8月9日Patientlikemeについて
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8月9日Patientlikemeについて

2013年8月9日
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Patientlikeme 昨日はScienceNewsLineの話をした。これは、科学者側からの情報を、社会にどう還元していくかという方向でのサイトだ。しかしこれだけで終わらないのが21世紀だ。すなわち、一般側から専門家へ(もちろん専門家だけを向いているわけではないが)の向きがネット社会によって可能になる。   全てではないが、一般の人から専門家への情報や知識の流れをcollective intelligenceと呼んでいる。この新しい動きで最も成功したのがGalaxy Zooと呼ばれるサイトだ(http://www.galaxyzoo.org)。これはハッブル望遠鏡で撮影した銀河の分類を、写真をウェッブに公開することで、一般の人に行って貰うというプロジェクトだ。実際、コンピューターでは考えられなかった情報が、一般の参加で得られたという。既に新しいプロジェクトが始まっており、以下に紹介しておこう

Stage 2: Begins Now! In this stage we will begin the ‘Data Analysis and Discussion’ portion of the project. Nobody has ever attempted an online science project quite like this before, so it is going to be an interesting few weeks! Please check out this blog post for more details about what happens next, or visit TALK and ZooTools to get involved! 第2弾が今始まった。 プロジェクトの中の、「データの分析とディスカッション」を今回のステージでは始めたい。このようなオンラインの科学プロジェクトはこれまで全くなかった。従って、これから数週間は面白くなりそうだ。次に何が起こるか、どうかこのブログポストをチェックしてください。あるいは、「話し合う」や「動物園ツール」サイトに行って、どうして参加するか調べてください。 これは全く新しい科学の試みだ。

しかし医学では、これ以上の可能性の高いサイトが既にアメリカでは進んでいる。これが今日紹介したい、Patientlikemeだ(http://www.patientslikeme.com)。   端的に言ってしまうと、これは患者さん達のフェースブックだ。といっても決して登録サイトではない。様々なレベルのコミュニケーションが常に行えるよう努力が注入されているサイトだ。実際このサイトはすでに大手の製薬会社も注目し、またアカデミアともコミュニケーションが行われている。今の段階だけではまだまだと思えるかもしれない。しかし、患者さんが自分を開示すると言うこと自体が画期的で、様々な連携を行える潜在力を秘めている。私自身は、医学や医療を大きく変えるポテンシャルがあると確信している。そして、このようなサイトが21世紀の国力に繋がると確信している。医療変革というとすぐトップダウンの発想しかない政府と、このようなサイトをもって様々な観点から考えられる政府では大きな差がつく。このような日本語のサイトが出来るよう努力するのが私たちAASJの一つの使命だと思っている。

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8月8日 ScienceNewsLineについて

2013年8月8日
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今日はあまり科学報道が活発でないので、一つ面白いサイトを紹介します。 サイエンスニュースラインScienceNewsLineと言うサイトで、日本語版もあります(http://www.sciencenewsline.jp) これはコンピューターで自動的に選んだ様々な分野のトピックスを分かりやすく解説しているサイトです。さらに、このサイトの記事の多くは様々な言語に翻訳されています。   これほどの情報を自由に閲覧させるサイトが運営されていることがアメリカの力です。このようなサイトが普通に読まれるようになると、多分日本の既存メディアの役割はほとんどなくなるでしょう。政府もビッグデータとか今いろいろ言っていますが、このサイトが行っているようなコモンズの運動、すなわち情報をいかに提供するかという視点なしに言ったところで、日本は公共情報の面でどんどん遅れていくような気がします。 最後に今日この中で私の注意を引いた記事を挙げておきます。スウェーデンとドイツのチームが行ったいわゆるコホート研究です。これはJournal of vocational behaviorという雑誌に掲載されたようです。以下に内容をcut & pasteしておきます。日本でもコホートコホートと騒がれていますが、誰でも考えるようなことを研究費のためだけに声高に叫んでいるように思えます。その意味で、40年という時間を見続けるこのような研究は本当に頭が下がります。次の機会にはもう一つ重要なサイトPatientlikemeについてお示ししたいと思います。

