昨日はギャンブルするラットの脳の論文を紹介したが、今日紹介するのは、ギャンブル中にどのぐらい賭けようかなどと考えながら最終決断に至る時の人間の脳の活動を調べたジョンホプキンス大学からの論文で、タイトルは「Risk-taking bias in human decision-making is encoded via a right–left brain push–pull system (人間が決断する時のリスクの取り方の傾向は右脳と左脳の綱引きでコードされている)」だ。
人間の脳の活動記録は通常、MRIやPET、あるいはよりリアルタイムに記録したいときは脳波や脳磁図を使うのだが、この研究では昨日のラットと同じように、人間の脳にクラスター電極を留置して電気活動を長時間記録している。もちろん正常の人にこんなことはできない。てんかんの起こる場所を突き止めるために電極を留置された人を十人集め、コンピュータでカードゲームをやってもらってその時の神経細胞の興奮を調べている。もう少しわかりやすくいうと、賭け方のパターンを分析し、掛け方を強気弱気に分類し、それぞれに対する行動学的パラメータを定義した上で、それぞれと相関する脳活動を探している。
カードゲーム自体は簡単だ。自分に配られたカードの数を見て、コンピュータに配られた方の数より多いかどうか判断し、その判断に基づいて掛け金を決める。その後伏せられていた方はカードが開くと、勝てば実際にドルがもらえるようにしている。本当のお金がもらえるため、十分ギャンブルとしての雰囲気はあるゲームになっている。
さて、このゲームで賭ける時、最も着実なやり方は、カードの数が2、4のように低いときは、最低限の掛け金、8のように高いときは強気に出ればいい。ただ、ちょうど真ん中の6が出たときは、掛け金を増やそうかどうか迷うことになる。
実際、ほとんどの人はだいたい上に述べたような堅実な賭け方をするのだが、結構低い数字を引いているのに、強気で賭けたがる人もいる。また、堅実な人でも、6が来た時は、強気に出るか、弱気になるか迷うし、結果もまちまちだ。同じ人でもその時々で掛け金が変わる。、さらに、決断するのにも時間がかかる。
最後に、この様な行動学的解析から特定した強気、弱気のパラメータと相関する脳の活動をさがし、昨日ラットで紹介した辺縁系もl含む前頭葉の皮質に設置した電極で記録できる膨大な活動から、γ波として知られる高いサイクルの波長の中に、掛け方のパラメータと相関が見られる活動を発見する。そして何より驚くのは、強気のパラメータと相関して活動が高まるγ波は右側の前頭葉に選択的に現れ、逆に弱気のパラメータと相関するγ波の上昇は左側の脳で見られるという結果だ。この傾向は、一人を除いてすべてで観察されることから、一般的な現象と言っていいだろう。あたかも、強気と弱気を代表して右脳と左脳が綱引きをして最終的に掛け方を決めていることになる。
なぜこの様な結果が記録されるのかについては、全く理由がわからない。しかし、直感的に面白いし、今後脳障害とギャンブル依存症などの研究を通して、この可能性が研究されていく様に思う。