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6月25日:サルを用いた遺伝的発達障害モデル(5月20日号Nature掲載論文)

2019年6月25日

先日もこのブログでNMDA型グルタミン受容体の機能異常が、自閉症を含む様々な発達障害の原因を示す論文を紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/10416)、このタイプの異常の中で多い遺伝的発達障害が、グルタミン酸受容体が形成される時の基質となるSHANK3遺伝子が片方の染色体で機能を失う変異で、Phelan-McDermid症候群と呼ばれている。自閉症様症状だけでなく、筋力低下、睡眠障害、様々な程度の知能発達障害を示すが、同じ様な症状は多くの遺伝性発達障害でもみられる。

自閉症スペクトラム(ASD)全体から見ると、遺伝的な発達障害は一部に過ぎないが、原因となる機能分子がわかっているという意味で、遺伝的ASDは疾患メカニズムの研究に欠かせない。ただ、ほとんどのモデル動物はマウスを中心とするげっ歯類で止まっていた。たしかにSHANK3欠損マウスは社会性や学習異常を示すが、しかし人間と異なりヘテロではほとんど症状がない。したがって、もっとヒトに近いモデル動物が求められていた。

昨年はクリスパー遺伝子操作を行ったクリスパー遺伝子操作受精卵を移植、出産させたとして中国の研究が一躍注目を浴びたが、これからもわかる様に中国はこの技術の利用の幅広さでは世界一といってもいい。今日紹介する深圳先端科学研究所からの論文はSHANK3遺伝子変異サルを作成し、自閉症モデルとして使えることを示した研究で、先週号のNatureに掲載された。タイトルは「Atypical behaviour and connectivity in SHANK3-mutant macaques(SHANK3変異を持つカニクイザルは非典型的行動と神経結合の異常を示す)」だ。

この研究では受精卵のSHANK3遺伝子のエクソン21にCRISPR/Cas9を用いて機能欠損変異を導入し、最終的に5匹のSHANK3変異サルを得ている。それぞれゲノムレベルで起こっている変異は多様で、2匹は異なる変異が両方の染色体で起こったcompound ホモになっていた。さらに、2匹のサルから精子を採取し、同じ様にSHANK3変異のヘテロ個体を繰り返して作れることも示している。すなわち、金はかかるが、ASHNK3モデルサルを欲しいだけ作れる体制が整った。

さて、症状だが、個体ごとに多様な症状と、全ての個体で一様に存在する症状がある。例えば活動性は全ての個体で低下しており、睡眠障害でも、特に寝るまでに時間がかかる。

社会性で見ると、正常では多様だが、変異サルでは全ての項目で一様に低下している。

また筋肉の低緊張もヒトと同じで一様にみられる。

マウスではほとんど不可能な視線を追いかける実験も行える。この結果、視線が落ち着かないという特徴が一様に存在することがわかった。ただ、同じ様な症状はASDでは指摘されているが、SHANK3変異では調べられていないので、ヒトでも調べる必要があるだろう。

最後にテンソルMRIで各領域間の結合性を調べ、感情やモチベーションに関わる領域と前頭葉や運動野との結合が低下していることを示している。一方、やはりヒトで指摘されている様に、各領域内での結合性は高まっている。

まだ始まったばかりだが、ヒトの症例をかなり反映したモデルができたと言えるだろう。また、サルで初めて見つかる症状も存在することから、今後詳しい解析が進めばそのままヒトの症例へフィードバックできる可能性がある。

そして最も期待されるのが、発達過程の解析、そして介入実験だ。マウスSHANK3変異を用いた研究からロイテリキンの効果が示されている(http://aasj.jp/news/watch/9990)。ぜひ、サルを用いて組織レベルの変化まで詳しく調べ、新しい介入法の開発につなげて欲しい。

しかしこの分野の中国の実力はすごいと思う。

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