起業家のダークサイドな側面 メディアは起業家にまつわる疑惑、反社会的な活動などを多く報じている。これらの報道から判ることは、起業家のタイプの中には、「隠された」傾向として、反社会性があるかもしれないということとなる。これが事実だとしたら、起業家は自己的な道徳観と倫理観に依存した自己中心的な人間であるということができるのだろうか?自己の利益のために他の倫理的な、そして社会的約束事のすべてを破るような「経済的ホモサピエンス(homo oeconomicus)」は果たして存在しているのだろうか?そしてもし、こういう人種が存在しているのだとしたら、何か彼をそうさせているのだろうか?Friedrich Schiller University Jena (FSU)とUniversity of Stockholmの心理学研究チームは、起業家にみられる反社会的傾向を研究することで驚くべき結論に至った。 研究チームは、この論文「Individual Development and Adaptation」(DOI: 10.1016/j.jvb.2013.06.007)の研究を行うにあたって中規模のスウェーデンの町に住んでいた1000名の子供を対象にその発達の過程を40年間に渡って追跡調査した。「私たちは、プロフェッショナルキャリアとして起業シップを発揮した被験者がどのような発達を遂げてきたのかを分析することから始めました。私たちはどのような社会的行動が、企業シップにつながっていくのかについて知りたいと考えたのです」とUniversity of JenaのDr. Martin Obschonkaは述べる。その上で研究チームは、被験者のルールに従わない傾向、参加に対する態度などを詳細に調べた。その結果、起業家には、思春期の頃から反社会的な傾向があること、また、この傾向は成人になってからも継続していることが判った。

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8月6日朝日:記憶、脳か役割分担

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURL参照。 http://www.asahi.com/tech_science/articles/TKY201308040081.html

この分野は私も素人で、この論文の多くの細部を理解していない(多分理解できるだろうが時間がかかる)。ただ、脳の中で神経細胞のサーキットの活動を計測していること、そして特定の画像が組み合わさったとき、組み合わさったことに反応して画像を総合できる能力について調べた研究であることはわかる。これまで画像の研究が個別のニューロンの反応として記録されてきたことを考えると(例えば三角に反応するニューロンなど)、サーキットとして記録できるところまで研究が進んでいるのは驚きだ。その上で、個々の画像を表象するサーキットが形成され、それが時間をかけて異なる領域でのサーキットとして成立することで、統合イメージを作り上げるという。これこそ認知科学の核心だという結果だ。また、宮下さんも意識しているように、新しい画像処理のロジックになるかもしれない。実際、今のPCで画像同士を比べる事は出来ても、論理的に分析することが困難であることを考えると、期待できる。   さて記事であるが、朝日は記名記事と、無記名記事があるようだがその基準はどこにあるのか疑問に思う。これは無記名記事で、そのためかあまりまじめに書かれていない。多分記者が宮下さんの話に何とかついて行ってまとめたのだろう。もちろんすばらしい仕事だから報道してあげてほしいと思う。しかし、仲立ちをする以上、やはりある程度の理解が出来る事が最低限ではないだろうか。「宮下さんのグループが、猿を使って、記憶の場所を探して、幾つかに分かれていることがわかった。多分コンピューターの設計に役に立つ」以上のことが全く書かれていない記事をのせるとは、記者の見識が問われる。この話は、今日報道する必要はない。時間をかけて理解をした後報道すべきだろう。   前にも述べたが、脳研究で問われる問いは一般の人ももっともと共有できる内容が多い。一方いったん実験になると、専門家以外はほとんどわからないというレベルにまで来てしまう。このような状況を考えると、科学報道記者も合宿ぐらいして、準備をするぐらいの気構えがほしい。

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8月6日朝日(鍛冶):ES細胞から精子の元つくり改良 京大、効率化に成功

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していない。必要な方は以下のURL参照。 http://www.asahi.com/tech_science/update/0804/OSK201308040020.html

