毎日新聞8月12日:ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛
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毎日新聞8月12日:ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛

2013年8月13日
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ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛・・・・新薬開発にも。 毎日新聞0812日記事。

毎日新聞は記事のペーストを許可していません。元の記事は以下のURL

を参照して下さい。

http://mainichi.jp/select/news/20130813k0000m040094000c.html

 

一つの統合された構造を作る共生の中でも、最も良く知られているのは、菌類と藻類からなる地衣類だろう。現存の真核生物もミトコンドリアを取り込んだ共生システムと呼ぶ事が出来る。このように共生は、個体性の問題や、遺伝子の水平伝播などとであう可能性が高い現象で、進化研究に欠かせない事が広く認識されている。今回の豊橋技術科学大学、中鉢さん達の仕事は、ミカンキジラミの中に存在する、2種類の細菌と宿主(ミカンキジラミ)細胞の三種類が共生するバクテリオームと呼ばれる面白い構造に着目して研究している。この構造は、宿主の細胞が特殊な構造を作って、あたかも2種類の細菌を飼育している様な構造だ。今回の仕事では、この構造の中で飼育されている(?)細菌の遺伝子配列を決めると同時に、それぞれの細菌がこの構造のどこで維持されているのかを決めている。その上で、またこの様な共生が必要とされる機能的側面と、共生する事によるゲノムサイズの縮小などの進化的な側面、このバクテリアのトキシンの自然選択における役割などについて研究している。私はこの分野の素人だが、論文としても面白く、広い視野で研究が行われていると言う印象を持った。
    
    ただはっきり言おう。記事はひどい。せっかく、共生生物のような面白い題材を記事にしようとしたのに、この論文の真価をほとんど伝えていない。もし伝えられないだけでなく、理解していないとしたらもっと問題だ。結局記事を、抗がん剤が開発できるかもしれないなどとまとめてしまうと、何のためにこの仕事を紹介する必要があったのかよくわからなくなる。創薬の現在を紹介したければ、もっと他にも仕事があるはずだ。勿論この仕事のハイライトは、新しい細菌のゲノムを決めると同時に、それの作る毒物を明らかにした事だ。しかし、トキシンはこの共生体の機能と進化を知るための一つの要素にすぎず、主要な部分ではない。にもかかわらず、「新薬開発にも?」という、みだしはひどい。また、この記事でもこの仕事を掲載した雑誌を、米専門誌に発表されたと記載している。これは毎日新聞を日本の某紙と呼ぶ様な物だ。この論文はカレントバイオロジーに掲載されている。どこに発表されたのかなどは勿論問題ではないが、記事にする限り、出所は明確にすることは当たり前の事だ。この様な仕事を報道のために取り上げたのは高く評価する。であるなら、是非本当の真価を伝える努力をしてほしい。

   ここで、本当に記者だけの問題だろうかと、はっと気がついた。もし研究者の方が記者に対してこの様な宣伝の仕方をしていたら?という疑問だ。十分あり得る事だが、だとするとあまりに悲しい。そして、もしそうだとすると、これは私たちの国の現代の科学政策を映す悲しい一面かもしれない。

 

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PatientLikeMeのポテンシャル2

2013年8月12日
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8月2日、読売新聞は国立国際医療センターの研究グループの研究について、「低血糖起こす糖尿病患者、心筋梗塞リスク高い」という見出しの記事を掲載した。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130801-OYT1T00906.htm )

例のごとく、実際の研究方法の紹介が不十分であるため、わかりにくい記事だが、紹介された結論は重要だ。低血糖発作を起こす危険の高い患者さんに対しては、血糖を正常化する事だけを目標にして治療を行うと逆効果になる事を警告する仕事だ。論文にも書かれているように、患者さんに会わせて治療する事の重要性が示されている。
  科学報道ウォッチを始めるまでこの様な臨床論文を読む事はあまりなかった。この論文を読んで最も驚いたのは、これまで発表された論文をサーチし、その分析からこの結論がえられている事だ。すなわち、この研究は、自分自身でフィールドを設定し、患者さんをリクルートして研究を行っている訳ではない。文献を検索し、報告されたデータを注意深く科学的に分析し、結論を出している。この仕事からわかる事は、世界中の病院で蓄積し続ける患者さんのデータがいかに大事であるかと言う当たり前の事だ。もちろん、各医療機関では医療に関わる専門家が、一人一人の患者さんのデータを正確に記載する。即ちこの科学性が、他の専門家にも利用可能なデータの蓄積を可能にしている。

