8月15日:新生児糖尿病の遺伝子検査の重要性(7月29日号The Lancet掲載論文)
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8月15日:新生児糖尿病の遺伝子検査の重要性(7月29日号The Lancet掲載論文)

2015年8月15日
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生後6ヶ月までに糖尿病と診断される場合、1型糖尿病と区別して新生児糖尿病と呼ばれている。診断基準も明確で診断を間違うことはない。ただ、明確な遺伝的原因があることが多く、また原因遺伝子により多様な病態を示すため、症状に基づいて診断をつけるだけでなく、原因遺伝子まで特定することが重要になる。我が国で遺伝子検査がどれだけ普及しているのか現状について把握していないが、今日紹介する英国エクセター大学医学部からの論文は、この病気は診断がついた後できるだけ早く遺伝子検査を行うことの重要性を明確に示した論文で、7月29日号のThe Lancetに掲載された。タイトルは「The effect of early, comprehensive genomic testing on clinical care in neonatal diabetes: international cohort study (新生児糖尿病の診療には早期で徹底的ゲノム検査が必要だ:国際コホート研究)」だ。研究では79カ国の新生児糖尿病と診断された1020人の乳児の細胞をエクスター大学に送付し、原因として特定されている21種類の遺伝子と、6番染色体の特定領域のメチル化解析を行っている。この1次検査で診断がつかなかった場合は、おそらくゲノムキャプチャー法を用いていると思うが、原因としての可能性が示唆されている全ての遺伝子の配列決定を行っている。結果だが、この方法で実に82%の患者さんの原因遺伝子を特定できている。将来エクソームや全ゲノムシークエンスが用いられるようになればさらに診断率は上がるだろう。重要なのは、親族関係のある夫婦の子供と、親族関係のない夫婦の子供を比べると、原因遺伝子が大きく違っていることだ。例えばこの病気でもっとも頻度の高いK-ATPチャンネルの変異は、親族婚では比率が大きく落ち、逆に非親族婚では極めて稀な翻訳開始因子ELF2AKのホモ変異が大きく増加している。遺伝子がわかったところで結局は同じと思われるかもしれないが、遺伝子が特定できると、適切な治療方針を決めることができる。メチル化異常やK-ATPチャンネル異常の一部のように治癒できる場合もある。あるいはインシュリンから経口糖尿剤へ移行する可能性の予測もできる。さらに重要なことは、原因遺伝子によっては他の症状が発生することも多く、例えばEIF2AK遺伝子変異では糖尿発症後数年して筋肉症状などが現れWolcott-Rallison症候群と診断されるが、これを前もって予測することができる。示されたデータを見ると、かなり詳細な経過予測が可能になっていることがわかる。施設の能力の関係で、2000年にこの研究がスタートした時は診断までに平均4年かかっていたが、現在では3ヶ月以内で診断がつくようになっている。その上で、早期遺伝子診断を行うことの重要性を論文では強調している。現在なら同じ検査は多くの国で可能になっているはずで、原因遺伝子特定までの時間はもっと短縮されているだろう。新生児から乳幼児期は発達にとって極めて重要な時期だ。この病気については、症状により診断がつけば良いと済ますのではなく、原因遺伝子特定を診断の原則とするよう我が国でも体制を整えて欲しいと切に願う。
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8月14日:お盆休みの話題作り

2015年8月14日
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昨日は科学雑誌が掲載した研究論文以外のコメンタリーや声明を紹介したが、今日はお盆休みの話題作りに、最近2週間に私が目にして「エ!こんなことも論文になるの?」と思った研究論文を一挙紹介しよう。最後はまたまたシマウマの縞の話だ。ただ断っておくが、あまり真面目には読んでいないのでそのつもりで。 1)A qualitative investingation of the perceptions of female dog bite victims and implications for the prevention of dog bites (犬に噛まれた女性被害者の定性的調査と噛まれないための示唆):Journal of Veterinary Behavior オンライン版掲載。リバプール大学からの論文で、犬に噛まれるのは犬を理解していないからだという通説について、8人の犬に噛まれた女性のインタビューにより検証している。検証といっても、インタビューの主観的印象を述べているだけで、もちろん統計的数字といったものは一切示されない。結局、噛まれないためのはっきりした方法はないという結論が出てくると、論文といっていいのか不安になる。一番面白かったのは研究者の所属で、「不確実性研究部門」というのは論文の結論を先取りしている。 