京大白眉プロジェクト(8月26日)
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京大白眉プロジェクト(8月26日)

2013年8月26日
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24、25日と、京大再生研の瀬原さんに頼まれ、白眉プロジェクトの応募者の面接を行いました。面接の様子は勿論口外出来ませんが、久しぶりにわくわくするインタビューでした。自分のしたい事をしっかり見つけて自ら道を拓いている、独立心旺盛な優秀な研究者が我が国にしっかりと育っている実感を持ちました。こんなにすばらしい若い人が応募してくるだけで、この白眉プロジェクトは成功していると言えます。是非来年も伯楽としてお手伝いしたいと思いました。

カテゴリ:セミナー情報

Orphan Drugについて考えるワークショップ  神戸市立葺合高等学校にて

2013年8月24日
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2013年7月19日(金)11:00~12:00
難しい科学用語を知り、科学の現状を考えるワークショップ企画の第1弾として、
「Orphan drug」について考えるワークショップを葺合高校にて開催しました。

「Orphan drug」とは稀少難病治療薬のことを表す言葉です。ここで使われる「orphan」とは、英語で「孤児」「みなしご」という意味を持っており、対象となる患者数が少ないために利益が見込めず製薬会社による開発が進みにくいという稀少難病の治療薬の現状を受けてつけられた名前です。
現在日本では、「Orphan drug」に日本語訳名をつけず、そのまま「オーファンドラッグ」と呼び、稀少難病の治療薬を表現しています。

今回のワークショップは、高校生のみなさんに稀少難病治療薬に関する現状を知っていただくと共に、治療薬の開発を待ち望む希少難病患者さんにとって希望の持てる新しい名称を考えてもらおうと企画しました。

ワークショップには葺合高校のボランティア活動クラブ・すぎな会の1年生から3年生のみなさん24人が参加してくださいました。また顧問の先生をはじめ葺合高校の先生方(ALTの先生を含む)もオブザーバーとして同席くださいました。
葺合高校ワークショップ画像1

参加者のみなさんには、まず、オーファンドラッグの現状について簡単な説明を聞いていただきました。その後、4つのグループに分かれて、思いつくままに名称を付箋紙に書き、それを模造紙に貼り付けていきながら、その言葉を考えた理由や、言葉への思いなどを出し合っていただきました。

葺合高校ワークショップ画像2

葺合高校ワークショップ画像3

だいたいの意見が出そろったところで、グループごとに模造紙を提示しながら、出された名称や意見、そしてグループでのおすすめの名称案を発表していただきました。

葺合高校ワークショップ画像4

発表された名称案には、
「レインボードラッグ(rainbow drug)」
「フェニックスドラッグ(phoenix drug)」
「スマイルドラッグ(smile drug)」
「明るい希望のへの薬(bright future drug)」
「乗り越える薬(overcome drug)」
など、希望を感じさせることばがたくさん使われていました。
また、オーファンドラッグの読みを少し変化させた、
「Oh! fun drug」という楽しい名称案もありました。

葺合高校ワークショップ画像5

ALTの先生からは、フェニックスはハリーポッターシリーズにも登場し、その涙が傷を癒す効果があるとされることなどから、「フェニックスドラッグ」は、稀少難病にぴったりなよい名前ではないかという意見をいただきました。

高校生の躍動する心から生まれた数々の希望の名称。
このワークショップを通じで稀少難病のこと、患者さんの直面している現状や課題をしっかり見つめて考えるたいへん貴重な機会となりました。     (企画/運営:藤本 記事:麻生)

2013年7月20日付 神戸新聞朝刊
神戸新聞記事(葺合高校)
(掲載許可承認済)


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カテゴリ:ワークショップ

8月22日朝日新聞(大岩):糖尿病患者の認知症リスク予測

2013年8月22日
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朝日新聞は記事のペーストを許可していません。必要な方は
http://www.asahi.com/tech_science/update/0820/TKY201308200025.html を参照してください。

