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1月16日:嗅覚受容体の選択(Natureオンライン掲載論文)

2019年1月16日

ニオイ、すなわち空気中の化学物質と結合して嗅覚細胞を興奮させる嗅覚受容体の研究には、免疫学者も多く参加しているように思う。これは、抗原と結合する抗原受容体の遺伝子と同じで、一つの細胞がマウスで言えば1000種類以上ある遺伝子の中から、一つだけの受容体を発現しているからだ。最初、抗原受容体と同じで、遺伝子の組み換えによる再構成が関わるのではと考えられた時期があり、それで免疫学者も参入したが、結局まるで違うメカニズムが用いられていることが明らかになった。すなわち一つの受容体遺伝子を除いて、他の遺伝子をエピジェネティックにサイレンシングすることで、1細胞1受容体が実現されている。ただ、この過程を調節するメカニズムについては、私自身は最近ほとんどフォローできていなかった。

今日紹介するコロンビア大学からの論文はこの機構に関する最近の研究の集大成のような研究で嗅覚受容体遺伝子の一つが最終的に選ばれる過程をよく理解させてくれた。タイトルは「LHX2- and LDB1-mediated trans interactions regulate olfactory receptor choice (LHX2とLDB1が媒介する離れた領域の相互作用が嗅覚受容体の選択を調節している)」だ。

さて、この論文を理解するには、Greek island(ギリシャの島)と呼ばれている嗅覚受容体のクラスターに隣接する領域のことを知っておく必要がある。嗅覚受容体は複数の遺伝子が集まったクラスターを形成しており、このクラスター(OFCと呼ぶ)には必ずLHX2とEBFが結合できる領域を持ち、OFC同士の核内での相互作用に関わる領域がある。ギリシャの島々のように核内に散在しているのでGreek Island(GI)と呼ばれるようになったのだろう。そして、発現している受容体は、必ずこのGIを介して多くのクラスターと隣接していることがわかっている。

この研究では、FACSを用いて、未熟な幹細胞(HBC)、少し分化した中間段階(INP)、そして完全に分化した嗅覚細胞(OSN)を取り出し、それぞれの細胞でHi-Cを用いて、どのゲノム部分が核内で隣接しているのかを調べている。普通このアッセイでは、TADと呼ばれるユニット内で遺伝子が隣接しているのがわかり、他の特定の染色体部分と隣接することが検出されることはほとんどないが、分化したOSNでは離れた染色体の特定の領域にある嗅覚受容体遺伝子クラスター(OFC)同士が隣接して存在することがわかっている。ところが、未分化なHBCではOFC同士の領域は隣接が認められず、分化が進むに従って徐々に現れてくる。すなわち、嗅覚細胞分化と共に、OFC同士が集合することがわかった。

それぞれのOFCにはGIが隣接しているので、GIがこのOFCの集合に関わるのではないかと、63個存在するGIの中の3つをゲノムから除去すると、それに隣接するOFCは他のOFCと集合を形成しなくなり、そこに存在する嗅覚受容体の発現も強く抑制される。すなわち、GIがこの集合を調節している。

次にGIに結合しているLHX2遺伝子をHBCから除去した後、分化を誘導すると、OFC同士の集合が見られなくなり、嗅覚受容体の発現も抑制される。そして、LHX2がLDB1と呼ばれる共にGIに結合し、OFCの集合形成に関わっていることを明らかにしている。

最後に、異なる嗅覚受容体を発現している細胞で、発現している受容体と、それ以外の受容体遺伝子の集合形成を比べると、発現しているOFCの周りだけでGIの集合が起こることを明らかにしている。GIはEBに結合する一種のエンハンサーで、発現嗅覚受容体の周りに、GIが集まることは、すなわち多くのエンハンサーが集まることで、その結果最も効率的にGIを集めるのに成功した受容体が発現する事になる。

以上、嗅覚細胞の分化に伴って、まずゲノム中に散らばったOFC領域が同じ場所に集まり始める。こうして集められた個々のOFCにつながった GIにLHX2とLBD1が結合してGIが集まることで、強いエンハンサー活性を持もつスーパーエンハンサーが形成されるが、これが最終的に、それもおそらくランダムに、集まったクラスターの中の一つの受容体にリクルートされ、強く一つの受容体だけが嗅覚細胞で発現されるというシナリオだ。

もちろん、その上で他の受容体やOFCにはエピジェネティックなサイレンシングがかかるのだろう。この結果、一つの受容体だけが強く発現した嗅覚細胞が出来上がる。

この論文を読むことで、染色体の3次元構造が研究を通して、嗅覚受容体の選択についても、わかりやすいモデルができていることがよくわかった。

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