2)Consumption of spicy foods and total and cause specific mortality: population based cohort study (スパイスの効いた食事と死亡率:集団cohort調査):British Journal of Medicineオンライン版掲載論文:食の国中国のバイオバンクからの論文で、30歳から79歳までの集団45万人近くを約7年追跡し、死亡率とその原因を調べ、スパイシーな食事との関連を調べている。四川料理の国ならでの研究だが、スパイシーな食事をほぼ毎日とっている人の死亡率は低く、この傾向はアルコールを飲まないでスパイシーな食事をしている人ほど顕著だという結果だ。また、ガン、心血管障害、呼吸器疾患と死因別に見てもスパイシーな食事は良さそうだ。ただ、民族差の影響も見て欲しい気もある。中国は広い。 3)Weight perceptions in a population sample of English adolescents: cause for celebration or concern? (英国少年・少女の体重についての意識:喜ぶべきか心配すべきか?)International journal of Obesityオンライン版掲載論文。約5000人の12−15歳の英国少年・少女の体重やBMIを測定するとともに、太り過ぎと思っているか聞いた調査で、太り過ぎと思っているのが正常体重のグループで7%、太っているグループで60%と予想通りだったという結果だ。過度なダイエットに走っているようではないのでいいのだが、太っている40%が正常体重と思っているのは少し心配している。ぜひ我が国のデータも見てみたい。 4)The role of stripe orientation in target capture successs(縞の方向性が捕捉されやすさに及ぼす影響): Frontiers in Zoology オンライン版掲載論文。ケンブリッジ大学からの論文で、このホームページでも恒例のシマウマの縞の機能についての研究だ。昨年4月(http://aasj.jp/news/watch/1345)、及び今年の2月(http://aasj.jp/news/watch/2841)にシマウマの縞が保護色ではなく、最初の論文では虫に刺されて血液を失うのを守るため、2番目の論文は皮膚の温度差による換気のためという結論を示していることを紹介した。ただ、誰もが考える保護色論は完全に否定されたわけではない。縞は保護色としての作用が全くないのか調べた研究がこの論文で、横縞、縦縞、斜め縞の物体が画面上を動くとき捕捉のしやすさを人間で確かめている。ライオンでやれないのが残念だが、結果は一つの物体だけが動くときには横縞が最も目立つ。ただ、縦縞、斜め縞は模様なしとあまり変わらない。一方、6種類のパターンが同時に動いている画面で、特定のパターンを捕捉する実験では、差はなかったというのが結果だ。いずれにせよ、縞は保護色として大きな役割はしていないというのが結論のようだ。ただ、このグループはケンブリッジ大学の生理学の研究者で、動物学はそれほど知らないと思う。実際シマウマは、胴体前方は縦縞、後方は斜め縞、首と足は横縞だ。まあ、ちょっと思いついたことも結果を出して論文にするのは見上げた心意気だ。 5)ただ、シマウマの縞が保護色かどうか、私たちの感覚だけで決められないことを明確に示すカリフォルニア州立大学バークレイ校からの論文を見つけた。Science Advanceオンライン版に掲載された「Why do animal eyes have pupils of different shapes?(なぜ動物の瞳は違った形をしているのか?)」がタイトルだ。この研究は、夜行性肉食獣のほとんどの瞳が縦型(猫型)なのに対し、餌になる昼行性の草食動物の瞳は横長なのかを光学的に調べている。結論は、縦型の瞳は、縦に焦点深度が深く、また立体視がしやすいので、標的との距離を測利やすい。一方、横型は焦点は犠牲にして横の動きを感知しやすくしていると結論している。私自身、これまでシマウマの縞を考えるとき、ライオンや豹の瞳までは考えなかった。シマウマの複雑な縞模様はその意味でやはり保護色かもしれない。   以上、人間の疑問に限りはない。本当に多様な研究が行われているのに感心する。
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8月13日:立ち止まって考えてみる(Science, The New England Journal of Medicine, Cell Stem Cell掲載記事から)

2015年8月13日