   今日の朝日の記事は、糖尿病の患者さんが認知症になるリスクを簡単に評価出来る基準を提案する論文について紹介している。論文はLancet Diabetes and Endocrinologyに掲載されているが、まだ私はオリジナルな論文にアクセスできていない。
  患者さんの立場から見た時、役に立つ情報であれば、日本発であろうとなかろうとどちらでもいい。大岩さんは患者さんに役に立つ情報を世界にまで守備範囲を広げて探し出し、レポートした。この点を高く評価したい。特に、リスク度を判定するチェックリストを理解しやすい形で提示している点がすばらしい。実際医師でなくとも、自分のリスクをこの表で調べる事が出来る。これまで紹介して来たSciencenewslineもこのLancet Diabetes and Endocrinologyに掲載された論文について紹介しているが(残念ながら英語版だけ)、このチェックリストは示されていない。論文の内容をしっかり消化して記事にする、当たり前の事が当たり前にできている記事だと感じた。とは言え、私自身はこの論文にアクセスが出来なかったため、オリジナルな論文と比べる事が出来ていない事は断っておく。
   朝日の記事とSciencenewslineの記事を比べて一つ気になったのが、カイザーパーマネント研究所と言う記載だ。SciencenewslineではKaiserPermanent Division of Researchとなっていた。いずれにせよ聞いた事がなかったので、Sciencenewslineの脚注にあったこの組織の概要を覗いて驚いた。この概要は、「カイザーパーマネントはヘルスケアの未来のために、アメリカトップのヘルスケアと非営利の健康増進計画を提供する組織で、900万の会員を擁している。実際には会員と医師や様々な医療スタッフをつなぎ、会員が最適の健康管理と医療を受けられるよう活動している組織」と要約出来る。すなわち毎日の健康管理から医療まで会員に提供する目的で1945年に創立された組織で、現在では研究所を持っており、これが今回論文を発表したDivision of Researchだ。ホームページを見て更に驚いたのは、この組織に17000人の医師が組織化されており、患者さんと繋がっている点だ。このような組織だと多分コホート研究など長期的視野の必要な研究も、ずいぶん楽に進むことだろう。またこの組織は将来の医療についてのはっきりとしたアジェンダを持っている。このことが今回のような明確な研究につながったのだろう。Sciencenewslineでも複雑な診察や検査なしに、病歴からだけこのリスクスコアが得られることの重要性が強調されていた。
   ひるがえって我が国を見渡すと、「これからコホート研究が重要で予算化が必要」と叫ばれている。もちろんヒトゲノムなど様々な進展があってのことだろうが、提案されている研究自体は従来と同じ手法のトップダウン型のコホート研究だ。すなわち科学的にコホート研究を始めることだけが意図されており、10年、20年という将来の展望がほとんど皆無だ。本当に長期的視野で考えるなら、患者さん、かかりつけ医、研究者の関係を再構築していく、ボトムアップの方向性が今こそ求められているのではないだろうか。少し望みすぎかもしれないが、記事でも研究だけではなく、それを行ったカイザーパーマネントについても紹介をしてほしかったなと思った。

カテゴリ:論文ウォッチ

8月21日朝日社説:医療の改革 患者の協力も必要だ

2013年8月21日
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朝日新聞は記事のペーストを許可していません。オリジナルな社説は以下のURLを参照ください。 http://digital.asahi.com/articles/TKY201308200551.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201308200551

