今日は私が記者の代わりをしよう。
元ネタはNatureの9月3日号に掲載された、カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校のGazzaley等の仕事だ。この号の表紙を飾った仕事で、動物実験ではなく、生の人間についての仕事だ。
ビデオゲームを通して複雑な課題の練習を課すと、高齢者の認知能力が改善するかと言う、誰もが興味を引かれるテーマについての研究だ。実験では、車のドライブゲームと、画面に現れるサインを分別するゲームを一つの画面で同時に行う課題を使ってテストが行われる。予想通り、高齢者ではこの課題を行う能力は衰えている。同じ課題を1ヶ月、時間を決めて自宅で練習してもらうと、この課題に対する能力は若い人と同じにまで回復し、この効果は6ヶ月維持されていた。一方、ドライブゲームやサインゲームを個別に練習しても全く改善は見られなかった。驚く事に、効果はゲームにとどまらない。注意力の持続や作業記憶を調べる他のテストでも、複雑な課題で練習したグループは大きな改善が見られた。しかもこの改善は、脳波レベルでも検出できる。うれしい事に、ビデオゲームを用いて複雑な課題の練習を行えば、高齢者の一般的認知能力を高める事が出来ると言う結論だ。
日本ではテレビゲームと言うだけで顔をしかめる向きも多い。しかし大事なのは、今回のように、顔をしかめて決めつける前に、良いか悪いかを科学的に調べると言う態度だ。今回の仕事を読んで、新しい課題に取り組んでいる若手が世界にいる事を実感した。コンピューターと人間の差を調べるアラン・チューリングのテストや、ジョン・サールの中国語の部屋など、一種ゲーム的設定を実際の研究に使う伝統が欧米にはある。日本では、ソニー、ニンテンドーと言ったゲーム機メーカーや、DeNAのようなソーシャルネットまで、ゲームは大きな市場に育っている。これらの効果を科学的に調べてみる事も今後重要な課題だろう。
最後に一つだけ強調しておきたい事がある。それは、今回の結果も更に長期のフォローアップを要する点だ。私たちの脳は、年老いてもフレキシブルだ。従って、半年までの結果が何年先まで維持できるのか、あるいは逆効果にならないかなど調べる事が必要だ。これまで紹介して来たような長期のコホート研究は、特に私たちの脳を知るのに必要だと実感した。