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現役時代はいわゆる橋渡し研究の旗振り役を務めていたが、同時に文科省のヒト胚安全部会や他の機会を通じて、先端医療に対して懸念を持たれる人たちと、できる限り真面目に対話しようと心がけたつもりだ。ともすると「科学研究だけが未来を保障し、研究は完全に自由であるべきだ」と思ってしまう。ただ、様々な国の事情を知ると、科学研究は間違いなく文化や政治の制限下にあり、そんなに単純な話でないことがわかる。まず同じ社会に異なる様々な意見があることを理解することが科学者にとっての倫理の第一歩だろう。トップジャーナルのエディターはこのことをよく知っており、様々なコメンタリーを掲載している。今日はこの1−2週間に私が目にしたコメンタリーを紹介する。  コロンビア大学公衆衛生学からの「Public health in the precision-medicine era(プレシジョンメディシン時代の公衆衛生学)」というコメンタリーが8月6日号The New England Journal of Medicineに掲載された。いうまでもなく、オバマ政権は今年の一般教書演説でプレシジョンメディシンを推進して、各個人に合わせた安心の医療推進のための研究を加速すると約束した。もちろんこの背景には、ゲノムをはじめとする様々な個人の情報が解読できるようになったことが大きい。ただこの方針により、疫学や公衆衛生学など、病気を予防するための予算が削減されること、及びプレシジョンメディシン推進の結果が、医療上の格差をうむのではないかと著者は懸念を表明している。実際、アメリカの現状を見ると健康に関するほとんどの統計データは最悪で、まともなのは75歳以上の人たちの健康状態だけだ。この状況は決してプレシジョンメディシン推進では解決できないことは明らかだ。さらに、プレシジョンメディシンから生まれる先端医療のほとんどはまずお金持ちの医療として独占される。この結果、医療の進歩が社会格差を悪化させるという結果を生む。このコメントは最後に、プレシジョンメディシン推進者をそのまま信用してこれにだけ焦点を当てるのは間違いで、社会全体が健康になる方策を講じるべきだという強い主張で締めくくっている。私はもちろんプレシジョンメディシンの推進派だが、それが格差だけを生み出して終わる可能性も感じている。重要な課題としてコメントを読んだ。   次のコメントはカーネギー大学の倫理政策研究所からの「Patient-funded trials: Opportunity or liability ?(患者助成による治験:良い試みか間違った試みか?)」で、8月17日号のCell Stem Cellに掲載された。幹細胞を用いた細胞治療は、山中さんのノーベル賞もあってわが国では手厚い支援が行われている。しかし、普通は患者さんの数も少なく、また薬剤のように明確な規制の方針が定まっていないため、なかなか治験が進まない。これを補うために、患者さんが治療開発や治験自体に、被験者として参加するだけでなく、お金も出してもらうという動きがアメリカで進んでいる。私も知らなかったが、脳卒中の細胞治療治験参加に3万ドルを課金する会社が出てきたり、あるいは資金はほとんど患者さんから集めた勃起障害に対する脂肪幹細胞移植の治験が始まったそうだ。これまでのように、資本を集めてリスクをとる創薬手法では、新薬や新しい治療法の価格が高騰していることを考えると、患者さんがどこかでファンディングに参加して開発費を抑えることは重要だ。しかし、現在のように野放しのままこれが進むと、間違いなく研究者の倫理性の低下と、治験の科学性喪失につながるのは間違いがない。そのため、もっと政府がコミットして患者ファンドによる医学治験をレビューし、規制する枠組みを作るべきだという提言を行っている。私も現役の頃、神戸市の人たちと患者ファンドの可能性について勉強会を持ったことがあったが、いくら私的ファンドでも、公的な機関が治験計画を科学面や倫理面でしっかり管理することがまず大事だと結論した。同じ趣旨の結論だと思う。ただ、患者さんが資金面で参加していくことは医療費抑制の鍵になることは間違いない。再生医療はこれを考えるための格好の材料で、このようなコメントをCell Stem Cellに掲載する編集者はさすがだ。   最後は昨日少し触れたショウジョウバエの研究者を中心に7月30日のScience Expressに形成された「Selfguarding gene drive experiments in the laboratory (実験室での遺伝子操作実験を自衛する)」という声明だ。クリスパーなどを使って様々な遺伝子改変が可能になることで、これまで実験室外では生存できなかった動植物に限らず、野生の多くの遺伝子改変が進むと予想される。昨日も述べたが、これは安全性の問題というより、38億年の進化の道筋への大きな介入が起こることを認めるかどうかの問題になる。もちろん、研究をやめるという選択がないなら、科学者側で新たな何重もに及ぶ封じ込めを行う必要がある。この封じ込めの具体的方法を提案した声明でだが、これを読むと遺伝子改変動物の拡散をどう防ぐかについて科学者が自ら率先して議論していることがよくわかる。科学者が成熟して初めて、真剣な倫理議論が始まる。我が国でももっと議論を進めるべきだ。  この3つの問題で、現役時代、私はいわば推進派だったし、現役を退いた後も節を曲げるつもりはない。しかし、これまで以上に様々な人と対話を進めたいといつも思っている。若い一線の研究者も、夏休みぐらい少し落ち着いて、自分と違う意見に耳を傾けてみるのも大事なことだ。
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8月12日:過去のウイルスを現在に蘇らせる(8月11日号Cell Reports掲載論文)