原則として報道ウオッチは論文発表の研究に対する報道を対象としているが、今日は朝日の社説の書きぶりが少し気になったので取り上げてみた。「医療の改革 患者の協力も必要だ」と言う社説で、8月21日に閣議設定される社会保障改革について意見だ。今回の案では、「医療機関の設備戦争につながり、過剰医療と医療費高騰を生む医療機関のフリーアクセスを考え直すべき」とうたわれる。社説では、「かかりつけ医が住民に信頼されるかどうかにかかる」という改革案の本質を見抜いている。しかし、結論としては報道中立の原則にとらわれて、「患者に我慢をしいて、簡単な話ではないが・・・将来世代に付け回し出来ない」と結んでいる。しかしこれでは社説でも何でもない。私は科学報道を中心に見ているが、現在の報道が、「出来事を最も常識的にまとめて伝える」事ばかり考えているように見える。少なくとも社説ぐらいはもっと本質を見抜いた将来への提案がほしい。かかりつけ医が信頼されることがこの案の鍵であることは私も同感だ。 
  改革案をまじめに進めるとすると、結局かかりつけ医が信頼されるようになるしかない。そのために何が必要か?最も大事なのは、かかりつけ医の医療知識、技術レベルが高いレベルで安定する事に他ならない。従来これについては教育と倫理の問題で片付けて来た。しかし、IBMの創業者の名前(?)をとった診断ソフトや、ゲノム解析の一般化など、患者さんやかかりつけ医の標準化を促進する新しいトレンドが生まれている。前に紹介したPatientlikemeのように、かかりつけ医の信頼性を、患者さんの知識が補っていく可能性すらある(collective intelligenceでいつか紹介したい)。
  IBMは新しいシークエンサーを開発して100ドルゲノムを目指している。GoogleはGoogle healthでは失敗したようだが、そこから派生した23&meはゲノム解析ビジネスの代表になっている。このように、新しい技術が医療を先端だけでなく、底辺から変えようとしている。また、将来のアジェンダを見据えている企業は既に様々な対応を進めている。そんなとき、もっともらしい話で社説を済ませる気が知れない。
 では私に案はあるのか?いくらでもある。なぜなら、21世紀のアジェンダが患者側からの医療や医学の変革だと確信しているからだ。この視点で見れば、多くの可能性が見えてくる。例えば分子標的薬の中には、これまで大病院でしか可能でなかった治療を、かかりつけ医で対応できるようにするポテンシャルを持った物もがある。今後はこのコラムでいろいろ紹介していきたい。

カテゴリ:論文ウォッチ

読売新聞8月13日がん7000症例調査、22の特徴的変化を発見

2013年8月19日
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読売、毎日ともに、オリジナル記事をペーストする事は許されていない。必要な方は以下のURLを参照していただきたい。(http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130815-OYT1T00274.htm)同じ研究は8月15日の毎日新聞でも「発がん原因:遺伝子異常22種 7042人分解析」(http://mainichi.jp/select/news/20130815k0000m040111000c.html)として紹介された。
   ほんの一部の例外を除いて、がんの発生には遺伝子の突然変異が必要だ。英国サンガーセンターのMichael R. Strattonのグループは、がんのゲノム上に突然変異を引き起こす過程についての数理的モデルを構築し、Cell Report紙に発表している。今回の論文はこの数理モデルを使って、7000以上のがん細胞の全翻訳領域(エクソン)を調べ(エクソーム解析)、様々ながんに見つかる突然変異の成り立ちを22のパターンに分類する事に成功した。私は数理については素人だが、そんな私でもこの論文の「売り」がこの数理モデルであることはわかる。実際、この仕事のほとんどはサンガーセンターの3人が行い、Strattonが全ての責任を負う著者である事が明示されている。
   以前に発表された数理モデリングの仕事は数式が出て来たりで、数理の苦手な私にはよくわからなかった。それでも、今回の論文は十分楽しむ事が出来た。分類された突然変異の出来かたのパターンが生物学的にもかなり理解できるように書かれている。特に、老化、APOBECや AIDなどの脱アミノ酸酵素、乳がんの原因遺伝子BRCA1/2、喫煙等々のいわゆる変異の原因と、数理モデルに基づいて決定される突然変異の出来かたのパターン、そしてそのパターンに対応して予想される分子過程などの相関がわかりやすく提示されており、大変面白い論文だった。また、どのようにがんに突然変異が蓄積するかを分類する事は、がんの成り立ちにとって極めて重要で、いずれは予防にもつながる。
   さて記事であるが、読売の記事は最悪といっていい。まず、このまま読んでしまうと今回の仕事があたかもがんに特徴的な遺伝子変化を探索しているように錯覚する。実際「各部位のがんに特徴的な遺伝子の変化を特定し」「今回見つかった22種類中、いずれか2種類以上の遺伝子の変化か起きているという。肝臓がんと胃がん、子宮がんでは、主に6種類の変化か重なることかわかった。」などと書かれると、読者はがんに特徴的な突然変異自体が発見されたように錯覚する。この仕事はあくまでも、突然変異の起こりかたの分類であり、突然変異自体ではない。記者が理解できているのかどうか、大いに反省が必要だ。
  一方毎日は、内容の点では少しはましだ。「その結果、がんを誘発する22種類のパターンを発見した」と、研究されているのが遺伝子の変異の出来かたのパターンである事ははっきり書いている。また、「各パターンと、生活習慣などとの関係を丹念に調べることで、がんが発生する仕組みの解明につながる」と、突然変異の出来かたと、それが喫煙など生活習慣と関わる可能性がある事にも触れている。しかし、「発がん原因:遺伝子異常22種 7042人分解析」と見出しを書いてしまえば最初から誤解を生む。また、「がんを誘発するパターン」と書いてしまうのもいただけない。この仕事でわかるのは、あくまでも突然変異の出来かたのパターンだ。それをがん誘発パターンと言うのは正しくない。「ネーチャー」、「ゲノム解析」、「ビッグデータ」などの常套句をちりばめれば記事になると言ういい加減さは卒業してほしい。そして両紙とも「国立がん研究センターなとの国際チームか1 5日、英科学誌ネイチャー電子版で発表する」「国立がん研究センター(東京都中央区)を中心とする国際研究チームは」などと、あたかもがんセンターがこの研究の中心であるかのように書いている。しかし、この仕事は数理モデルを考案したグループが、コンソーシアムとしてがんゲノムデータを集めて来た国際チーム(勿論両者は重なっていい)の成果を利用した仕事と言うべきで、論文にも書かれている通り、サンガーセンターが中心の仕事だ。勿論日本の研究を贔屓にしたいのはわかるが、もしStrattonのグループがこの報道を見たらどう思うだろうか。
  ここまで書いて来て、ではがんセンターからの発表はどうだったのだろうかと気になって調べてみた。とすると、「本研究は、国立がん研究センター研究所(中釜斉所長)がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長を中心とする研究チームが、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)のプロジェクトの一環として進めました 」と発表している。これでは誤解を招くのも当たり前だ。そして何よりも、この研究の根幹がStratton達の数理モデルである事について全く触れていない。書かれている事がそのまま間違いであると言わないが、この様な核心をはぐらかす記者発表を行う事には捏造の根が潜む。科学者側も是非反省してほしいと言わざるを得ない。とは言え、何度も書いているが、報道側も記者発表を鵜呑みにせず、一度は実際の論文にあたればすぐわかる事だ。報道とは聞いて来た事をそのまま伝える事ではあるまい。松原事件の時に紹介した「国家を騙した科学者」を一度読んでいただきたいと再び思った。

