元の記事は以下のURLを参照。
http://mainichi.jp/select/news/20131003k0000e040184000c.html
最近臭いやフェロモンの研究が活発だ。10月3日号のNature紙には、日本の各紙が報道したハーバード大・東大の共同研究とともに、カリフォルニア大学からのすばらしい仕事が発表されていた。まず、マウスのフェロモンについてのLiberlesさん達の研究を紹介しよう。論文から詳細はわからないが、ゲノム情報からフェロモン(ペプチド)遺伝子を見つける方法を確立しこれまで知られていなかったフェロモンを幾つか拾いだした。その中から発現に性差や年齢差が見られる物を洗い出し、今回は発現に性差はないが、成熟前にだけ発現するEsp22の機能を調べた。他にもEsp24のように雄の大人にだけ発現するフェロモンも見つけており今後の研究は面白そうだ。さて、Esp22だが、分子遺伝学、組織学、神経学を組み合わせて刺激経路が調べられた。涙腺で作られ、涙に分泌され、フェロモンが感知される鋤鼻ニューロンで感知され、辺縁系でプロセスされる。最後に、フェロモンを感知できないマウスを使って行動学的解析を行い、このフェロモンが雄のマウンティングと呼ばれる交尾行動を抑制する事を突き止めた。多分性成熟前の個体が交尾行動の対象になるのを押さえているのだろう。
記事だが、ここでは毎日新聞を取り上げた。さすがにベテランの青野さんだけあって、ほぼ全ての内容を簡潔にまとめてある。読売新聞の記事と比べるとよくわかる。ただ、ほとんど脱帽と言いたい所だが、具体的な実験に関する間違いを見つけてしまった(重箱の隅をつつく事は本意ではないが)。このフェロモンは、若年であれば雌雄両方に発現する。やはり、実験の細部についてはなかなかフォローしづらいようだ。ただ、メスに多いとする間違いは読売新聞も同じだ。多分プレス発表がわかりにくいのだろう。
さて付録だが、同じ号に、昆虫の臭いについてのすばらしい論文がでていた。”Odour receptors and neurons for DEET and new insect repellents”と言う論文でカリフォルニア大学のRayさんの研究室からの仕事だ。虫除けスプレーの成分として最もポピュラーなのがDEETと呼ばれている分子で、これに代わる分子は見つかっていなかった。Rayさん達はまずこのDEETがどの受容体を使っているのかをショウジョウバエで決めると言う生物学的な検討を行い、虫除けの検出系を構築した。次に、DEETに似た化学化合物をコンピューター上で検索し、有望な物を実際の細胞を使った検討を行って、最終的に4種類の新しい化合物にたどり着いたというものだ。重要な事は、新しく見つかった化合物はDEETと比べて毒性が少く、食品にかかっても問題なく、更にコストも高くないようだ。勿論、蚊を使った実験でも、強い虫除け効果が見られた。未だにマラリアに悩むアフリカなど熱帯地方に住む人達にとっては朗報だろう。科学がすぐに実用化される良い例だ。
毎日新聞10月3日(青野)マウス:性行動抑えるフェロモン、ネズミ対策に活用も
2013年10月4日
カテゴリ:論文ウォッチ