2015年8月12日
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最近の臨床治験論文を見ていると、長年試行錯誤を繰り返してきた遺伝子治療が、有効な治療として実現しつつあることを実感する。このホームページでも、パーキンソン病、ムコ多糖症、重症免疫不全症、血友病、黒内症などの治験を紹介した。多くの遺伝子治療には、遺伝子の運び屋としてウイルスベクターを用いるが、中でもアデノ随伴ウイルスベクターは様々な細胞に高い効率で観戦することから、最もよく利用されるベクターになっている。このベクターを用いるウイルス治療が定着すると、今度は安全・高効率なウイルスベクターの開発が重要になる。この時、進化過程を模倣してランダムに起こる変異の中からさらに優れた形質を選び出すことがウイルスでも行われる。しかし、一旦環境に合わせて進化した遺伝子から全く新しい形質が生まれる可能性は低くなっている。そこで、時間を巻き戻して、進化前のウイルスを再構成して、そこから新しい形質を選び出す方法が数年前から試みられている。今日紹介するハーバード大学からの論文はその例で、この方法でアデノウイルスベクターの改良を図った研究だ。タイトルは「In silico reconstruction of the viral evolutionary lineage yields a potent gene therapy vector (ウイルスの進化過程をコンピューター上で再構築することで有用な遺伝子治療ベクターが開発される)」だ。この研究では、1)サルに自然感染している、2)ウイルスタンパクの再構築が確認されている、3)組み換えが起こっていない、の3条件を満たすアデノ随伴ウイルスベクター・カプシドの遺伝子配列を比べて系統樹を作成し、推計学的方法を用いて現存のアデノウイルスの祖先と言えるウイルスの持つ配列を再構成している。こうして再構成した配列を元に遺伝子を再構築し、このカプシドを持ったウイルスベクターを使ってその効率や安全性を調べている。おそらく著者らもここまでうまくいくとは思っていなかったのだろう。例えば私なら、この祖先からもう一度進化させてみる方法をまず想像したと思う。しかし、再構築した祖先型ウイルスは、1)熱安定性が高く、2)ウイルス回収率は現在ベクターに使われているウイルスに匹敵し、3)遺伝子導入効率は試験管内も、体内に投与した場合も現存のベクターより優れており、4)免疫原性も低いという、いいことづくめの性質を持っているという結論だ。今後、他の構成成分も同じように再構築して、より有用なベクターを開発できるとしているが、ベクター開発としてはそれでいいだろうが、進化での自然選択を研究する基礎的観点からも面白い結果だ。今後ウイルスについては、祖先を復活させて新たに進化させる研究方向がますます盛んになるだろう。ただ、こんな論文を読んでいると、遺伝子改変生物の封じ込めの議論をもう一度やり直したほうがいいように思う。おりしも、クリスパー技術について封じ込めの重要性を訴える基礎科学者の声明が出されている(7月30日Science Express)。わが国ではクリスパーの倫理問題はヒト生殖細胞系列の遺伝子改変の議論と人間から見た安全性に限定されているようだが、クリスパーも含めて遺伝子改変にはもっと深刻な問題がある。ダーウィン進化は生殖を通して伝わるゲノムを、個体の選別を通して選択する過程だ。このとき変異は全てランダムに起こる。従ってランダムとは言えない意図された変異と、自然選択とは異なる過程で選択した個体を自然界に持ち込むこと自体の問題についての議論が必要になる。すなわち、自然と人間という永遠の問題を議論することになる。これはクリスパーに限らず、遺伝子組み換え食物も含めて議論することが必要だ。テクニカルには、自然ではない個体をどう封じ込めるかが議論されるべきだろう。クリスパーを機会に、わが国でも議論を始める時が来たと思う。
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8月11日:ストレスと自己管理(8月5日号Neuron掲載論文)

2015年8月11日
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最近旧知の眼科の教授に久しぶりに出会って食事をした時、15キロの減量に成功したと聞いて驚いた。私自身は少し太り気味だが、アルコールが進むとどうしても食べすぎる。自己管理ができて、しっかりとダイエットしている人を見ると頭がさがる。おそらく私自身は、食欲を前にして自己制御が難しい脳構造を持っているのだろう。さらに、現役を退いてからはストレスも減って、太る原因になっているのだろうと考えていると、ストレスがあると自己管理ができなくなり、太る心配があるという逆の可能性を示す研究に出会った。チューリッヒ大学からの論文で8月5日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Acute stress impairs self-control in goal-directed choice by altering multiple functional connection with the brain’s decision circuits (急性ストレスは脳内の意思決定回路の複数の結合性を変化させ、目標のための自己管理を損なう)」だ。