京大の斉藤さんの仕事だ。彼のことは学生時代からよく知っているが、挫折のない人だ。すくすくと育って、今や世界の生殖細胞研究をリードする研究者になった。競争に勝ち抜くためになどと各紙は書いているが、まあ当分は安泰だろう。特にES/iPSからの生殖細胞分化については、他を圧倒しているのではないだろうか。今回は、ES細胞から精子まで分化を誘導したという前の仕事の続きに見えるが、実際には生殖細胞分化に関わる遺伝子について、斉藤さんが地道な研究で明らかにしてきた結果の一種集大成だ。すなわち、ES細胞にBlimp; Prdm14, そして Tfap2cの3種類の遺伝子を導入し、好きなときに発現できるようにした。3つの遺伝子のうち2つは斉藤さん達が機能を明らかにしてきたものだ。この好きなときに発現できるようにしたのがみそで、エピブラスト時期に発現させると、後は何もしなくともプログラムが勝手に進むことを示すことが出来ている。転写因子セットで増強可能になったことで、人での研究は間違いなく加速する。特に斉藤さんはエラトーで猿の生殖細胞研究を進めているので、iPS由来の猿の個体が出来るのも近いかもしれない。     NHKも含めて各紙が報道した。だいたい同じであるが、この中では朝日の記事が図も載っており、最もわかりやすかったのでURLとして特に取り上げた。特に間違いもない。例えば効率について、10%から80%へ上昇したとした記事と20%からという記事に分かれたが、論文でははっきりしないし、どうでもいいことのように思える。この辺の数字を求めたがるのは記者の習性かもしれないと興味がある。求められれば数字を入れるのもいいが、実際には何が行われたのかをしっかり把握して貰うことが一番だろう。ES/iPSはそれだけでは利用できない。細胞の分化を誘導して、目的の細胞を得ることで初めて利用可能になる。このコントロールの方法の開発を世界中競っている。生殖細胞が対照となっているため少し違った印象を与えているが、斉藤さんは最も論理的な方法でこの細胞分化誘導方の開発を行っている。これが一番重要なことだ。この辺を協調してもらえれば100点だった。   とは言え、わかりやすい仕事で各紙で適切な記事になっていた。

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7月27日毎日(渡辺):線虫:味を記憶? 塩分と餌の有無、関連つけ 東大助教らか突き止 める

2013年8月8日
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毎日新聞は元の記事のペーストを許していない。必要な方は以下のURL参照。 http://mainichi.jp/select/news/20130727ddm012040048000c.html

私はこのグループが入っているクレストプログラムのアドバイザーをしている事をまず開示しておく。だからといって私にとって何も変わらないが。 さて、線虫を使って行動を調べる研究は、行動に関わる神経回路が単純である事から、多くのグループが研究している。東京大学のグループは、こレマで明らかになった神経回路に関する知識を利用して、行動に関わる全ニューロンを記録して、行動のシステムバイオロジーを創設しようとチャレンジしている。今回の論文もこの延長で行われており、実際論文のコレスポンデンスも飯野さんになっている。   さて、今回の論文のポイントは、ASERと呼ばれる感覚細胞と、それにつながるAIBと呼ばれる介在ニューロンのセットが、記憶した塩濃度より低い時に働いて、記憶にある塩濃度を求める行動を引き起こすと言う、記憶回路についての研究だ。   さて記事であるが、この神経セットの話を全く抜きにして書くと、行動だけが強調されその背後にある神経回路が全く無視された不思議な記事になっている。間違いではないが、論文の本当のメッセージとは言えない。まあそれでも、複雑な実験だから良いとしよう。ただ、最後の文章はいただけない。   これまて線虫は、においを頼りに餌を探していると考えられていた。国友助教は「環境中 の塩分濃度と餌の有無を関連つけて記憶しているのてはないか。ヒトを含む動物の記憶や学 習の関係解明につなかる可能性かある」と話す。   これを結論としたいのだろうか。これではあたかも新しい味に関わる神経回路を見つけた様な書き方だ。特に見出しが、線虫:味を記憶? などと書かれると、完全に読者はそう錯覚するのではないだろうか。実際、この仕事が記録した感覚神経系は、既に外国のグループにより研究が進んでいる感覚細胞であり、神経サーキットだ。これは誤解を招くとはっきり言おう。   役に立つ医学ばかり報道される世の中に、この様な基礎的仕事を紹介する態度は高く評価したい。ただ、やはり内容は耳学問だけでなく、しっかりと理解する努力を記者の人にもしてほしいと希望する。

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7月26日読売(中島):誤った記憶」作った!…利根川氏ら

2013年8月8日
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読売新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURLを参照。 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130726-OYT1T00025.htm

