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iPodを使うと一部の識字障害を改善できる。(オリジナル記事)

2013年9月23日
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ハーバード大学のSchnepsらが9月19日付けのプロスワン誌に発表した研究。(http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0075634)
  識字障害の子供の障害を克服する方法についての研究だ。識字障害とは、文字認識の障害で、アメリカでは1−2割の人がこの障害を持っていると言われている。識字障害を持つ著名人も多く、例えばエジソンやスピルバーグなどは有名だ。一方、欧米と比べると我が国の識字障害者の数は少なく、だいたい5%ぐらいと言われている。文字を習って言語を理解する事とその障害の不思議について学ぶには、ジョンホプキンス大学のメアリアン・ウルフの書いた「プルーストとイカ」をお勧めする。いずれにせよ、識字障害は言語によっても、文化によっても多様な現れがあり、様々な要因が絡み合った複雑な障害だ。
   今回のScnepsらの研究は、約100人の識字障害を持つ高校生に、一方はiPodを通して、もう一方には紙媒体を通して同じ文章を読ませ、理解力と、読む速度を調べている。iPodを通すと、だいたい一行に2−3単語が表示されるが、紙に印刷した方は一行の平均文字数はだいたい14単語表示されるよう調整してテストが行われている。結論的に言うと、視覚注意領域(visual attention span)テストの点数の低い生徒は、iPod を使う事で読書の際の理解力、速度が格段に上昇すると言うものだ。この視覚注意領域テストにより測定されるのは、視覚的に集中して同時処理が可能な要素(この場合文字)のことで、この異常が識字障害に関わるとしてよく研究されている。今回の仕事は、識字障害理論で言えばこの考えを支持する研究といえる。ただ重要なのは、電子媒体を使う事で、個人個人の障害に対して最も適切な文章の提示を行い、障害を克服できる可能性を示した事だ。同じ文章でも、自由な配置で提示する事ができる電子媒体の大きな可能性に気づかせてくれる研究だ。かくいう私も近頃本は電子媒体を使って読むようになったが、文字の大きさをうまく調整すると、英語の速読が容易になる事を経験している。
 いずれにせよ、電子ブックが30%に近づいているアメリカの現状を認識し、その潜在能力を調べたいと科学的な研究が行われているのに感心させられる。以前紹介した、認知能力を上昇させる電子ゲームの開発について示した仕事と同じで、アメリカの研究の懐の深さを思い知らされる。社会のトレンドに関する研究者の感受性のみならず、100人の識字障害の高校生が集められると言う事実に驚く。実際、日本の高校では識字障害を持つ生徒の事をしっかり把握できているのだろうか。もちろん今回と同じ手法が、日本語についても使えるかどうかわからない。しかし、文字の提示と言う点では、日本語はさらに面白いはずだ。大きさ、長さに加えて、日本語なら、かなと漢字、縦と横の配置すら変化させる事が可能だ。教育についての科学の入り口としては面白い分野が生まれて来た気がする。

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