タイトルにあるように、この研究の目標はストレスが自己管理能に及ぼす影響を調べることだ。そのために、まず健康のために食事を管理してダイエットをしている人を50人ほど集め、身体的・精神的ストレスを与えた後、食べ物を提示して、味を選ぶか、健康を選ぶかという選択をさせる。同時に脳の機能的MRIを撮影して、活動と各部の結合性を調べている。まずストレスを与える方法だが、ビデオ監視下に氷水に手を3分間浸ける。もちろん拷問ではないので途中で耐えられずに手を上げざるを得ない。その間はビデオをじっと見つめ、手が元に戻れば手を浸けるように頼んで3分のセッションを終える。これがストレスになるかと思うが、実際に血中コルチゾルが上がるし、自覚的評価をさせてもストレス・スコアが高まっている。この状況で、味か健康かを選ばせると、味を選ぶ場合が増える。すなわち、ストレスがあると自己管理がおろそかになる。いわゆる「やけ食い」の反映か?この時fMRIで脳活動を調べると、食べ物の評価、すなわち味か健康かを判断する脳部位はストレスによってほとんど影響を受けない。すなわち正常な判断ができる。しかし、ストレスがあると味への欲望に関わる側坐核と扁桃体がより強く興奮している。さらに、前頭前皮質のなかでも意思決定に関わる部位と欲望に関わる側坐核、扁桃体との結合がストレスで亢進していることを見出している。研究では、味に負けずに健康な食べ物を選ぶというプロセスに関わる領域を特定して、この領域と前頭前皮質との結合がストレスで低下することも見出している。結論としては、ストレスは自制心に関わる領域と前頭前皮質のつながりを弱め、欲望と前頭前皮質のつながりを高めるため、自制心が欲望に負けるということになる。読んでいると、脳イメージはどうしても前もって考えたモデルを元に解釈されるため、どうしても結論先にありきの研究に思える。しかし、一般的にも「やけの大食い」ということを考えると、まあ納得の結論だろう。この論文を紹介する気になったもう一つの理由は、この研究グループが経済学部に所属しており、経済学部に社会神経システム研究部門が設けられ、こんな脳研究を行っていることだ。今わが国では大学の文系を再編するという文科省の決定を巡って議論が高まっている。しかし、私たちの文系という概念の中に、経済が人間の心に強く依存しているなら、当然脳研究を行うべきだとするチューリッヒ大学ほどの自由な発想があるかどうか反省すべきではないだろうか。将来に展望を持たずに、現状を変えようとする再編議論には一利もない。
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8月10日:1型糖尿病発症に関わる意外な経路(8月18日号Immunity掲載論文)

2015年8月10日
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8月5日、1型糖尿病根治を実現するための募金を呼びかける日本IDMMネットワークの井上さんからのメッセージを掲載したところ(http://aasj.jp/news/navigator/navi-info/3870)、なんと150人近い方々から「イイネ」という賛同の意が寄せられた。この場を借りて改めてお礼を述べると共に、1型糖尿病研究は徐々に臨界点まで近づいており、根治は必ず実現することをもう一度強調したい。根治と共に、発病前の早期発見と予防という面でもこの分野の研究は進んでいる。今日紹介するフランス国立医学衛生研究所からの論文は、1型糖尿病に意外な役者が関わっていることを示した研究で8月18日号のImmunityに掲載された。タイトルは「Pancreatic β cells limit autoimmune diabetes via an immuneoregulatory antimicrobial peptide expressed under the influence of gut microbiota (膵臓のβ細胞は腸内細菌叢の刺激で抗菌ペプチドを分泌し自己免疫性糖尿病を抑制する)」だ。タイトルにある抗菌ペプチドとは、植物から動物まであらゆる生物に保存されている分子で、抗菌作用を持つペプチドだ。ヒトやマウスのような哺乳類では、腸管上皮や白血球により産生され、腸内細菌叢の活動をおさえる役目がある。ただ、大量に分泌されると自然免疫を刺激し、様々な自己免疫疾患の原因になることが示唆されていた。一方カテリシジンと呼ばれる抗菌ペプチドの血中濃度が、1型糖尿病患者さんで低いということも知られており、逆に免疫反応をおさえる役目があるのではと疑われていた。この研究は、1型糖尿病モデルマウスを用いてこの可能性を追求して、1)マウスやヒトでは腸管上皮や白血球だけでなく、膵臓β細胞もカテリシジンを分泌しており、糖尿病のメスマウスでその量が低下している、2)カテリシジンを腹腔内投与すると糖尿病の発症が抑えられる、3)この効果はカテリシジンが膵臓のマクロファージを、PI3Kシグナル経路を介して免疫抑制型に変化させ、調節性T細胞を誘導することで自己免疫を抑えている、4)膵臓のカテリシジン分泌は腸内細菌叢が分泌する探査脂肪酸により誘導される、5)腸内細菌叢を抗生物質で壊すと、糖尿病の発症が早まる、などの結果を示している。少し出来過ぎに思える話だが、それぞれの可能性は実際に糖尿病発症の抑制として示されているので、十分説得力がある。もしこれが全て正しければ、IDMMネットワークでも患者さんの発症前の食生活や、抗生剤投与状況など、詳しい聞き取り調査を行って、疫学的原因がないか調べる可能性もある。もちろん、カテリシジン注射や、腸内細菌叢移植などで病気を予防する可能性も出てくる。いずれにせよ、治療だけでなく予防も含め、もう一度1型糖尿病を違った視点から眺める重要性を示唆する、面白い研究だと思った。
