要かをしっかり見定めることが、今こそガン治療の領域では求められている。
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10月2日:免疫チェックポイント治療の効果を予想する(9月19日号Science Translational Medicie掲載総説)

2018年10月2日
昨日仕事からの帰りの電車の中で本庶先生のノーベル賞受賞のニュースを聞いた。James Allisonとの共同受賞で、免疫チェックポイント治療がこれほど急速に普及し、多くのガン患者さんを救っていることが評価された。もともと本庶先生は、免疫グロブリン遺伝子のクラススウィッチが遺伝子再構成により起こることを発見した業績で有名で、私も免疫学会でアメリカから帰ってきたばかりの本庶先生がGパン姿でこの話をしたのを今もおぼえている。その後、このメカニズムをめぐって長い研究が続き、本庶先生が医学部長の頃、ついにAIDを発見し、このメカニズムを解明した。その時、教授会で「もう安心して引退できますね」と余計なことを言ったところ、「これからや」と一喝された。

今回のノーベル賞にちなんで、何かチェックポイント治療に関わる論文が手持ちのリストにないかどうか見てみると、一つ総説があったので、今日はそれを紹介することにした。コーネル大学医学部を中心として、様々な国の臨床家が集まって書いた総説で、ちょっと古いが9月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「The hallmarks of successful anticancer immunotherapy (ガンの免疫療法の成功のための指標)」だ。総説としては羅列的で、そう面白くはなかったが、扱う問題は大事だ。

さて私がガンの根治の鍵は免疫が握っていることをはっきりと認識したのは、実は現役を退いてから、CAR-Tと呼ばれるガン抗原に対するキメラ抗原受容体を発現するT細胞による白血病の治療治験の論文を読んだ時と、メラノーマに対する抗CTLA4及び抗PD-1抗体の効果についての治験論文を読んだ時だ。20世紀後半のがん免疫に関する研究が、ついに臨床に実ったと強く感銘を受けた。

とはいえ、すべての患者さんが免疫療法に反応するわけではない。どうしても反応する人と、反応しない人が出てしまう。この差を決めるさまざまな指標についてまとめているのがこの総説論文だ。ただ、まだまだ効果を前もって予測する決め手はなく、やってみないと分からないことが強調されている。総説の順番に紹介する。

ガン細胞側の要因 チェックポイント治療(CPT)は、すべての免疫機能を活性化するので、それがガンの治療に有効であるためには、まずガンに対する免疫が成立している必要がある。現在この指標が最もよく研究されている。

免疫成立には、正常には存在せず、ガンにだけ存在する抗原の存在が必要で、これをネオ抗原と呼ぶが、これはガンゲノムに突然変異が多いほど、存在する確率が高くなる。CPTが最初に認可されたメラノーマは日光にさらされ多くの変異があると考えられるし、肺がんもタバコをはじめとする様々な因子に晒されて変異が多い。最近、FDAはDNA複製エラーを修復する酵素の不全が認められる患者は、ガンの種類を問わず CPTの適用として認めたが、これも修復酵素欠損で突然変異によるネオ抗原の数が上昇するからだ。

また、ガン細胞内で自然免疫が刺激される状態にあると、免疫反応が高まるため、CPTも効果が高くなる。また、インターフェロンの分泌が高いと免疫の成立が抑えられることもわかっており、癌自体誘導性も治療の成否に深く関わる。

一方、癌自体が免疫を抑えると、予後が悪い。もともとCPTはPD-L1を発現する癌により、PD−1を介して免疫反応が弱められるのを、抗体で抑えるから効果を示す。その意味で、治療前のガンがPD-L1を発現している事は、この治療が効果を持つ可能性が高い。他にも、免疫機能を抑えるさまざまな分子が知られており、これらの発現から治療効果を予測することができる。

ネオ抗原は組織適合性抗原と結合してはじめて免疫原性を示す。そのため、がん細胞に組織適合性抗原が発現していないとCPTは効果が無い。このような免疫の標的になりにくいがんの特徴を知ろうと研究が続いているが、まだ認定されたガンの感受性指標はまだはっきりしていない。

癌組織浸潤細胞の要因 実際の患者さんのがんのリンパ球の構成を調べることは簡単でない。しかし、浸潤細胞の構成や、がん組織内での分布、そして浸潤細胞の機能を調べることは今後のCPTの効果を占う上で大変重要で、予後に関わるいくつかの指標もわかりつつあるが、まだまだ研究と経験が必要だ。 最も重要なのが、がん組織に癌を殺す機能を持つリンパ球浸潤がはっきりしていることで、これが多いと免疫が成立している可能性が高く、重要な指標になる。逆に、いわゆる抑制性T細胞とそれを誘導する樹状細胞の存在はCPTの効果が低いことを予言する。他にも最近では、NK細胞は免疫成立を高めることも知られている。 ただ、このような浸潤細胞の絶対数を算定することは簡単ではない。

組織上の浸潤細胞の分布も予後因子になる可能性がある。がんの中まで浸潤しているか、がんの周辺だけに存在するのかなど、世界規模の研究が進んでいる。今後、癌の組織像から効果が占える時が来るのではと期待される。 また、浸潤細胞により分泌されるサイトカインなどの種類も予後を知るのに利用できる。例えば、インターフェロンの発現はがん免疫の成立を抑制している。このような機能的な分子パネルを作成するために研究が進んでいる。