脳研究は21世紀の重要分野である事は間違いがない。利根川さんも免疫学から脳研究に移った後は、若い人々にやるなら脳研究だとはっぱをかけていたのを良く覚えている。脳研究は何を問題にしているのかは(例えば過誤記憶)一般の人でもよく理解できるのだが、実際の研究となると、研究手法やプロトコルが極めて複雑でわかりにくい事が多い。多分科学者として教育を受けないと何をしているのかほとんどわからないのではないだろうか。この困難を顧みず挑戦した今回の読売の記事は個人的には評価したい。これからも多くの優れた成果が期待される分野だ。ただ、記事の内容は、利根川さんと理化学研究所チーム(日本人と間違ってしまう)が、過誤記憶を光を使って呼び起こして、成功した。と言った誤解の多い記事になっている。  まず研究内容とは関係ないが、利根川さんが日本人で理研脳研究センターの所長である事は間違いがない。ただ利根川進・米マサチューセッツ工科大教授と理化学研究所のチームと書かれると、日本の研究チームかと誤解する。実際ここで言う理研チームとはアメリカチームで(利根川さんの主催する研究施設を理研は支援している)、実際に日本人は入っていない。これは一種理研と言う言葉に条件づけられた、「過誤記憶」の呼びおこしだろう。   さて研究については、極めて複雑だ。この様な内容を一般の方でもわかるようにどう表現するかは記者の腕のふるいどころだ。ただ今回も合格点とは言いがたい。とくに、「海馬に光が当たったことで安全な部屋の記憶がよみがえり」などと書かれると、脳の中で光を感じているのではと誤解しないだろうか? この場合の光は、光が当たると開くナトリウムチャンネル遺伝子を発現させた細胞を刺激するために使っている。実際には電極で刺激するのと同じだ。これは2005年ぐらいから使われ始めた、光遺伝学と呼ばれる神経のリモートコントロール法だ。勿論、図も使って説明されている結論は正しい。優れた脳研究は、誰でもがわかる質問を、専門家しかわからない方法で研究している。しかし複雑な実験手法をどう伝えるか、知識、研鑽が要求される。是非記者の方も努力してほしい。ただ言葉足らずだと必ず誤解を招く。まさに記事自体も利根川さんが研究対象の例と言える。

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日本の科学報道に一言(7月25日)

2013年8月8日
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ニュースがないようなので、日本の報道に一言。 科学報道は正確な情報を伝えるだけではない。夢を伝える事も重要だ。そんなニュースがデンマークから伝えられている。70万年前の馬の化石から遺伝子を取り出し、全ゲノムレベルの再構成に成功した話だ。勿論マンモスゲノムと比べてもずっと時間的に古い話だ。これまでだいたい5万年ぐらいの化石のゲノムしか調べられていないのと比べると、画期的なことだ。また全ゲノムに近い解読であることもすばらしい。最新の技術を使って研究が行われており、私が知る限りで、1分子シークエンサーがなかったら出来なかった仕事の代表ではないだろうか。この結果、実際蛋白質に翻訳される遺伝子だけでなく、トランスポゾンと呼ばれる一種の寄生的配列の解析についても書かれている。さらに、4万年前の馬ゲノムや、現在の野生種、家畜化した馬と比べる事で、遺伝子間の交換についても詳しい解析が示されている。大きなブレークスルーで、新しい科学が始まったことを予感させる。  残念ながら日本のメディアは私がウェッブで調べる限りまだ報道していない。一方、NY Timesはほぼ完璧と言っていい記事をウェッブに載せている。さらに、フランスの通信社AFPの日本語サイトや、もちろんSciencelineの日本語サイトにも詳しく取り上げられている。科学記者が記者会見やブリーフをうまくまとめて記事にすることしかしていないと、このような記事は書けないだろう。と言うのも、外国からの仕事の場合、記者会見に行くわけにもいかないだろうから、論文に当たり、理解し、まとめることが必要だからだ。タイムリーに記事に出来ていないのはがっかりだが、時間をかけてもいつか報道してほしいと願っている。もちろんこの問題はメディアだけではない。ドイツにはネアンデルタール人を研究するためだけの研究所があり、今回の仕事もデンマークの博物館が関わっている。日本にはこのような研究を待ち望む国民も、政府もないとすると残念だ。

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7月24日朝日(瀬川):シーラカンス遺伝子を解読 進化速度、ヒトの40分の1

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURL参照。 http://www.asahi.com/tech_science/update/0723/TKY201307220601.html