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8月9日:ムール貝を手本に接着剤を開発する(8月7日号Science掲載論文)

2015年8月9日
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プロでなくとも、ホームセンターに行けば、接着させたい対象に合わせた様々な接着剤が手に入る。しかしすこし考えてみると、これほど多くの化合物が開発され、ほとんどの物質同士を接着させることが可能になっているのは驚異的なことだ。この開発がどのように進むかなど考えたことがなかったが、今日紹介するカリフォルニア大学サンタバーバラ校からの論文を読んで、まず接着させるのが難しい対象を選んで、接着を阻む問題を分析し、これを化学の力を使って解決することで開発が進むことが理解できた。論文は8月7日号のScienceに掲載され、タイトルは「Adaptive synergy between catechol and lysine promotes wet adhesion by surface salt displacement (カテコールとリジンの適応的協調により表面の塩を排除することで濡れた面の接着を促進する)」だ。この研究で選ばれた課題は、海水中で利用できる接着剤だ。確かに接着させるとき、表面をよく乾かしてそこに接着剤を塗布するのが普通だ。組織を接着させる医療用接着剤の場合でも、決して血の海の中で接着させるというものではない。水があると、接着分子の表面の極性が覆われてしまい、分子間力が働けなくなるのが理由だ。このグループはムール貝が足を伸ばして岩場に接着する時使っている分子に注目している。正直なところ、私はこれは吸盤と同じ原理かと思っていた。実際には15種類のタンパク分子が関わる複雑な過程で、そのうち最初に岩の表面に分泌されるmfp3,mfp5は表面の状態を接着に適したものに変える働きがあることがわかっていた。面白いことにこのタンパクにはDopa分子とリジンが多量に含まれている。ここからは化学者の頭が必要で私にはついていけないが、著者らはこの二つの分子セットが鉱物表面の水と塩を処理していると考えた。特に、CTCと呼ばれる鉄に親和性を持って溜め込む分子がやはりカテコールとリジンが近接して構造化されている分子であることに気づき、水中接着にこの分子を使ってみると、水和した塩が排除され接着が高まることがわかった。そこで、カテコールとリジンが結合した分子が3個繋がった人工化合物を合成しCTCより2倍接着力の高い、pH3-7.5の水中で働く接着剤が開発できた。それぞれの部分を変化させ、接着原理を調べた結果、この分子からできるカテコールアルキラミンが鉱物表面を接着に適した状態にして、そこに2本の手をもつカテコールが入って水素結合することで強い接着が生まれることが明らかになった。この結果を元に、今後カテコールをカチオン官能基と合わせることで塩を除去するという原理にかなった化合物をさらに探すことで、水中でも接着が可能な新しい接着剤の開発が期待できると結論している。実を言うと化学の論文なので、わからないところはすっ飛ばしているが、様々な現象に学んで開発に役立てるというストーリーは面白い。何よりも、ムール貝の足がそんな複雑な接着方法を使っていることを知って、ただの吸引機関と思っていた自分の無知を悟った。
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8月8日:成人の肝臓維持に関する新しい考え方(Natureオンライン版掲載論文)

2015年8月8日
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毎日論文を眺めていると、深さ、広さの両方で生命科学が猛烈に進展しているのを感じる。一方、こんなことがまだわからずに残っていたのかという意外な結果に出会うことも多い。こんな場合、すでに定説が出来上がっていて、誰もそれにチャレンジしないことが多い。今日紹介するスタンフォード大学幹細胞・再生医学研究所からの論文はその典型でNatureオンライン版に掲載されている。10の11乗オーダーという膨大な数の肝臓を造った後一生涯にわたって維持することは大変なことだ(特に私のような酒好きは余計に苦労させている)。したがって、一定の割合で自己再生が起こっているとしか考えようがない。最初肝臓幹細胞として発見されたオーバル細胞は、その後の研究で再生能はあっても肝障害によって活性化される予備細胞であることがわかった。このため、普段の幹細胞の維持には分化した細胞がゆっくり増えていると考えるのが通説だった。