 

カテゴリ:論文ウォッチ

8月14日読売新聞記事:情けはボクのためになる・幼児で親切の効用実証

2013年8月19日
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オリジナルの記事をここにペーストする事は読売新聞は許可していません。必要な方は以下のURLを参照ください。 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130814-OYT1T00830.htm

 これまでは、メディアの記事を調べる時、どうしても自分の分野(幹細胞研究)に重点を置いてしまっていた。しかし、すっかり第一線を退いて、何の偏りもなく様々な記事を眺めだすと、科学記者の方々がずいぶん様々な分野を取り上げている事がわかる。その典型が今回の大西さんの論文を紹介した読売新聞の記事だろう。私がわざわざ論文の内容を紹介する必要は全くない。正確に伝えられている。元々論文自体、方法や実験のデザインの詳述が大きな部分を占めており、素人の私も結構読むのに苦労した。ただ、メッセージは比較的単純で、このため多分大西先生の説明を聞いた方が、論文を読むよりわかりやすいだろう。繰り返すが、結果は記事に書かれている通りで、同じ年の子供の親切な行為を近くで見ていた子供は、親切を行った子供に優しく接すると言う実験結果だ。この記事で是非評価したいのは、見出しだ。「情けは僕のためになる」とはこの結果を一言で表現するのに成功している。実際は誰がこの見出しを付けたのかは私にはわからないが、多分この記事を書いた記者が考えたように思える。内容を良く理解して、わかりやすい見出しを付ける。また、他の研究者からのコメントも記事の内容を更にわかりやすくする効果を持っているように思った。良い記事だ。

