最初の分野は自閉症スペクトラムに関する論文で、できる限り多くの論文に目を通したいと思っている。理由は、人間の社会性やコミュニケーションについて多くのことが学べること、ゲノムから脳科学そして行動心理学まで幅が広いこと、そして何よりも今後様々な治療法が生まれると個人的に信じているためだ。ぜひ今年もこの分野のいい論文を紹介したいと思う。
さてその最初だが、オリジナル論文ではなく、自閉症スペクトラムの表情についての多くの文献をもう一度まとめ直したメタアナリシス論文を取り上げる。カナダ。シモンフレーザー大学からの論文で、昨年のAutism Research12月号に掲載された。タイトルは「Facial Expression Production in Autism: A Meta-Analysis (自閉症での顔の表情の表現:メタアナリシス)。
当然ながら表情は言葉と並ぶ重要なコミュニケーション方法だ。当然社会性や他人との関係に障害がある自閉症スペクトラム(ASD)で障害されていることを示す多くの論文があるだろうと直感的に思う。ただ、1−2編の論文で済まさず、これまでの研究を集めて、自分の目で見直し、様々な結果を再集約するのがこの研究で行われたメタアナリシスだ。
(オリジナルではないと敬遠する向きもあると思うが、特に臨床現場では重要な手法だ。さらに最近では、ウェッブ上に多くのゲノムデータが蓄積されてきているので、これらのデータを集めて計算し直す、メタゲノム論文も多く見受けられるようになった。臨床研究に関わっている多くの若者には、ぜひトライして欲しい方法だ。)
この研究では1967年からの自閉症と表情に関する研究論文1309編から、安心して使えるデータを利用できる論文37編を拾い出し、これらの論文を自分の目でまとめ直している.以下に述べるように結論は単純だが、実際にはそれぞれの論文で使われている概念を統一し直し、研究の仕方をカテゴリー化し、最終的に同じ土俵で比べられるようにする作業は大変で、十分オリジナリティーの高い研究だと私は思う。
この努力の結果を箇条書きにすると以下のようになる。
1) まず、ASDと典型的な人の間には、質的にはっきりした差が認められる。ただし、急な感情的刺激に対する反応の強さや速さなどには差が認められない。
2) 質的な差異についてみると、自然の表情がぎごちないとか機械的などと記述され、また特定の表情を意図的に作ることはうまくない。
3) 社会的な慣習になっているような表情を作るのはうまくなく、また他の人に表情を合わせるのも困難を伴う。
4) 一般的に、自然に出てくる表情の差の方が、何かに反応して出てくる差よりも大きい。
5) 表情の差は、年齢を重ね、知的に成長することで解消に向かう。
これらの結果から、ASDの表情の変化は、社会性や他人とのコミュニケーションの問題をそのまま反映する窓になると結論している。そして、表情をより客観的な指標で評価することで、画像解析や、ほかの生物学的検査との相関研究も可能になる。その上で、より個人に即した記述を重ね、neurodiversityの背景を知り、特にアレキシサイミアとして知られる感情認知障害の理解にも大きな貢献ができると締めくくっている。
このように、ASD研究は多岐にわたっていることが理解していただけたと思う。今年も多くのASD研究を紹介したいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