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1月13日新しいサイトカインをデザインする(1月9日号Nature掲載論文)

2019年1月13日
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今年は私の都合で講義ができなくなってしまったが、京大皮膚科の椛島さんの厚意で、皮膚科の授業として「皮膚科で習えない皮膚の話」と題して、皮膚にまつわる進化の話をさせてもらっている。この時最初に話すのが、2014年に発表された象ザメのゲノムの話だ(Nature 513:574, 2014)。読んだことのある人なら間違いなく驚いたと思うが、免疫学的に最も原始的なサメでは、私たちがCD4T細胞の機能を支える分子として理解している分子群がCD4をはじめとしてほとんど存在しない。その中には、最初の頃にわが国で遺伝子クローニングされたIL2, IL4,IL5もふくまれており、またTregの転写因子FoxP3やリンパ節誘導に関わるinducer cell の転写因子RORγも存在しない。すなわち、これらは免疫系が複雑化するとともに後から生まれてきたことになる。ではこのサメでのT細胞の基本形は何かというと、CD8T細胞で、インターリューキンで重要なのはIL15とIL7だけだ。すなわち、長いCD4T細胞研究の成果が、写真のネガのように象ザメゲノムから抜けている。

前置きが長くなったが、今日紹介するワシントン大学からの論文は進化とは無関係の構造有機化学の話だが、もう一度進化を逆回しするという話に思えたので紹介することにした。タイトルは「De novo design of potent and selective mimics of IL-2 and IL-15 (IL2とIL15の作用を持つ疑似体を新たに設計する)だ。

この研究の目的は、IL2の持っている生物学的な不具合を直した新しいリガンドをコンピュータでデザインすることだ。IL2はT細胞を増殖させる強い活性があるのに、あまり臨床で使えないのは、その原因がよくわからないさまざまな副作用が出るからだが、最近の研究から、CD25がないマウスではこのような副作用が減ることが知られていた。そこで、IL2でCD25に結合しない分子を設計しようと試みている。IL2もCD25も象ザメに無いので、一種の進化の逆戻りを試みているようにわたしには見えた。

IL2受容体はα(CD25)とβ、γの3分子が集まってできているが、IL2とこれら受容体との結合の構造的解析を行い、βγに結合する4本のヘリックスをスタートに、ここはよく理解できていないがコンピュータを使った分子設計を行い、最終的にβγに強い結合性を持ち、STAT5を強く活性化して、しかも比較的安定な100アミノ酸からなる人工リガンドを設計するのに成功した。こうしてできたリガンドは、ヒトIL2とは14%、マウスIL2とは24%しかホモロジーがない。

次にαβγとβγの受容体セットを持つ細胞でその活性を調べると、αを必要とするIL2とは異なり両方同じように刺激することができる。すなわち最初計画したようなリガンドが完成している。また、βγ受容体との結合を構造解析すると、CD25がなくてもIL2と同じように受容体と結合する。

最後に、ではIL2の持つ問題を新しいリガンドは解決できたのか調べている。結果は期待通りで、Tregの増殖はおさえて、CD8T細胞の増殖を強く誘導するリガンドができている。そして、マウスに注射して抗腫瘍効果を調べると、IL2よりはるかに強い効果が得られる。

以上が結果で、臨床でも実用可能なリガンドを設計できるコンピュータのシミュレーションソフトを完成させたという点が本当は一番重要な点かもしれない。

ただ、この研究では、IL15との比較がされていないのが少し不満だ。たしかに、IL15はそれだけではβγに弱くしか結合できないので、比較にならないのかもしれないが、象ザメには存在し、進化の逆回しと言う意味では、IL15との比較は面白いように思った。残念ながら、象ザメでIL15Rαまで詳しく調べていたかどうかわからないが、IL7もあるので、おそらくβγ受容体は存在するだろう。従ってひょっとしたらIL15の原型はβγを受容体に使っていたのかもしれない。もしそうなら、コンピュータで進化の逆回しができるのではと期待した。


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