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開発中医薬品の進捗「2013年ヘッドライン」 (Nature Medicine 12月号)

2013年12月26日
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話題の医薬品候補化合物について、今年の開発の進捗概要を青、黄、赤の三色シグナルに分類して紹介されていますので、分かる範囲で国内や稀少難病関連の情報を補って、概略を転載いたします。

 

青信号

・免疫治療剤としての対PD-1 (Programmed Death-1)受容体抗体に関して、BMS社のnivolumab単独およびipilimumabとの併用により、進行性悪性黒色腫のフェーズI試験で著効を示し、また同効であるMerck社のlambrolizumab(MK-3475)は、FDAから画期的治療剤の指定を受けました。

・FDAは、転移性非小胞肺がんの治療剤として臨床開発中の、何れもALK蛋白に対する分子標的薬であるNovartis社のLDK378およびRoche社のalectinib(RG7853)に対して、共に画期的治療剤に指定しました。

・B.Ingelheim社のアンジオキナーゼ阻害剤「GILOTRIF」(afatinib)が、肺がん治療剤として米国および欧州の双方で承認を受けました。

・Isis製薬からライセンスを受けたGenzyme社のアンチセンス剤「KINAMRO」(mipomersen)が、家族性高コレステロール血症(FH)治療剤として米国で承認され、世界初の市販されたアンチセンスDNA医薬となりました。

・GSK社の1日1回服用のHIV治療剤「TIVICAY」(dolutegravir)がFDAの承認を受けました。本剤は、レトロウイルスDNAの宿主ゲノムに取り込みに必須の酵素integraseを標的とします。

・Bayer社の「ADEMPAS」(riociguat)が、何れも稀少難病である慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)および肺動脈性肺高血圧症(PAH)=公費負担対象の難病で、バイエル社は我が国でも承認申請済み=の治療剤としての承認について、FDAの優先審査の結果「青信号」が点りました。本剤は、可溶性guanylate cyclase (sGC)の刺激薬です。

・Novaltis社の卵巣ホルモンの一種で、ストレス緩和ホルモンとして知られるrelaxinの合成ペプチドserelaxinは、急性心不全についてフェーズIII試験中ですが、FDAから画期的治療剤の指定を受けました。

・J&J社の、ナトリウム−グルコース共輸送体タンパク(SGL-2)阻害作用を持つ「INVOKANA」(canaglifloin)は、FDAが未だに腎毒性の懸念を持ちながらも、2型糖尿病治療剤として承認しました。

・Pharmacyclics社とJ&J社は「IMBRUVICA」(ibrutinib)について 、マントル細胞リンパ腫(MCL)および慢性リンパ球性白血病(CLL)に対してのFDAから画期的治療剤の指定を受けて共同開発中ですが、11月に承認が得られました。

・Gilead社の「SOVALDI」(sofosbuvir)は、FDAでC型肝炎治療剤として優先審査中ですが、その承認への推薦がなされました。

・Roche社の、B細胞表面たんぱくCD20を標的とする「GAZYVA」(obinutuzumab)について、慢性リンパ球性白血病(CLL)の治療剤としてFDAの承認を得ました。

 

黄信号

・DPP4阻害剤: グルカゴンの分泌抑制作用を持つ、2型糖尿病治療剤としてBMS社の「ONGZYLA」(sexagliptin)とAstraZeneca社と武田薬品の「NESINA」(alogliptin)が発売されました。

・BRISDELLE(paroxetine): 最初の非ホルモン更年期障害治療剤として、FDAはNoven Therapeutics社の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である本抗うつ剤の低用量剤形を承認しました。

・DUAVEE(estrogenとbazedoxifeneの配合物):もうひとつの更年期障害治療剤としてRoche社の一過性熱治療薬の本剤が、FDAにより承認されました。

Suvorexant: Merck社が不眠症治療剤として申請した、二重オレキシン受容体拮抗剤の本剤について、安全性に疑問ありと拒絶されました。本剤の低用量製剤については審査継続中で、覚醒神経伝達物質orexinを標的とする最初の承認取得治療剤になるのでしょうか。

Ramucirumab: Lilly社による、転移性乳がんの腫瘍進行阻止と延命効果の試験は失敗しましたが、FDAは胃がんの化学療法剤として本剤を優先審査に付しました。

Alirocumab: Sanofi社は、PSCK9酵素を標的とする本剤の、高コレステロール症に関するフェーズ3試験で良好な結果を得たと発表しましたが、副作用も多発しました。Pfizer社とAmgen社もそれぞれ同効薬を開発中です。

Vercirnon: クローン病の治療薬としてフェーズIII試験中であるGSK社は、結果が思わしくないとして、全ての権利をChemoCentryx社に返却すると発表しました。同社は、化学シグナル受容体たんぱくCR9を阻害することにより腸の炎症細胞を消す本剤の、改めての開発計画を発表しました。

 