    この記事に関して8月9日に紹介したPatientLikeMeをもう一度考えてみよう。前にも述べたが、このいわば患者さんのフェースブックサイトには、それぞれの患者さんが丁寧に記載したデータが大量に蓄積し続けている。しかし、患者さん達のほとんどは専門家ではない。これまで、患者さん自身が記載すると言うだけで、科学的に意味がない主観的データとして排除されて来た。勿論、アンケート調査と同じで、うまくサイトが設計されておれば、十分正確な情報をえる事が出来る。実際、幾つかの論文がこのサイトで公開されている患者さんが記載したデータを元に出版され始めている。例えば、Natrure Biotechnologyに2011年掲載されたPaul Wicksらの論文( Nature Biotechnology, 29巻、5号、411ページ) では、PatientLikeMeサイトのALS患者さんのが記載したデータだけを元に、炭酸リチウム治療は効果がない事を結論している。勿論、私はこの結論がすぐ鵜呑みに出来るとは思っていない。当分はこれまでの研究手法との比較が必要だろう。事実この仕事で扱われた薬剤の効果については、その後2重盲検法を使った研究が行われ、同じ結論が出ている。この様な繰り返しで、主観的データの利用の可能性を探す事が重要だ。しかしこれらの研究では、科学性に疑問があるデータとして、これまで医学が排除して来た患者さん自身の記載するデータを再評価すると言う新しい方向が示されている事だ。この方向の本当のポテンシャルは、気分や、その時々の感じと言った、いわゆる主観的な感覚(クオリアと呼んでも良い)まで対象にする新しい科学の芽がここにある点だ。特に精神的な病気、あるいは病気になる事によるそれぞれの気分などを考える科学への途方もない可能性がある。更に言えば、医学・生物学が人文科学と本当の意味で統合される可能性がある。今後も、この様な新しい動きについては折にふれ紹介していきたい。

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8月9日Patientlikemeについて

2013年8月9日
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Patientlikeme 昨日はScienceNewsLineの話をした。これは、科学者側からの情報を、社会にどう還元していくかという方向でのサイトだ。しかしこれだけで終わらないのが21世紀だ。すなわち、一般側から専門家へ(もちろん専門家だけを向いているわけではないが)の向きがネット社会によって可能になる。   全てではないが、一般の人から専門家への情報や知識の流れをcollective intelligenceと呼んでいる。この新しい動きで最も成功したのがGalaxy Zooと呼ばれるサイトだ(http://www.galaxyzoo.org)。これはハッブル望遠鏡で撮影した銀河の分類を、写真をウェッブに公開することで、一般の人に行って貰うというプロジェクトだ。実際、コンピューターでは考えられなかった情報が、一般の参加で得られたという。既に新しいプロジェクトが始まっており、以下に紹介しておこう

Stage 2: Begins Now! In this stage we will begin the ‘Data Analysis and Discussion’ portion of the project. Nobody has ever attempted an online science project quite like this before, so it is going to be an interesting few weeks! Please check out this blog post for more details about what happens next, or visit TALK and ZooTools to get involved! 第2弾が今始まった。 プロジェクトの中の、「データの分析とディスカッション」を今回のステージでは始めたい。このようなオンラインの科学プロジェクトはこれまで全くなかった。従って、これから数週間は面白くなりそうだ。次に何が起こるか、どうかこのブログポストをチェックしてください。あるいは、「話し合う」や「動物園ツール」サイトに行って、どうして参加するか調べてください。 これは全く新しい科学の試みだ。