   この様な小児の発達についての科学的な研究は、少子化の進むアジアでは重要性が増すだろう。この様な小児発達などの問題は、元々科学性を保証する研究が行いづらいなどの様々な要因を抱えており、今後もいっそう努力が必要な分野だ。この事を考慮して、今回読売の記事を取り上げたついでに、日本のメディアには紹介されなかったもう一つの日本発の仕事を紹介しておこう。これは、岡山大・山川さんの仕事で、乳児期6−7ヶ月に母乳だけで育てた子供は粉ミルクを使った子供より、7−8歳で肥満になる確率が低いと言う結果だ。この論文はJAMAのオンライン版に8月12日に掲載され、以前紹介したScienceNewslineのウェッブサイトで報告された(http://www.sciencenewsline.com/articles/2013081223000028.html#footer)。残念ながら実際の論文が手に入らず、また日本のメディアでも紹介されていなかったので、ここで紹介するのは控えていた。今回、読売の記事に便乗した。両研究とも、最終的な真偽について、本当は介入研究を含めた検証が必要なのかもしれない。しかし、小児を対象に長期の介入研究をする事は許されない。だととすると、この仕事を出来るだけ多くの親に知ってもらって、良いと思う事は何でも試してみていただく事が必要ではないだろうか。私から見ていずれもやってみて問題が起こると言う話ではなさそうだ。ならば、良いと信じてやってみても良い様な気がした。

カテゴリ:論文ウォッチ

バンコックでの幹細胞系統講義終わりました。

2013年8月16日
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ようやく幹細胞系統講義が終わりました。普通タイの若い人達は慎み深く、あまり質問がないのですが。今回は結構活発な印象で、質問も多くありました。ただ、1日お昼を挟んで4時間、4日間続けるとさすがに疲れました。しかし、十分次世代の教育に役立ったと思っています。thailand

カテゴリ:ワークショップ

毎日新聞8月12日:ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛

2013年8月13日
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ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛・・・・新薬開発にも。 毎日新聞0812日記事。

毎日新聞は記事のペーストを許可していません。元の記事は以下のURL

を参照して下さい。

http://mainichi.jp/select/news/20130813k0000m040094000c.html

 

一つの統合された構造を作る共生の中でも、最も良く知られているのは、菌類と藻類からなる地衣類だろう。現存の真核生物もミトコンドリアを取り込んだ共生システムと呼ぶ事が出来る。このように共生は、個体性の問題や、遺伝子の水平伝播などとであう可能性が高い現象で、進化研究に欠かせない事が広く認識されている。今回の豊橋技術科学大学、中鉢さん達の仕事は、ミカンキジラミの中に存在する、2種類の細菌と宿主(ミカンキジラミ)細胞の三種類が共生するバクテリオームと呼ばれる面白い構造に着目して研究している。この構造は、宿主の細胞が特殊な構造を作って、あたかも2種類の細菌を飼育している様な構造だ。今回の仕事では、この構造の中で飼育されている(?)細菌の遺伝子配列を決めると同時に、それぞれの細菌がこの構造のどこで維持されているのかを決めている。その上で、またこの様な共生が必要とされる機能的側面と、共生する事によるゲノムサイズの縮小などの進化的な側面、このバクテリアのトキシンの自然選択における役割などについて研究している。私はこの分野の素人だが、論文としても面白く、広い視野で研究が行われていると言う印象を持った。
    
    ただはっきり言おう。記事はひどい。せっかく、共生生物のような面白い題材を記事にしようとしたのに、この論文の真価をほとんど伝えていない。もし伝えられないだけでなく、理解していないとしたらもっと問題だ。結局記事を、抗がん剤が開発できるかもしれないなどとまとめてしまうと、何のためにこの仕事を紹介する必要があったのかよくわからなくなる。創薬の現在を紹介したければ、もっと他にも仕事があるはずだ。勿論この仕事のハイライトは、新しい細菌のゲノムを決めると同時に、それの作る毒物を明らかにした事だ。しかし、トキシンはこの共生体の機能と進化を知るための一つの要素にすぎず、主要な部分ではない。にもかかわらず、「新薬開発にも?」という、みだしはひどい。また、この記事でもこの仕事を掲載した雑誌を、米専門誌に発表されたと記載している。これは毎日新聞を日本の某紙と呼ぶ様な物だ。この論文はカレントバイオロジーに掲載されている。どこに発表されたのかなどは勿論問題ではないが、記事にする限り、出所は明確にすることは当たり前の事だ。この様な仕事を報道のために取り上げたのは高く評価する。であるなら、是非本当の真価を伝える努力をしてほしい。