7月23日に夢のある話も報道してほしいという苦言を呈した。早速でもあるまいが、今日はシーラカンスのゲノム解析の話だ。生きた化石としてよく知られている魚で、ゲノム解析が待たれていた。報道としても論文の内容をうまくまとめており、進化の遅いこと、脊椎動物の陸上移行との関係など、よくまとまっている。ただ、報道する側として気をつけるべき重大な点があるので指摘しておく。 まず、科学研究成果について報道するとき気をつけなければならないのは、既に同じような仕事が発表されているかどうかだ。科学には競争はつきもので、科学者自身も勝った負けたの話が好きだ。シーラカンスのゲノムともなると世界中で研究は進んでいるはずだと考える感受性がほしい。実際PubMedにシーラカンスゲノムとタイプすると60以上の論文が上がってくる。   私が初めてシーラカンスの全ゲノム解析の論文を見たのは今年の4月だ。アメリカのグループが、アフリカのシーラカンス全ゲノム解析について発表したNatureの論文だ。私は日本でも既に報道していたのかと思っていた。ただ、今回の朝日の記事にはそのことが一切書かれていないところを見ると、夢についても日本からでないと書く気にならなかったのかもしれない。だからといって、日本チームの努力の意味がないと言っているのではない。このようなゲノムデータを集めて、多くの人に利用して貰うことが重要なのだ。その意味で、日本でもゲノム解析が行われていたことは大いに評価すべきだ。しかし、4月の先行論文に全く言及せず記事を書くのは問題だ。是非記事を書くときに一度PubMedに当たる慎重さがほしい。  最後に、他紙ではゲノムリサーチに掲載と明確に書かれているのに、朝日の記事は、米国専門誌となっている。引用の際、オリジナルな雑誌名を記載するという当然のことが行われていない。新聞各紙は記事の権利については大きな努力を払っている。もし私がこの報道ウォッチを日本の某新聞社として書いたら、多分抗議されることだろう。是非我が振りも直してほしい。

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7月17日毎日他:バルサルタン:臨床試験疑惑 降圧剤不正、京都府立医大謝罪 誰が 操作「特定できず」 後ろ向き答弁終始

2013年8月8日
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毎日新聞を取り上げているが、各紙で報道された。毎日新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な場合は以下のURL参照。 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130712-OYT1T00708.htm

松原事件について一言。 京都府立大学がヴァルサルタンについての論文捏造についての報告書をまとめたと言うニュースは、日本の各紙だけでなく、7月18日に発行されたScience紙にも報道されている。サイエンスの内容は他の新聞とほとんど変わる事はない。ただ、例えば東大の谷本さんのコメントが載っているなど、研究者も日本のメディアよりは話しやすいのかなと考えてしまった。この記事を書いたNormileはよく知っているが、自分で直接情報をとろうと言う気持ちが前に出た優秀な記者だ。このぐらい熱意があるとつい話してしまうのだろう。   サイエンスを含む各紙も大体同じで、松原さんがNovartisから研究助成金を1.4億円ほど貰っていた事、またアベノミックスでいくら創薬研究の推進がうたわれても国民は信用しない事などが報道されている。    ただ、報告書を精読して問題を理解しようとする記事はあまりなかったように思う。府立医大の報告書はホームページからダウンロードできるようになっているので、今回読んでみた。まず、ひょっとしたらexecutive summaryと勘違いするほど短い。ただ、調査委員が報告書に掲載されていない。調べればわかるのかもしれないが、はっきり掲載すべきではないだろうか。    読んでいくと、今回の事件が極めてお粗末な捏造事件であった事がわかる。また、だからこそこれほど短い報告書で済んだのかもしれない。要旨は、府立医大からの参加者のデータ再調査を行い、複合イベントの頻度が意図的に捏造されていたので、これはデータ取得段階でなく、データ集計時に捏造(あるいは間違い)されたと結論している。この結果、この捏造は最後の集計に関わった研究員の責任で、トライアル全体の問題ではないとしている。勿論捏造があったかどうかについてはこれで良いかもしれない。一つでも捏造が証明されればそれで良い。しかし、この報告書にはまだまだ注目すべき幾つかの問題がある。 まず第一に、European Heart Journal論文にはこの研究が府立医大の研究費で行われた事が書いてある.。しかし、この点について全く言及がない。研究にはお金がかかる。特に患者さんをリクルートする臨床研究となると普通大きな費用がかかる。どのぐらいのお金がかかり、それが各機関にどのように渡り、どのように使われたのか葉重要な点だ。府医大がスポンサーである事が明示されている限り、この点をはっきりさせるべきだ。  第二に、合同調査委員会ではデータの流れが把握できなかったと書かれている事だ。この流れが把握できない事は臨床研究全体について全く把握できていない事だ。これは極めて重大な点で、府医大の将来を考えると更にこの流れについて明らかにする事を約束すべきだろう。 最後に、府立医大からの登録例が310例あるにもかかわらず、カルテ調査が223例しか出来なかった事だ。同じ大学でカルテの調査が出来ないと言う事はほとんど考えられない。はっきりした理由を示すべきだろう。 最後に捏造一般に対する提案だが、第三者機関の調査以外に、共同研究者として論文に名を連ねた研究者が、自らの手で問題を明らかにしようとする動きがあっていいのではないだろうか。誰かに罪をかぶせるだけでは何も終わらない。この様な捏造は、個人だけの問題ではなく、捏造を期待する学会社会が背景にある事を肝に銘じるべきだ。例えば、スティーブングールドのパンダの親指や、韓国の優れたジャーナリスト李成柱の「国家を騙した科学者」はこの事を鋭く指摘している本だ。我が国の成長戦略が、捏造の背景にならないよう、これらの本を読み直すときかもしれない。