しかし医学では、これ以上の可能性の高いサイトが既にアメリカでは進んでいる。これが今日紹介したい、Patientlikemeだ(http://www.patientslikeme.com)。   端的に言ってしまうと、これは患者さん達のフェースブックだ。といっても決して登録サイトではない。様々なレベルのコミュニケーションが常に行えるよう努力が注入されているサイトだ。実際このサイトはすでに大手の製薬会社も注目し、またアカデミアともコミュニケーションが行われている。今の段階だけではまだまだと思えるかもしれない。しかし、患者さんが自分を開示すると言うこと自体が画期的で、様々な連携を行える潜在力を秘めている。私自身は、医学や医療を大きく変えるポテンシャルがあると確信している。そして、このようなサイトが21世紀の国力に繋がると確信している。医療変革というとすぐトップダウンの発想しかない政府と、このようなサイトをもって様々な観点から考えられる政府では大きな差がつく。このような日本語のサイトが出来るよう努力するのが私たちAASJの一つの使命だと思っている。

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8月8日 ScienceNewsLineについて

2013年8月8日
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今日はあまり科学報道が活発でないので、一つ面白いサイトを紹介します。 サイエンスニュースラインScienceNewsLineと言うサイトで、日本語版もあります(http://www.sciencenewsline.jp) これはコンピューターで自動的に選んだ様々な分野のトピックスを分かりやすく解説しているサイトです。さらに、このサイトの記事の多くは様々な言語に翻訳されています。   これほどの情報を自由に閲覧させるサイトが運営されていることがアメリカの力です。このようなサイトが普通に読まれるようになると、多分日本の既存メディアの役割はほとんどなくなるでしょう。政府もビッグデータとか今いろいろ言っていますが、このサイトが行っているようなコモンズの運動、すなわち情報をいかに提供するかという視点なしに言ったところで、日本は公共情報の面でどんどん遅れていくような気がします。 最後に今日この中で私の注意を引いた記事を挙げておきます。スウェーデンとドイツのチームが行ったいわゆるコホート研究です。これはJournal of vocational behaviorという雑誌に掲載されたようです。以下に内容をcut & pasteしておきます。日本でもコホートコホートと騒がれていますが、誰でも考えるようなことを研究費のためだけに声高に叫んでいるように思えます。その意味で、40年という時間を見続けるこのような研究は本当に頭が下がります。次の機会にはもう一つ重要なサイトPatientlikemeについてお示ししたいと思います。

起業家のダークサイドな側面 メディアは起業家にまつわる疑惑、反社会的な活動などを多く報じている。これらの報道から判ることは、起業家のタイプの中には、「隠された」傾向として、反社会性があるかもしれないということとなる。これが事実だとしたら、起業家は自己的な道徳観と倫理観に依存した自己中心的な人間であるということができるのだろうか?自己の利益のために他の倫理的な、そして社会的約束事のすべてを破るような「経済的ホモサピエンス(homo oeconomicus)」は果たして存在しているのだろうか?そしてもし、こういう人種が存在しているのだとしたら、何か彼をそうさせているのだろうか?Friedrich Schiller University Jena (FSU)とUniversity of Stockholmの心理学研究チームは、起業家にみられる反社会的傾向を研究することで驚くべき結論に至った。 研究チームは、この論文「Individual Development and Adaptation」(DOI: 10.1016/j.jvb.2013.06.007)の研究を行うにあたって中規模のスウェーデンの町に住んでいた1000名の子供を対象にその発達の過程を40年間に渡って追跡調査した。「私たちは、プロフェッショナルキャリアとして起業シップを発揮した被験者がどのような発達を遂げてきたのかを分析することから始めました。私たちはどのような社会的行動が、企業シップにつながっていくのかについて知りたいと考えたのです」とUniversity of JenaのDr. Martin Obschonkaは述べる。その上で研究チームは、被験者のルールに従わない傾向、参加に対する態度などを詳細に調べた。その結果、起業家には、思春期の頃から反社会的な傾向があること、また、この傾向は成人になってからも継続していることが判った。

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8月6日朝日:記憶、脳か役割分担

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURL参照。 http://www.asahi.com/tech_science/articles/TKY201308040081.html

