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オキシトシンによる自閉症児治療の可能性(アメリカアカデミー紀要掲載論文)

2013年12月3日
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11月29日ドイツボン大学の研究を少し面白おかしく紹介するため、このオキシトシンを恋人と添い遂げる媚薬と呼んだ。実はこのオキシトシンは媚薬としてより、人間の社会性を高める働きがある神経刺激ペプチドとしてもっと良く知られている。例えば仲間内での信頼性や、他人の感情を読むのがオキシトシンで高まる事が知られている。今日紹介するのは、アメリカアカデミー紀要に掲載されたエール大学の研究で、オキシトシンが自閉症の脳機能を高めるかどうか調べている。タイトルは「Oxytocin enhances brain function in children with autism(オキシトシンは自閉症時の脳機能を高める)」だ。
  これまでも、オキシトシンを自閉症患者に投与すると社会性が増す事が知られている。ただ、その結果進められた長期効果を見る臨床治験ではこれまでのところあまり期待できる結果にはなっていないようだ(これについても一度詳しく紹介する)。この状況を受けて、オキシトシンが実際に脳機能に本当に影響があるかどうかを調べたのが今回紹介する研究だ。研究では、8−16歳の自閉症患者が選ばれ、オキシトシンを鼻にスプレーした後、目を見て他人の心を知るテストを行わせ、機能的MRIで脳機能を測っている。この研究により、オキシトシン投与により幾つかの脳内部分が活性化されるが、この部分は自閉症で異常があるとされている部分と一致する事が示された。そして、目から他人の心を読むなどの社会行動課題を行わせる時オキシトシン投与を受けた患者さんでは、これら領域の一部の活動が確実に促進しているが、社会性と関係のない課題を行うときの神経活動には抑制的に働く事が明らかになった。要するに、オキシトシンは確かに自閉症児の社会的行動に連動した脳活動を特異的に促進させている。ではなぜこれほどの効果があるオキシトシン投与の臨床治験がうまく進まないのだろう?この研究では、これまでの臨床治験が社会行動に関わる課題と無関係に投与されていることが失敗の原因ではないかと想像している。きめ細かに、先ずオキシトシンを投与し、その上で自閉症に効果があるとされている社会行動に関する課題を課すという、2段階の治療を積み重ねる治験を行う事を必要であるというアドバイスを論文の結論にしている。今後、この科学的知見に基づく新しい治療が始まると期待できる。
   これまで見て来たように、自閉症は複雑で手の施しようがないと思われて来たが、脳内分子生物学的プロセスがゲノム研究をきっかけに明らかになりつつあり、早期発見が可能で、MRI検査レベルで特異的脳領域を調べる事が可能になり、薬剤と行動課題を組み合わせた治療が開発される、などの急速に研究が進んでいると言う感触を持っている。オキシトシンが媚薬だけではなく、心の特効薬になる日は十分期待できる。。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月3日朝日新聞記事:赤ちゃん、目を見て人認識

2013年12月3日
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最近希少難病ナビに自閉症についての最新の研究を紹介してきた。その中で11月7日赤ちゃんが人の顔のどこに注目するのかを調べると、自閉症の早期発見が出来ると言うNatureに掲載されたアトランタ自閉症センターの論文を紹介した。その時、日本では新生児の脳研究がどのように行われているのか少し心配になったが、今日朝日新聞は中央大学のグループがNeuropsychologia誌に発表した論文を紹介した(http://www.asahi.com/articles/TKY201312010064.html) 
 新生児の頭蓋は薄いため、酸化、非酸化ヘモグロビンの脳内分布を測る事で、機能的MRIと同じように脳内活動を調べる事が出来る。この仕事では、新生児が人の顔を認識する時、目と周りの顔との調和の重要性について調べている。これは、2009年に人の写真による顔認証について写真のポジとネガの様々な組み合わせを見たときの反応がMRIを用いて調べられ、大人では目の周りのコントラストが人の認識時の注目点になっている事がMITの研究でわかっていた。今回新生児の脳の反応を調べた研究により、新生児では顔写真の認識を主に右脳で行い、写真の目の部分がポジになっている時には反応するが、ネガに置き換えると反応しない事が明らかになっている。
   これまで自閉症の研究を紹介して来た側から見ると、この研究は紹介して来た研究と一致する点が多い。即ち、11月7日に紹介したように新生児期早くから目を注目点とした顔認識が成立している事、また11月22日に紹介したように脳の扁桃体の神経が、目ではなく口を見た時に反応するなどの結果だ。これを念頭に考えると、目を見ないで口を見る様な自閉症の子供は、今回の研究で使われた同じような課題にどのように反応するのだろうか興味が尽きない。せっかくこの様な研究を進めているグループがあるのだから、様々な施設と協力して日本でも自閉症の脳認識研究が進んでいく事を期待したい。

   記事は記名ではなかったが、内容は問題ない。ただ、結論が「赤ちゃんが普通の目の白黒のコントラストを見た時に、人と認識している可能性がある」と言う事だが、人と、他の動物や人形についての顔認識の違いを比べた仕事ではないので、少し結論が強すぎる気がした。

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