   ここで、本当に記者だけの問題だろうかと、はっと気がついた。もし研究者の方が記者に対してこの様な宣伝の仕方をしていたら?という疑問だ。十分あり得る事だが、だとするとあまりに悲しい。そして、もしそうだとすると、これは私たちの国の現代の科学政策を映す悲しい一面かもしれない。

 

カテゴリ:論文ウォッチ

西川代表のAASJに関するインタビューが毎日新聞に掲載されました。

2013年8月12日
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西川代表のAASJに関するインタビューが毎日新聞の平成25年5月30日付朝刊に掲載されました。

「医療とともに:Interview・この人に聞く NPO「オール・アバウト・サイエンス・ジャパン」創設者、西川伸一さん」

130530_AASJ(毎日)001 (掲載許可承認済)

PatientLikeMeのポテンシャル2

2013年8月12日
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8月2日、読売新聞は国立国際医療センターの研究グループの研究について、「低血糖起こす糖尿病患者、心筋梗塞リスク高い」という見出しの記事を掲載した。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130801-OYT1T00906.htm )

例のごとく、実際の研究方法の紹介が不十分であるため、わかりにくい記事だが、紹介された結論は重要だ。低血糖発作を起こす危険の高い患者さんに対しては、血糖を正常化する事だけを目標にして治療を行うと逆効果になる事を警告する仕事だ。論文にも書かれているように、患者さんに会わせて治療する事の重要性が示されている。
  科学報道ウォッチを始めるまでこの様な臨床論文を読む事はあまりなかった。この論文を読んで最も驚いたのは、これまで発表された論文をサーチし、その分析からこの結論がえられている事だ。すなわち、この研究は、自分自身でフィールドを設定し、患者さんをリクルートして研究を行っている訳ではない。文献を検索し、報告されたデータを注意深く科学的に分析し、結論を出している。この仕事からわかる事は、世界中の病院で蓄積し続ける患者さんのデータがいかに大事であるかと言う当たり前の事だ。もちろん、各医療機関では医療に関わる専門家が、一人一人の患者さんのデータを正確に記載する。即ちこの科学性が、他の専門家にも利用可能なデータの蓄積を可能にしている。

    この記事に関して8月9日に紹介したPatientLikeMeをもう一度考えてみよう。前にも述べたが、このいわば患者さんのフェースブックサイトには、それぞれの患者さんが丁寧に記載したデータが大量に蓄積し続けている。しかし、患者さん達のほとんどは専門家ではない。これまで、患者さん自身が記載すると言うだけで、科学的に意味がない主観的データとして排除されて来た。勿論、アンケート調査と同じで、うまくサイトが設計されておれば、十分正確な情報をえる事が出来る。実際、幾つかの論文がこのサイトで公開されている患者さんが記載したデータを元に出版され始めている。例えば、Natrure Biotechnologyに2011年掲載されたPaul Wicksらの論文( Nature Biotechnology, 29巻、5号、411ページ) では、PatientLikeMeサイトのALS患者さんのが記載したデータだけを元に、炭酸リチウム治療は効果がない事を結論している。勿論、私はこの結論がすぐ鵜呑みに出来るとは思っていない。当分はこれまでの研究手法との比較が必要だろう。事実この仕事で扱われた薬剤の効果については、その後2重盲検法を使った研究が行われ、同じ結論が出ている。この様な繰り返しで、主観的データの利用の可能性を探す事が重要だ。しかしこれらの研究では、科学性に疑問があるデータとして、これまで医学が排除して来た患者さん自身の記載するデータを再評価すると言う新しい方向が示されている事だ。この方向の本当のポテンシャルは、気分や、その時々の感じと言った、いわゆる主観的な感覚(クオリアと呼んでも良い)まで対象にする新しい科学の芽がここにある点だ。特に精神的な病気、あるいは病気になる事によるそれぞれの気分などを考える科学への途方もない可能性がある。更に言えば、医学・生物学が人文科学と本当の意味で統合される可能性がある。今後も、この様な新しい動きについては折にふれ紹介していきたい。

カテゴリ:論文ウォッチ