この分野は私も素人で、この論文の多くの細部を理解していない(多分理解できるだろうが時間がかかる)。ただ、脳の中で神経細胞のサーキットの活動を計測していること、そして特定の画像が組み合わさったとき、組み合わさったことに反応して画像を総合できる能力について調べた研究であることはわかる。これまで画像の研究が個別のニューロンの反応として記録されてきたことを考えると(例えば三角に反応するニューロンなど)、サーキットとして記録できるところまで研究が進んでいるのは驚きだ。その上で、個々の画像を表象するサーキットが形成され、それが時間をかけて異なる領域でのサーキットとして成立することで、統合イメージを作り上げるという。これこそ認知科学の核心だという結果だ。また、宮下さんも意識しているように、新しい画像処理のロジックになるかもしれない。実際、今のPCで画像同士を比べる事は出来ても、論理的に分析することが困難であることを考えると、期待できる。   さて記事であるが、朝日は記名記事と、無記名記事があるようだがその基準はどこにあるのか疑問に思う。これは無記名記事で、そのためかあまりまじめに書かれていない。多分記者が宮下さんの話に何とかついて行ってまとめたのだろう。もちろんすばらしい仕事だから報道してあげてほしいと思う。しかし、仲立ちをする以上、やはりある程度の理解が出来る事が最低限ではないだろうか。「宮下さんのグループが、猿を使って、記憶の場所を探して、幾つかに分かれていることがわかった。多分コンピューターの設計に役に立つ」以上のことが全く書かれていない記事をのせるとは、記者の見識が問われる。この話は、今日報道する必要はない。時間をかけて理解をした後報道すべきだろう。   前にも述べたが、脳研究で問われる問いは一般の人ももっともと共有できる内容が多い。一方いったん実験になると、専門家以外はほとんどわからないというレベルにまで来てしまう。このような状況を考えると、科学報道記者も合宿ぐらいして、準備をするぐらいの気構えがほしい。

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8月6日朝日(鍛冶):ES細胞から精子の元つくり改良 京大、効率化に成功

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していない。必要な方は以下のURL参照。 http://www.asahi.com/tech_science/update/0804/OSK201308040020.html

京大の斉藤さんの仕事だ。彼のことは学生時代からよく知っているが、挫折のない人だ。すくすくと育って、今や世界の生殖細胞研究をリードする研究者になった。競争に勝ち抜くためになどと各紙は書いているが、まあ当分は安泰だろう。特にES/iPSからの生殖細胞分化については、他を圧倒しているのではないだろうか。今回は、ES細胞から精子まで分化を誘導したという前の仕事の続きに見えるが、実際には生殖細胞分化に関わる遺伝子について、斉藤さんが地道な研究で明らかにしてきた結果の一種集大成だ。すなわち、ES細胞にBlimp; Prdm14, そして Tfap2cの3種類の遺伝子を導入し、好きなときに発現できるようにした。3つの遺伝子のうち2つは斉藤さん達が機能を明らかにしてきたものだ。この好きなときに発現できるようにしたのがみそで、エピブラスト時期に発現させると、後は何もしなくともプログラムが勝手に進むことを示すことが出来ている。転写因子セットで増強可能になったことで、人での研究は間違いなく加速する。特に斉藤さんはエラトーで猿の生殖細胞研究を進めているので、iPS由来の猿の個体が出来るのも近いかもしれない。     NHKも含めて各紙が報道した。だいたい同じであるが、この中では朝日の記事が図も載っており、最もわかりやすかったのでURLとして特に取り上げた。特に間違いもない。例えば効率について、10%から80%へ上昇したとした記事と20%からという記事に分かれたが、論文でははっきりしないし、どうでもいいことのように思える。この辺の数字を求めたがるのは記者の習性かもしれないと興味がある。求められれば数字を入れるのもいいが、実際には何が行われたのかをしっかり把握して貰うことが一番だろう。ES/iPSはそれだけでは利用できない。細胞の分化を誘導して、目的の細胞を得ることで初めて利用可能になる。このコントロールの方法の開発を世界中競っている。生殖細胞が対照となっているため少し違った印象を与えているが、斉藤さんは最も論理的な方法でこの細胞分化誘導方の開発を行っている。これが一番重要なことだ。この辺を協調してもらえれば100点だった。   とは言え、わかりやすい仕事で各紙で適切な記事になっていた。

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7月27日毎日(渡辺):線虫:味を記憶? 塩分と餌の有無、関連つけ 東大助教らか突き止 める

2013年8月8日
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毎日新聞は元の記事のペーストを許していない。必要な方は以下のURL参照。 http://mainichi.jp/select/news/20130727ddm012040048000c.html