一方、この研究は自己再生だけ受け持つ特殊な幹細胞が、オーバル細胞以外に存在するのではという新しい可能性に挑戦し、今回「Self-renewing diploid Axin2+ cells fuel homeostatic renewal of the liver (2倍体のAxin2陽性細胞が定常状態の肝細胞の自己再生を司る)」という論文に結実させている。この研究は、もし幹細胞が存在し自己再生するならWntシグナルが働いているはずだと考え、Wnt刺激の結果誘導されるAxin2の発現に目をつけた。肝臓を見渡すと、Axin2は中心静脈周りの細胞だけに発現している。すなわち、そこだけでWntが働いていることになる。次に、Axin2を発現している細胞だけを標識して追いかけると、期待通り標識された細胞が時間とともに拡大していく。すなわち、Axin2細胞は時間をかけて肝臓の細胞を置き換える幹細胞の働きをしている。細胞増殖の時間は遅く、一回の分裂が14日かかるほどの遅さだ。このため、ほとんどの研究で待ちきれずに見つからなかったようだ。さて、この細胞を集めて詳しく調べると、オーバル細胞とは異なり、普通の幹細胞に極めて近いが、他の組織の幹細胞が発現しているTbx3を発現している。また、中心静脈からWnt分子が分泌され、この幹細胞の自己再生を誘導している。この新しい幹細胞の発見とともに、この研究のもう一つの重要な発見は、この幹細胞は普通の体細胞と同じで2倍体だが、分化が進むと一般の幹細胞に見られる多倍体に変化することを明確に示したことだ。分化した幹細胞が増殖するとするこれまでの通説は、ほとんどの肝臓細胞が多倍体であるという事実、すなわち老化した細胞が増殖できるかという問題を避けてきた。この研究はこの問題にはっきりした答えを出している。結論的に言うと、中心静脈から出るWntによりこの近くの細胞がゆっくり増殖を続ける幹細胞集団を維持し、これが周りに拡大して肝臓の定常状態を保っている。オーバル細胞ももちろん幹細胞としての働きはあるが、これは非常時だけで、普通は働かないというシナリオだ。この新しい可能性は、おそらく肝ガンの発生機序の研究にも重要だろう。もし本当なら(かなり確率は高そうだが)この分野を大きく進展させると思う。もし本当ならと但し書きがつくのは、同じような研究がなんども行われてきたからだ。例えば、私もよく知っている京大の川口さんたちはSox9で標識した細胞が肝細胞を置き換えるという研究を私が現役の頃Nature Geneticsに発表したことを覚えている。今回の論文で、この論文が全く引用されていないのは、タモキシフェンを使う標識方法が安定しないからで、私も経験がある。当分はまずこの考えが定着できるのか、少し待つ方がいいかもしれない。
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8月7日:医師の視点と看護師の視点(Aesthetic Surgery Journal及びJournal of Advanced Nursingオンライン版掲載論文)

2015年8月7日
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私が研修医の頃、たまに脳外科の長い手術でラジカセから音楽が鳴っているのを見たことがあるが、手術場で音楽がかかっているのは稀だったと思う。臨床から離れて40年近くになるが、現在は様変わりのようだ。英国では72%、インドで53%、イスラエルで63%の手術場に音楽が流れているようだ。しかし昨年12月British Medical Journalに手術中の音楽に高い効果があるのではというコメントが書かれてから、現在も様々な議論が続いているようだ。それを受けてか、音楽を聞きながらの手術についてより科学的な検証を試みた論文が2編発表されているので紹介しておこう。一報目は形成外科の雑誌Aesthetic Surgery Journalオンライン版に掲載されたテキサス大学からの「Prospective randomized study of the effect of music on the efficiency of surgical closures(外科縫合の効率に及ぼす音楽の影響についての前向き無作為化研究)」という論文で、好きな音楽を聴く、聴かないを無作為化してレジデントに豚の皮を縫合させ、その時の速さと質を測った研究だ。結果は、好きな音楽を聴いた方が有意に縫合速度が早く、仕上げも優れているという結果だ。もう一編の論文は看護師さんの雑誌Journal of Advanced Nursingオンライン版に掲載されたロンドン大学からの「Music and communication in the operating theatre(手術場での音楽と意思疎通)」という論文で、20回の手術をビデオに納め、音楽を聞いていた手術で術者と看護師のやり取りが侵されていないか会話記録を調べた研究だ。解析により明らかになったのは、術者の支持に対する聞き直しの頻度を調べると、音楽がかかっている場合1.7%、かかっていない場合0.3%で、その実例も録音結果と一緒に示されており、実際看護師のイラついた会話も記録されている。まあ、術者の好きな音楽を聞かされる看護師さんの身になれば充分納得できる結果だ。両方の論文とも、手術室の音楽を科学的に検証しようとした点では重要だろう。両方正しいとすると、結論は音楽があると単純な作業の効率は上がるが、手術場でのスタッフとのコミュニケーションは侵されるという結果だ。手術は個人の能力が強く反映される。また、個人の能力には生活習慣が大きく影響している。手術の指揮をとる人間を優先すると、術者がすべてを決めるというのは正しいように思うが、一方手術がチームプレーであるなら、やはりある程度個人の自由は制限されてもいいだろう。結局のところは、信頼関係があるかどうかが第一で、やはりこの問題の科学的解決は難しいように思う。
