この仕事は日経と朝日で報道された。元の記事は次のURLを参照してください。
日経:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130924&n…
朝日:http://www.asahi.com/national/update/0923/TKY201309230129.html
21番染色体を余分に持つダウン症では発達障害を始め様々な症状が出てくる。さらに、ガンに関しては大変特徴的な症状を示すことが知られている。不思議なことに、多くの固形ガンの発症は、正常に比べると低い。ところが、TAMと呼ばれる一過性の血液細胞の異常増殖が見られ、その中から悪性の白血病が発症する。一過性の異常増殖では、赤血球を作るのに必須のGATA1と言う遺伝子に突然変異があることはわかっていたが、なぜ染色体異常がGATA1の変異、及び一過性の細胞増殖異常へと発展するのか?そのメカニズムは?また、一過性の異常が白血病へと進むのか?理解できていないことが多い。今回の仕事は、ガンのゲノムの最近の仕事には必ず登場すると言っていい京大の小川さんと、弘前大学の伊藤さんとの共同研究で、おそらく伊藤さんチームが診ている患者さんの白血病細胞を小川さんのチームがゲノム解析した共同研究だろう。この研究により、TAM及びダウン症に併発した白血病では必ずGATA1の突然変異があること、しかし、白血病ではそれ以外に染色体同士の接着や修復に関わるコヒーシンと呼ばれる分子複合体の成分分子を中心に、突然変異が積み重なっている事がわかった。勿論今回の研究では、なぜこれらの遺伝子異常がダウン症に併発する白血病で異常に高いのか、この異常がどう白血病を引き起こすのかなどは全くわからない。また、なぜ21番の染色体を余分に持つと、GATA1突然変異が高率に起こり、TAMが起こってくるのかもわからない。これは、ゲノム解析からわかる事の限界で、病気の本当の原因を理解するためには、マウスなどの動物モデルや、今注目の患者さんからのiPSを用いた仕事が必要だろう。
この仕事は朝日新聞でも報道された。阿部記者による記事で、「ダウン症児に多い白血病、原因遺伝子発見」というものだ。見出しはほぼ同じ、内容は日経より詳しい。しかし、ゲノム解析の限界、機能研究の必要性を考えると、ゲノム解析イコール原因遺伝子発見として済まさないで、今後はもう少し分野全体を見渡す記事を書いてほしいなと感じた。さらに、小川さんは、朝日の辻記者が以前紹介したように、ダウン症との関係がないタイプの白血病のゲノムを同じ方法で解析して論文を発表している。小川さんの仕事だけを読んでも、ダウン症の白血病はずいぶん違う印象がある。21番染色体の異常と、GATA1遺伝子の異常が引き金だという特殊性があるからだろう。本当はこの特殊性が面白い。これについてもう少し突っ込んでもいいのではと感じた。例えば、前回小児、成人両方の白血病でよく見られたSETBP1の変異についての言及があってもよかった。また、GATA1の異常は全ての血液異常増殖に見つかることは既によく知られている。今回の発見と区別することが重要だ。最後に、朝日の阿部記者はGATA1遺伝子を「血小板を作る細胞でよく働く」としているが、専門家からみると違和感がある。GATA1は何より赤血球を作るのに必須の遺伝子だ。ただ要求しすぎかもしれない。