私はこのグループが入っているクレストプログラムのアドバイザーをしている事をまず開示しておく。だからといって私にとって何も変わらないが。 さて、線虫を使って行動を調べる研究は、行動に関わる神経回路が単純である事から、多くのグループが研究している。東京大学のグループは、こレマで明らかになった神経回路に関する知識を利用して、行動に関わる全ニューロンを記録して、行動のシステムバイオロジーを創設しようとチャレンジしている。今回の論文もこの延長で行われており、実際論文のコレスポンデンスも飯野さんになっている。   さて、今回の論文のポイントは、ASERと呼ばれる感覚細胞と、それにつながるAIBと呼ばれる介在ニューロンのセットが、記憶した塩濃度より低い時に働いて、記憶にある塩濃度を求める行動を引き起こすと言う、記憶回路についての研究だ。   さて記事であるが、この神経セットの話を全く抜きにして書くと、行動だけが強調されその背後にある神経回路が全く無視された不思議な記事になっている。間違いではないが、論文の本当のメッセージとは言えない。まあそれでも、複雑な実験だから良いとしよう。ただ、最後の文章はいただけない。   これまて線虫は、においを頼りに餌を探していると考えられていた。国友助教は「環境中 の塩分濃度と餌の有無を関連つけて記憶しているのてはないか。ヒトを含む動物の記憶や学 習の関係解明につなかる可能性かある」と話す。   これを結論としたいのだろうか。これではあたかも新しい味に関わる神経回路を見つけた様な書き方だ。特に見出しが、線虫:味を記憶? などと書かれると、完全に読者はそう錯覚するのではないだろうか。実際、この仕事が記録した感覚神経系は、既に外国のグループにより研究が進んでいる感覚細胞であり、神経サーキットだ。これは誤解を招くとはっきり言おう。   役に立つ医学ばかり報道される世の中に、この様な基礎的仕事を紹介する態度は高く評価したい。ただ、やはり内容は耳学問だけでなく、しっかりと理解する努力を記者の人にもしてほしいと希望する。

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7月26日読売(中島):誤った記憶」作った!…利根川氏ら

2013年8月8日
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読売新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURLを参照。 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130726-OYT1T00025.htm

脳研究は21世紀の重要分野である事は間違いがない。利根川さんも免疫学から脳研究に移った後は、若い人々にやるなら脳研究だとはっぱをかけていたのを良く覚えている。脳研究は何を問題にしているのかは(例えば過誤記憶)一般の人でもよく理解できるのだが、実際の研究となると、研究手法やプロトコルが極めて複雑でわかりにくい事が多い。多分科学者として教育を受けないと何をしているのかほとんどわからないのではないだろうか。この困難を顧みず挑戦した今回の読売の記事は個人的には評価したい。これからも多くの優れた成果が期待される分野だ。ただ、記事の内容は、利根川さんと理化学研究所チーム(日本人と間違ってしまう)が、過誤記憶を光を使って呼び起こして、成功した。と言った誤解の多い記事になっている。  まず研究内容とは関係ないが、利根川さんが日本人で理研脳研究センターの所長である事は間違いがない。ただ利根川進・米マサチューセッツ工科大教授と理化学研究所のチームと書かれると、日本の研究チームかと誤解する。実際ここで言う理研チームとはアメリカチームで(利根川さんの主催する研究施設を理研は支援している)、実際に日本人は入っていない。これは一種理研と言う言葉に条件づけられた、「過誤記憶」の呼びおこしだろう。   さて研究については、極めて複雑だ。この様な内容を一般の方でもわかるようにどう表現するかは記者の腕のふるいどころだ。ただ今回も合格点とは言いがたい。とくに、「海馬に光が当たったことで安全な部屋の記憶がよみがえり」などと書かれると、脳の中で光を感じているのではと誤解しないだろうか? この場合の光は、光が当たると開くナトリウムチャンネル遺伝子を発現させた細胞を刺激するために使っている。実際には電極で刺激するのと同じだ。これは2005年ぐらいから使われ始めた、光遺伝学と呼ばれる神経のリモートコントロール法だ。勿論、図も使って説明されている結論は正しい。優れた脳研究は、誰でもがわかる質問を、専門家しかわからない方法で研究している。しかし複雑な実験手法をどう伝えるか、知識、研鑽が要求される。是非記者の方も努力してほしい。ただ言葉足らずだと必ず誤解を招く。まさに記事自体も利根川さんが研究対象の例と言える。