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8月6日:広島被曝の日に福島を考える(8月1日号The Lancetの特集記事)

2015年8月6日
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今年も8月6日は暑い日になりそうだ。原爆投下について答えられない児童が増えたというが、2014年で約20万人の広島、長崎で被曝した方が生きて暮らしておられる。この方々の声を日本中の子供達に聞かせる工夫をするのが教育だろう。そこに2011年の福島だ。これを後の世代に正確に伝えていく工夫が必要だが、その基礎となるのが科学的研究だ。8月号のThe Lancetでは、広島・長崎・そして福島第一という特集を組んで、4編の総説を掲載している。最初の総説は、広島大学を中心として、広島、長崎の被爆者の方々のコホート研究がどのように行われ、何がわかったのかがまとめられている。被曝時の状況の聞き取りから被曝線量が推定されているコホートはこの研究しかないし、また最後であって欲しい。実際のコホートがスタートしたのが5年後の1950年と遅れているのは戦後の混乱のせいだと思うが、被爆者を援護する法律ができたのがようやく1957年であったのを再認識すると、GHQも政府も取り組みが遅かったかわかる。もちろん白血病を中心に被曝により発がんリスクが高まることは明確だが、一方被爆者の子供達は統計的に親の被爆の影響が見られないことは重要な結果だ。今福島の若い女性は差別を恐れて生まれを隠す人がいると聞くが、是非被爆2世の結果をもう一度再認識して欲しい。被爆後70年にわたって蓄積されたデータや資料についてもっと多くの利用と周知が進むことを期待する。次の総説は福島第一を中心に原子炉事故についての総説で、福島大学を中心に多くの施設が参加して書いている。しかし、大きな事故としてスリーマイル島から福島まで、3回も起こっていることはもう一度認識すべきだ。安全という数字ではない。過去の経験から原発が安全でないと知った時、さらに科学を盾に安全性を訴えるのか、やめるのか、政府だけで決められる問題ではない。被爆については、福島原発で働く人たちと、原発に近接した地域の住民と分けて書かれている。原発労働者については確かに被爆の管理は一部を除いてしっかり行われている。しかし、前にも書いたが長期追跡が重要で、特に普通の原発維持とは違う状況の中で働いた人を一人残らず追跡するための体制を確立することは急務だ。許容範囲とはいえ、間違いなく通常より高い被爆を受けている。福島医大を中心にしっかりと追跡が行われているという印象を持ったが、もっと支援が必要だろう。東北メガバンクを始め最初からゲノム解読を全員にやるなどと金を使うことしか考えない土建屋型プロジェクトが多いが、一番重要なのは被爆した人に寄り添いながら行う、正確な把握と追跡で、ゲノムなどコストが安くなってからやれば済む。実際シークエンスコストがどんどん下がっている時に、シークエンスが先にあるなど考えるようでは、結局壮大な無駄と借金が残るのではと懸念する。この総説で特に指摘されているのが、被爆より、被爆後、その後の生活のストレスからくる精神的障害で、これはチェルノビリも同じようだ。3番目の総説は、これらの分析を基礎に、原発労働者や住民の保護などに具体的提言を多く行っているので、是非行政の人には一読を進めたい。そして最後、福島医大の後藤さんとハーバードパブリックヘルスのライヒさんが、この特集のまとめとして、長期的取り組みの必要性を説いている。最後に彼らの3つの提言を聞いて、今日の報道ウォッチを終わる。 1) 地域ぐるみの取り組みができるシステムを確立すること。地域を孤立させない政策が必要だ。価値を共有して、福島で壊れた絆を取り戻す。 2) 被爆者の追跡を独立して行うのではなく、地域医療システムの中に組み込むこと。(メガバンクといった土建事業などもってのほかだ?)。コホートはデータの追跡ではない。患者さんと向き合って、カウンセリングを含めて追跡を進めることがあるべき姿だ。 3) 政府の取り組みが実を結んでいるのか、独立に評価することが重要。(本当に必要なところにお金が行っているのか、仕分けが必要だろう) カッコ内は私の感想。 最後に、この4編の総説に引用された論文は今後の科学記録として重要だ。書いた著者たちに感謝したい。しかしイギリスの雑誌がこのような特集をしている時、日本の医学誌は何を特集しているのか興味がある。
カテゴリ:論文ウォッチ
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