ガンのストローマと血管

ガンの活動を調節する最も重要な条件が、ガン周囲の環境で、ガン組織で間質細胞のタイプは予後を占う因子として、標識の探索が続いている。また、浸潤リンパ球の入り口になる血管細胞の性質もCPT の効果を予測するための重要な指標となる。ただ、これは当然ガンごとに多様で、はっきりとしたする分子マーカーの発見にはいたっていない。 全身性の要因

長くなるので、これ以上詳しい紹介はやめるが、もちろん様々な全身性要因も予後因子になることが知られている。例えば、腸内細菌叢がCPTの効き方に影響するという研究などはその典型だ。 結局この総説は羅列的で、まとまりのないものだが、結局まだまだCPTの効果を予測するのは難しいことを物語っている。このような状況から、一つの指標で確実に予後を占えないことは確かなので、指標を組み合わせて診断することが重要になる。いくつかの指標をdeep learningさせて診断するAIの開発で、ここでは紹介されていないが、最近論文の数が増えてきたことから、おそらく予後診断の中心になるような気がする。 もっとふさわしい論文を選ぶべきで、いつものことながら、本庶先生の期待を裏切ることになった。とはいえ、本庶先生おめでとうございます。
カテゴリ:論文ウォッチ

10月1日:老化グリア細胞がアルツハイマー病を助長する:わかっていても驚く結果(Natureオンライン版掲載論文)

2018年10月1日
9月19日、「医療の対象としての老化」というタイトルで、JAMAに掲載された3編の意見論文を紹介したが、要するに体全体の老化を、役立たなくなった老化細胞を積極的に除去することで遅らせることができるという結果に基づき、老化を医療の対象にすることができるという、前向きの話だった。またこの総説だけでなく、実際私のブログでも同じ内容の論文を多く紹介してきた。従ってよく似た論文がでても、少々のことでは驚かないのだが、今日紹介するメイヨークリニックの論文を読んで、また驚いてしまった。

タイトル「Clearance of senescent glial cells prevents tau-dependent pathology and cognitive decline(老化したグリア細胞を除くことでタウタンパク質による認知機能低下を抑えることができる)」で、Natureオンライン版に掲載されている。

9月19日に紹介した3編の総説のうち一編(http://aasj.jp/news/watch/8968)、および7月15日に紹介したNature Medicineの論文(http://aasj.jp/news/watch/8679)とも、メイヨークリニックの老化研究所からの論文だったが、今日紹介するのもグループは異なるがメイヨークリニックで、メイヨークリニックが老化研究に重点を置いているのがよくわかる。

今日紹介する論文の発想は、「同じ柳の下にドジョウ」の話で、発想は単純だ。異常Tauタンパクを発現するアルツハイマー病モデルマウスの認知機能の低下を、これまで用いられている老化によりp16が発現した細胞を薬剤でアポトーシスを誘導して除去する定番の方法ATTAC法を用いて防げるか?すなわちアルツハイマー病の発症に異常たんぱく質の蓄積だけでなく、グリア細胞の老化も関わっているのかを調べた研究だ。

まず予備実験として、変異型Tauを神経で発現させたトランスジェニックマウスの脳を調べ、期待通りp16を発現したアストロサイトやミクログリア細胞が集積することを確認する。そのあと、このp16陽性老化グリア細胞の増加を、薬剤でアポトーシスを誘導できるようにしたATTAC法で止められるか調べている。すなわち脳内のグリア細胞の中でp16陽性老化細胞を積極的に除去できることを確認して、タウタンパク質の沈殿によるアルツハイマー病の発症に老化グリア細胞が関わっているかどうかの実験に進んでいる。 すなわち、タウトランスジェニックマウスと、p16―ATTACマウスを掛け合わせ、3週間目からカスパーゼを活性化する薬剤投与を週2回行い、p16を発現した老化グリア細胞を除去し続けると、海馬でのタウタンパクの蓄積を防げることを示している。

また、タウトランスジェニックマウスは8ヶ月で神経変性を起こしてくるが、この神経変性をATTACによる老化グリア細胞除去で防ぐことができる。

そして最後に、実際の治療を考えて、p16-ATTACトランスジェニックマウスを掛け合わせるのではなく、タウタンパク質が蓄積するアルツハイマーモデルマウスを、細胞のアポトーシスを防ぐ機能を持つBcl2の機能を抑えるABT263で治療することで、リン酸化タウの上昇を抑えられるか調べ、見事にタウタンパク質の沈殿を抑えられることを示している。

アポトーシスを逆に高めてやることが、アルツハイマー病を抑えることを示したわけで、これが本当ならこの分野の創薬は大きく変化する可能性がある。今後他にも、オンコリティック薬剤としてやはり期待されている非特異的キナーゼ阻害剤ダサニチブもテストされるだろう。研究のシナリオ自体は陳腐になっているが、同じシナリオを適用できる分野の幅がこれほど広がっていくのに、ただただ目を見張っている。
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