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日本の科学報道に一言(7月25日)

2013年8月8日
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ニュースがないようなので、日本の報道に一言。 科学報道は正確な情報を伝えるだけではない。夢を伝える事も重要だ。そんなニュースがデンマークから伝えられている。70万年前の馬の化石から遺伝子を取り出し、全ゲノムレベルの再構成に成功した話だ。勿論マンモスゲノムと比べてもずっと時間的に古い話だ。これまでだいたい5万年ぐらいの化石のゲノムしか調べられていないのと比べると、画期的なことだ。また全ゲノムに近い解読であることもすばらしい。最新の技術を使って研究が行われており、私が知る限りで、1分子シークエンサーがなかったら出来なかった仕事の代表ではないだろうか。この結果、実際蛋白質に翻訳される遺伝子だけでなく、トランスポゾンと呼ばれる一種の寄生的配列の解析についても書かれている。さらに、4万年前の馬ゲノムや、現在の野生種、家畜化した馬と比べる事で、遺伝子間の交換についても詳しい解析が示されている。大きなブレークスルーで、新しい科学が始まったことを予感させる。  残念ながら日本のメディアは私がウェッブで調べる限りまだ報道していない。一方、NY Timesはほぼ完璧と言っていい記事をウェッブに載せている。さらに、フランスの通信社AFPの日本語サイトや、もちろんSciencelineの日本語サイトにも詳しく取り上げられている。科学記者が記者会見やブリーフをうまくまとめて記事にすることしかしていないと、このような記事は書けないだろう。と言うのも、外国からの仕事の場合、記者会見に行くわけにもいかないだろうから、論文に当たり、理解し、まとめることが必要だからだ。タイムリーに記事に出来ていないのはがっかりだが、時間をかけてもいつか報道してほしいと願っている。もちろんこの問題はメディアだけではない。ドイツにはネアンデルタール人を研究するためだけの研究所があり、今回の仕事もデンマークの博物館が関わっている。日本にはこのような研究を待ち望む国民も、政府もないとすると残念だ。

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7月24日朝日(瀬川):シーラカンス遺伝子を解読 進化速度、ヒトの40分の1

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURL参照。 http://www.asahi.com/tech_science/update/0723/TKY201307220601.html

7月23日に夢のある話も報道してほしいという苦言を呈した。早速でもあるまいが、今日はシーラカンスのゲノム解析の話だ。生きた化石としてよく知られている魚で、ゲノム解析が待たれていた。報道としても論文の内容をうまくまとめており、進化の遅いこと、脊椎動物の陸上移行との関係など、よくまとまっている。ただ、報道する側として気をつけるべき重大な点があるので指摘しておく。 まず、科学研究成果について報道するとき気をつけなければならないのは、既に同じような仕事が発表されているかどうかだ。科学には競争はつきもので、科学者自身も勝った負けたの話が好きだ。シーラカンスのゲノムともなると世界中で研究は進んでいるはずだと考える感受性がほしい。実際PubMedにシーラカンスゲノムとタイプすると60以上の論文が上がってくる。   私が初めてシーラカンスの全ゲノム解析の論文を見たのは今年の4月だ。アメリカのグループが、アフリカのシーラカンス全ゲノム解析について発表したNatureの論文だ。私は日本でも既に報道していたのかと思っていた。ただ、今回の朝日の記事にはそのことが一切書かれていないところを見ると、夢についても日本からでないと書く気にならなかったのかもしれない。だからといって、日本チームの努力の意味がないと言っているのではない。このようなゲノムデータを集めて、多くの人に利用して貰うことが重要なのだ。その意味で、日本でもゲノム解析が行われていたことは大いに評価すべきだ。しかし、4月の先行論文に全く言及せず記事を書くのは問題だ。是非記事を書くときに一度PubMedに当たる慎重さがほしい。  最後に、他紙ではゲノムリサーチに掲載と明確に書かれているのに、朝日の記事は、米国専門誌となっている。引用の際、オリジナルな雑誌名を記載するという当然のことが行われていない。新聞各紙は記事の権利については大きな努力を払っている。もし私がこの報道ウォッチを日本の某新聞社として書いたら、多分抗議されることだろう。是非我が振りも直してほしい。

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