赤信号

Dexpramipexole:Biogen Idec社が、FDAと欧州EMAの稀少難病の指定を受け、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療剤として規模拡大フェーズIIIの試験を行っていましたが、関節機能と生存の改善効果が得られず、開発を中止しました。

・TREDAPTIVE(laropiprantとニコチン酸の合剤): Merck社は、善玉コレステロール産生作用を持つニコチン酸(niacin)とその顔紅潮の副作用を抑えるlaropiprantとの合剤の、心血管系に高いリスクを持つ大規模な患者を対象とした投与試験で、症状の改善効果が得られなかったとして開発もしくは販売(欧州)を中止しました。

Preladent: Ligand社からアデノシンA2A受容体拮抗作用を持つ本剤を導入したMerck社は、フェーズIII試験でプラシーボ群に対する優位な治療効果の立証に失敗して開発を中止しました。

LY2886721: Lilly社は、神経変性症で脳内に蓄積する蛋白質の産生に関わるβ−セクレターゼの阻害剤で、フェーズIIにあった本剤のアルツハイマー病治療薬としての開発を、肝毒性のために中止しました。

Drisapersen: GSK社とProsensa社は、dystropin蛋白に変異を持つ、稀少難病デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてフェーズIII段階にあったエクソン・スキップ作用の本剤の開発を、筋肉の消耗を低下できなかったとして、開発を中止しました。本剤は変異したdystropinのexon51遺伝子をカモフラージュして、本来の蛋白質を生産させます。別途、Serepta Therapeutics社では同様な作用を持つeteplirsenをDMD治療薬として開発中です。

Gammagard: Baxter社では、本剤によるアルツハイマー病のフェーズIII試験において、免疫グロブリン療法による認識低下の減弱もしくは阻止ができませんでした。しかし、別の小規模試験においては、記憶消失を防止できました。同社は、現在被験者における別の側面からの有効性の試験を行っています。

R343: Rigel製薬は、脾臓のチロシンキナーゼの阻害によって息切れを抑える本剤の、喘息患者でのフェーズII試験において、シャックリ発作が生じ、開発を止めたと報じました。

MEGA-A3 vaccine: GSK社は、メラノーマ関連抗原を標的とする癌ワクチンである本剤が、皮膚がんの進行を抑制できなかったと公表しました。Agenus社が、腫瘍の免疫細胞を変化させるようにデザインしたもので、GSK社は、特定の遺伝子プロファイルの患者に対しての肺がんのフェーズIII試験を継続しています。                                                                   (田中邦大)

細胞の中の遺伝子を生きたまま見る(12月19日号Cell誌掲載論文)

2013年12月26日
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山中iPS論文に少し遅れた2007年、CRISPRと呼ばれる、生きた細胞の遺伝子を高効率に編集するテクノロジーが報告され、今や大フィーバーになっている。サイエンス誌でも今年の十大ニュースのトップにあげており日本語版では、「大衆のための遺伝子マイクロサージェリー」と紹介されている。この技術のお陰で、どんな細胞でも遺伝子のノックアウトや入れ替えが簡単に出来るようになった。勿論山中iPS等にも利用され、遺伝子を元に戻して患者さんに移植する可能性についての論文が既に発表されている。しかしこの方法は遺伝子改変にとどまらない。詳しくは述べないが、この方法を基礎に細胞の遺伝子発現調節を中心に多くの更なるテクノロジーが生まれることが期待されている。今日紹介する論文は12月19日号のCell誌に掲載されたカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究で「Dynamic imaging of genomic loci in living human cells by an optimized CRISPR/Cas system (CRISPR/Casテクノロジーを至適化して生きたヒト細胞で遺伝子座のダイナミックな動きを観察する)」がタイトルだ。CRISPRの原理をここで詳しく述べることはしないが、操作したいホストゲノム部分に相補的に結合するガイドRNAに結合するCASという蛋白によって遺伝子を切断することが基礎になっている。このことはCAS蛋白が標的遺伝子部分に結合したガイドRNAに結合することを意味するので、このCASを使えば生きた細胞の標的遺伝子部分を標識できることになる。ただ、CAS蛋白はホスト遺伝子に切れ目を入れる機能があるので、この研究ではこの活性をつぶしたCAS蛋白に蛍光蛋白が連結したキメラ遺伝子を作り、CASが結合する遺伝子座、すなわちガイドRNAが結合している部分が光って見えるようにした。一般の人にはなかなか理解してもらえないだろうが、生きた細胞の核の中のどこに調べたい遺伝子が位置しているのかがついに見えるようになったかと思うと、急速に科学が進んでいることを感じて興奮する。しかし、このCAS分子自体は日本で発見されたことを知ると、これを今あるようなテクノロジーにして行くために必要な科学者間のコミュニケーションに日本は難点があることも理解出来る。いずれにしても、次にどんなテクノロジーがCRISPRから生まれるか、当分目が話せない。

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