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7月19日朝日(下司):がん化リスク低いiPS細胞作製 北京大、遺伝子使わず

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していません。元の記事は以下のURLを参照。 http://www.asahi.com/tech_science/update/0719/TKY201307180516.html

3月まで、理研CDBや様々な政府委員会を介してiPS研究推進の張本人であった事から、iPSの話題は敢えて取り上げないようにして来た。幸い朝日の記事は北京大学の仕事なので久しぶりにこれをネタに、2点指摘したい。 まず中国の事だ。この仕事を指揮したHongkui Dengはこの分野の中国若手を代表する研究者だ。個人的にもよく知っており、好感の持てる研究者だ。この仕事も、朝日の記事にあるように、安全なiPSを目指すと言った単純な仕事ではなく、chemical biologyとしてかなり優れた基礎研究だ。一昨年、北京大学に講義に行った時多くの若手研究者と話す機会があった。まず驚いたことに、少なくとも北京大学のライフサイエンスセンターには日本の講座制の様な古い階層性はない。即ち若手研究者が独立して自分の責任で研究を行う体制が出来ている。そして、そこに集う学生さんも大変優秀で、熱心だ。古い構造を多く残している日本の研究をすぐに追い越していくだろうと実感した。例えば韓国と比べたとき、韓国の大学や研究機関の構造はどうしても日本型で、あまり脅威を感じる事はない。 しかし、ではこの仕事で日本の研究は追いつかれたとか追い越されたかどうかと聞かれると、心配ないと断言できる。今回発表された仕事のような研究がいくら増え、良い雑誌に多く掲載されても心配はない。これは、誰でも考える事をしっかりやったと言う仕で、その意味で中国も先進国だ。勿論日本を始め他の先進国でも、この様な仕事が中心である事は間違いない。ただ山中さんの仕事を始めとして、日本に優れた個性が発揮された仕事をまだまだ見る事が出来る。新しいiPSの作り方について言えば、日本からもっともっと豊かな発想を持つ、誰も考えない方法での仕事が出てくる事を私は知っている。この個性が見えると言う点は、日本で多様な人材の育成がある程度で来ている事を示している。従って、どれほど中国の研究システムが新しくとも、これまでの遺産である程度はやれる。しかしこれも時間の問題だろう。一番心配なのは、我が国がシステムを古いままにして当たり前の事しかやらない人ばかりになる事だ。    最後に記事について一言。私から見て、外来遺伝子を持ち込まずに安全なiPSを作ると言う競争はとっくに終わっている。今競争は、どの方法が経済的で効率が高いかを廻って行われ、安全かどうかではない。また、安全だからこそ、臨床研究が始まろうとしている。この記事で「遺伝子を使うと細胞ががん化する危険があり、より安全な細胞作りにつながると期待される。」と、相も変わらず、遺伝子を使ったかどうかを強調し、また安全性と単純につなげて記事にするのは時代錯誤と言って良い。忘れてならないのは、iPSかどうか、ESかどうかのテストは、腫瘍形成で調べる。多能性は即ちテラトーマ形性能だ。遺伝子を使う事即ち眼科という発想はもうやめていただきたい。繰り返すが、遺伝子が組み込まれない方法は国産も含め数えるほどある。   実際この仕事はマウスを用いた仕事で、サイエンスに掲載された最大の理由は基礎研究としての重要性だ。今後も日本の医学はiPSを中心に回る。とすると、記者の方も今何が中心問題かについての見識を持ってしかるべきではないかと感じた。

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