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10月15日 考古学におけるDNAの威力(オリジナル)

2013年10月15日
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今週号のScienceと、オンライン版のScience expressにヨーロッパの石器時代の狩猟民と農耕民との関係を調べた論文が2報出ていた。
  今週号の方は Ancient DNA Reveals Key Stages in the Formation of Central European Mitochondrial Genetic Diversity (古代DNAによって中央ヨーロッパのミトコンドリアゲノム多様性形成に関わる重要な段階が明らかになった)で, ザクセンーアンハルト州先史時代博物館が中心の論文だ。掲載を待つオンライン版は2000years of Parallel Societies in Stone Age Central Europe (2000年にわたって石器時代中央ヨーロッパでは異なる社会が併存していた)で、ドイツグーテンベルグ大学が中心の論文だ。
 先ず地方の博物館からトップジャーナルに掲載される仕事が行われているのに感心した。調べてはいないが、日本ではどうだろう。特にドイツはネアンデルタール人のための研究所があるぐらいで、人類学に力を入れている。国の歴史を知る意味で、科学的人類学は最も重要な分野だ。
  最初の論文では、ザクセンーアンハルト州で様々な時代の人骨を採取し、そのミトコンドリア遺伝子を調べ、その結果を同じ場所で発掘される陶器型のヨーロッパでの分布と比較して中央ヨーロッパの住人がどのように多様化してきたのか、またこの過程に何が重要であったかを調べている。面白いのは、最初農耕の始まりと共に、この地域からいったん狩猟民が消えることだ(6000年から4000年)。ただ、この間も東の民族との交流は盛んだったようだ。その後、北に移った狩猟民のうちの農耕民族化したグループとの交流が始まる(別に農耕化している必要はないかもしれない)。これが3000年ぐらい前までで、これにより、駆逐された狩猟民の遺伝子が中央ヨーロッパに戻ってくる。その後後期新石器時代になると、前ヨーロッパ規模の交流が始まり、更に多様化するという結果だ。この研究で文化の交流や広がりは陶器のタイプで代表させている。
  もう一方の論文は少し違った角度から石器時代を調べている。この研究では、やはり中央ドイツに位置する、ブレッターヘーレと呼ばれる、死体を放り込むために使われていた穴から得られるDNAサンプルと、石器時代の人間の食物を、炭素、窒素、硫黄の同位元素を計る事で狩猟民か農耕民かを区別して、農耕民が実際に狩猟民を駆逐したのかどうかを調べている。結論は、2000年にわたって両者が同じ場所で共存していたというものだ。仲良くかどうかはわからないが、しかし共存したという事実は重要だ。このような研究が進むと、人間の道徳や宗教といった高次感情の起源を科学的に解明できる可能性が生まれる。実際2番目の論文では、全ゲノムが可能であったサンプルも報告している。言語も含めて人間とは何かを知るための研究が進む予感がする。しかし、いずれも5000年以上前ぐらいの遺伝子を解析する新しい技術がなければかなわなかった仕事だ。今大きく発展しようとしているこの分野の日本の研究レベルはどうだろう。少し心配だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

朝日新聞10月14日 生活習慣の改善、細胞レベルで老化防止 米研究チーム

2013年10月15日
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元の記事については、http://www.asahi.com/tech_science/articles/TKY201310130097.html 参照

朝日にしては珍しい無記名の記事で、ネットワークから引っかかってきた情報を面白いと、転載したものだろう。ScienceNewsLineにも報告されていた。
  もともと、生活習慣を身体的細胞学的なデータと関連させることは困難を伴う。一つは、長期に追跡が必要なこと、また生活習慣を科学的に数値化することが珍しいからだ。今回の論文は、The Lancet Oncology (vol14, 1112)に掲載されたカリフォルニア州立大の仕事で、生活習慣と白血球のテロメアの長さとの相関を調べている。論文を読んでの感想を正直に告白すると、全くいい印象を持てなかった。5年、25人についてテロメアを経時的に調べたことは評価する。ただ、何となく始めに結論ありきの、きわもの論文という印象がある。発表された結果が間違っているわけではないと思う。先ずなぜ対象が、バイオプシーで確定診断がついているものの、がんとしてのリスクの低い前立腺ガンの患者さんである必要があったのか。特に生活習慣との関係なら、明確な病気がない対象を調べるべきではなかったか?また、生活スタイルの介入を受けたグループは、ダイエットから運動に至るまで、あまりに多くの「身体によい」と思えることを続ける事を要求されている。しかし、今回のように相関が見いだせても、ではどの要素が最も効いたのかほとんどわからず、生活スタイルという曖昧な言葉で済まさざるを得ない。最後に、テロメアの長さと、何か機能的なデータ(例えば前立腺ガンの進行)との関連があるのかが全くわからない。そもそも、この研究で見つかったテロメアが長いことが、身体にいいのか悪いのかもわからない。年と共に白血球のテロメアが短くなるというこれまでの仕事だけを根拠にしている。また、白血球と言っても様々だ。どの白血球(リンパ球?幹細胞?)かに決めないでデータをとって意味があるのか。あまりにも多くの問題がありそうだ。わざわざテロメアなど調べないで、生活習慣は寿命にいいとか、ガンの発生を抑制するのかなどをストレートに調べた仕事のほうが評価できる。
  記事については、細胞レベルで老化防止と本当に期待させていいのかについては気になったが、他は問題ない。

 

カテゴリ:論文ウォッチ
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