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読売新聞10月17日記事 4600万年前の蚊の化石に、謎の動物の血液

2013年10月17日
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元の記事は以下のURLを参照して下さい。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20131016-OYT1T00576.htm
  読売新聞には、外国特派員からの科学記事がよく掲載される。今回の記事は、アメリカの自然史博物館からのカンブリア紀化石の研究を紹介した記事だ。この研究は、モンタナ州のカンブリア紀の地層から得られた蚊の化石の中に血液があるかどうかを調べた研究で、アメリカ科学アカデミー紀要オンライン版で発表された。4600万年前の蚊の化石から赤血球の痕跡を見つける事が出来ると言う結論だ。とは言っても、血液の形が見える訳ではない。鉄などの分子を調べるエネルギー分散型X線分光計と、田中耕一さんが最初に技術の可能性を開拓した、ToF-SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析法)という質量分析法を駆使して、鉄を含むヘモグロビン由来蛋白が存在している事を示している。それが本当に血液から由来するのかを確かめるため、蚊の腹部からのサンプルと、他の場所からのサンプルを比べ、血液が吸収される腹部だけにこのシグナルが検出できる事を示している。はっきり言うとそれだけの仕事だが、進化の研究に、ゲノムだけでなく、あらゆるハイテク機器が利用されている事を知る事が出来る。記事では、ジュラシックパークの事が書いてあったが、琥珀に閉じ込められると100年経たなくともDNAが完全に分解してしまっている事は既にこのホームページで紹介した。
   同じ日に、日本経済新聞も、日中米共同で中国の雲南省出土の、カンブリア紀の節足動物の化石についての研究を紹介していた。(http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131017&ng=DGKDASDG1605E_W3A011C1CR8000 )10月17日号のNatureに掲載された論文だ。最近中国から出土する化石から、続々と新しい事がわかって来ている。どの本で読んだのか忘れたが、中国で見つかる化石は、残った骨と言うより、生きていた時そのままの形がはっきりわかる化石が多く見つかるようだ。今回の仕事も、そのような化石を、新しい技術で解析し、脳の分節化が起こっているかどうか調べた研究だ。ここで使われた新しい技術も、X線分散型分光計による分子分析と、形態を調べるX線断層写真だ。ここで明らかになった形態進化が、現在とどうつながるのかについてはまだ良くわからない。
   過去の出来事について実験をする事は不可能だ。従って、残された痕跡を如何に科学的に調べるか以外に研究の方法はない。この目的に、最新の方法を使った挑戦が進んでいる事を実感した。記者の目としても、本当はここに注目して欲しかった気がする。しかし、我が国の状況はどうなのだろう。少し心配している。

カテゴリ:論文ウォッチ

10月17日京大iPS研高橋論文:脳内への他家細胞移植(アログラフト)は免疫反応を誘導する(オリジナル)

2013年10月17日
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私は今年の3月まで、文科省の再生医療実現化ハイウェイプロジェクトのプログラムディレクターとして、幹細胞研究の中から臨床応用が可能なプロジェクトを選んで、一刻も早い実用化が可能になる様、支援して来た。今回Stem Cell ReportにCiRAの高橋さん達が発表した研究もその中で支援して来た研究だ。従って、私のコメントは、ある種の身内のコメントとして受け取ってもらっていい。高橋さん達は、自己iPSを使ってドーパミン産生細胞を誘導し、パーキンソン病を細胞移植で根治する事を目指している。ハイウェイでも、このプロジェクトの成否が、iPSの臨床応用が普及するかどうかの鍵になると位置づけていた。というのも、北欧を中心にパーキンソン病への胎児中脳細胞の移植治療が行われ、効果の見られた患者さんが報告されている。成功例の存在は、移植細胞が脳内で生存、機能することを示している。有効でなかった例も多いが、これは細胞の純度の問題とともに、一人の患者さんに何人もの胎児からの細胞が必要なため、炎症や免疫反応が避けられない事によると考えられて来た。その意味では、自己の細胞を使う事が出来るiPSは切り札になり得る。これに対し、脳の中では免疫反応は起こらないし、免疫抑制剤も使えるので、わざわざ自己の細胞は必要ないと言う研究者もいた。そんな中で、困難なサルを使った地道な研究を続けて、パーキンソン病の移植治療に予想される様々な問題を解決して来たのが高橋さん達のグループだ。
   今回の研究も極めて単純だ。サルのiPSを樹立し、それから誘導した神経細胞を、同じサル及び他のサルに移植し(自家移植と他家移植)、免疫反応が起こるかどうか見る研究だ。結果は明確で、自分の細胞を移植しても免疫反応はほとんど検出されないが、他のサルに移植すると免疫反応が起こり、その結果移植された細胞の数が減ってしまうと言う結果だ。脳内への細胞移植にも出来る限り移植抗原を適合させておいた方がいいと言う結果だ。当然、自家が一番良い。
   何か新しい事がわかった訳ではない。また、ここから新しい技術が生まれると言う訳でもない。しかし、移植を受ける患者さんの立場に立って、最適の治療戦略を確立し、患者さんの持つ懸念を解消する事は、臨床応用の最終段階で最も重要だ。この点から見ると、高橋さんは、1)自己の細胞の方が優れている事、また免疫抑制剤が必要ない事、2)自己細胞でも分化が誘導できておれば危険性のない事を、人間に近いサルのモデルで示した。一度はハイウェイに関わった人間として本当に良かったと思う。何よりも、高橋さんに期待している患者さんにとっても朗報だろう。プレス発表をしなかったのかも知れないが、是非報道して欲しい論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ
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