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12月19日日経新聞掲載:ロシアで出土のネアンデルタール人、両親は近縁かDNA解析結果

2013年12月20日
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このホームページで10月15日、11月14日、12月5日に紹介して来たドイツライプチッヒ、マックスプランク人類進化研究所からの仕事がまたまたNatureオンライン版に発表された。おそらく、世界中の科学研究に関わる研究所の中で最も生産性が高く、世界的にも注目を集めている研究所といえるだろう。今回は、前に紹介したデニソーバ人の発見された同じ場所の違う地層から見つかった骨から回収されたDNAの全ゲノム配列決定の論文だ。タイトルは「Complete genome sequence of a Neanderthal from the Altai Mountains (アルタイ山から見つかったネアンデルタール人の全ゲノム配列)」。日本では12月19日付けの日経新聞が報道した。
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131219&ng=DGKDZO64295120Z11C13A2CR8000
 「既にネアンデルタール人のゲノム配列は報告されているのに?」と思われるかもしれないが、これまでの論文より更に興奮度は高い。まず、上質のDNAが見つかっており、そのおかげで、普通にゲノム解析で行われる精度で全ゲノム配列が決まっている。更に興奮するのは、デニソーバ人が見つかった同じ場所の違う(古い)地層から骨が見つかり、それがネアンデルタール人だった点だ。高々数千年ぐらいしか離れていない時間帯に、全く異なる原人が同じ場所で見つかった。これからも様々な層からの骨が見つかると、当然期待出来るから、原人の像はますます生き生きとした物になること間違いない。しかし、技術の方も着実に進んでいることがこの論文からわかる。この精度で更に多くの原人のDNAが見つかって行けば、彼らがどのように暮らしていたのかがわかってくるはずだ。実際この仕事はそのことをはっきり教えてくれた。この精度のゲノム解析を基準として使えたことで、現在までに調べられた複数のネアンデルタール人、および1体の謎のデニソーバ人のゲノムを比較する際、様々な数理を安心して使えるようになる。この結果、この論文はネアンデルタール人の生活まで覗くことが出来ている。まず、ネアンデルタール人とデニソーバ人で遺伝子の交流がある。すなわち、何らかの形で交雑が行われている。また、ネアンデルタール人の遺伝子多様性から、彼らも普通の例えば類人猿のグループのように小さな集団で生活し、交雑していたことがわかる。更に驚くべきことは、これまでゲノムが調べられた原人と100万-400万年前に分離した新しい原人の存在が予想出来ることだ。勿論現代の私達日本人にとっても興味津々だ。既にわかっているように、私達はネアンデルタール人と共通する遺伝子を持っているが、これまでポリネシア人だけとされていたデニソーバ人の遺伝子もほんの少し共有しているようだ。当分外野でルーツ探しが楽しめること間違いないと、心躍る。
   さて、他誌が取り上げない中で人類起源についての興奮を日経が取り上げたことは高く評価したい。ただ、やはりこれまでの背景が示されないと多分一般の人は縄文人の骨が見つかったという報道程度にしか興奮しないだろう。だから、「近親での関係が一般的」と、現代人との違いだけが強調されている。しかし、うまく伝えればこの興奮はiPSに劣らない。いつかもう少し長い記事で、私達の同族たちを詳しく紹介してほしい物だ。

カテゴリ:論文ウォッチ
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