今年度から国内の有望な基礎研究の成果を実用化につなげるために、内閣官房を軸に、関係各府省・関係機関が連携し「創薬ネットワーク協議会」を構築し、医薬基盤研究所創薬支援戦略室がその本部機能を担っていますが、その重点領域の第2番目として「難病・希少疾病」が掲げられており、各疾病患者にとっても具体的且つ早急な進展や成果が待望されるところです。(関連して、日経バイオテク7月13日号も参照: https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120713/162149/ )
一方、政府機関の閉鎖が解けた米国食品医薬品局(FDA)は、早速稀少難病の治療に関する15の研究プロジェクトに対して総額約14億円の研究資金を提供して支援することになりました。これは、同国の希少難病薬法に基づく希少難病治療薬助成プログラムによるものですが、税務上の特典、申請費用の減額および独占販売期間の延長など企業の希少難病への創薬研究開発活動の現行支援策・インセンティブにさらに加わることになります。(PMLiVE 2013/10/22: http://www.pmlive.com/pharma_news/fda_supports_rare_disease_research_512037 ) (田中邦大)
元の記事に関しては以下のURLを参照して下さい。
http://mainichi.jp/select/news/20131023k0000m040122000c.html
マウスやラットでは、培養したケラチノサイト(皮膚や毛根を形成する上皮細胞)を、毛根の最下部(毛胞)にある毛乳頭細胞と合体させた後、マウス皮下に特殊な方法で移植すると、毛が再構成してくる事が知られている。ただ、残念ながらヒトの細胞での成功例の報告はなかった。ヒトを実験のホストとして使えないため、移植はマウスに行う必要があり、ヒトとマウスの相性が悪いのではと想像されていた。23日毎日新聞が紹介したのは、これが可能になったと言う重大な結果を発表した論文で、責任著者の所属からから見ると、コロンビア大学と英国デュルハム大学の共同研究のようで、アメリカアカデミー紀要に掲載されている。私の研究室でも、マウスの培養細胞から毛根の再構成を行う手法は普通に使っていたが、毛根の幹細胞の研究にとっては、大変重要な方法だ。しかし、なぜ同じ事がヒトでは難しいのかは謎だった。この研究の最も重要な発見は、毛乳頭細胞をこれまでの培養皿上で2次元(一層)培養する代わりに、培養液の水滴中で3次元培養すると、毛根を誘導する活性を残したまま長期に培養できると言う点だ。どうして今までこんな事が試みられなかったのか不思議なくらい簡単な事だ。この研究でも成功の分子メカニズムを説明しようとしているが、今回の結果からは、3次元培養で維持されるどの性質が、毛乳頭細胞の機能の維持に重要かは明らかに出来ていない。とは言え、ついにヒトの培養細胞からの毛根再構成が可能になった事は大きく、今後この分野の研究は加速すると予想できる。しかし残念ながら、移植治療が一般の禿げに対する治療になる可能性は少ない。というのも、ほとんどの禿げでは、毛根が消失している訳ではなく、活性化や成長異常が原因になっているからだ。従って、禿げている部分からの毛根の再生は、移植によるよりも、残っている毛根をもう一度強力に蘇らせる薬剤などの開発が必要だ。この論文の考察でも、直接Wntシグナルを活性化させ、BMPシグナルを抑制する事で、毛根を再活性化させられる事を報告したこのグループの論文が紹介されている。禿げの場所にも弱々しい毛根がある事の証拠は、禿げていても汗をかいたり皮脂が分泌されたりする事だ。一方、培養皮膚で再生した皮膚は、毛根がないため汗をかかず、また皮脂の分泌がないためカサカサに乾燥する。そのため、せっかく一命を取り留めても、皮膚移植を受けた患者さん達は苦しんでおられる。従って、皮膚の再生療法の完成は、毛根や汗腺・皮脂腺を備えた皮膚を構築して、機能的皮膚を取り戻す事だが、これについての大きな進展をもたらした研究であると評価できる。
さて、記事の方だが、見出しといい、本文といい、断片的で、誤解を招く箇所が多い。まず記事を読むと、禿の方への朗報だと言う勘違いが起こる。病気やけがで失った再生には朗報だが、禿げには有効な治療ではない事は断った方が良さそうだ。見出しも「ヒトの毛生える、マウスで実験」などと書かれると一般の人は何を想像するだろうか。更に、毛髪の元になる毛乳頭と言うのも間違いだ。毛髪はあくまでもケラチノサイトが原料で、毛乳頭は、毛根が出来る時にケラチノサイトの増殖や分化を促す組織化の司令塔の役目をしている。いくら共同から配信を受けた記事だからといって、もう少し自分で脚色して具体的なイメージがわかるように書いて欲しかった。