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稀少難病ニーマン・ピックC型病に治療効果が期待されるボリノスタットについて

2013年12月11日
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ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害作用を有するボリノスタットは、第1回未承認薬等検討会議に開発要望書が提出されたことを端緒に早期審査を経て、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)治療剤「ゾリンザ・カプセル」として、2011年7月からMSD社および大鵬薬品から販売されています。

米国Notre Dame大から、ニーマン・ピックC型病(NPC)患者の95%は、複数回膜貫通型膜タンパク質NPC1の遺伝子に変異が見られるが、HDAC阻害剤であるボリノスタットが、NPC1タンパク質を増やし、NPC患者由来の繊維芽細胞のコレステロール蓄積を減らした、と報告されました。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24048860 )

米国ではNPC患者を対象にしたボリノスタットの臨床研究が進んでいますので、本疾患の原因治療法としてのその結果に注目して、わが国でも適応外薬としてボリノスタットがNPC治療剤として早期に追加承認されることを期待しています。                  (田中邦大)

12月11日:飢餓とエピジェネティックス(11月4日号アメリカアカデミー紀要)

2013年12月11日
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12月2日獲得形質の遺伝の話としてエピジェネティックスについて書いたが大好評のようだった。この時、遺伝子の配列はそのままで、長期間遺伝子の発現を調節するスウィッチに影響を与えるエピジェネティックスと呼ばれる現象を、妊娠中の母体の経験の影響が生涯続くエピジェネティックな変化を子供に誘導する現象を例に短く触れた。この現象を理解させてくれる最も有名な研究が、ドイツ軍占領下に飢餓を経験した母体から生まれた子供を長期間追跡したコホート研究で、「オランダ飢餓経験者のコホート研究」として専門家にはよく知られている。1944-1945の冬の話で、飢餓をなんとかしのいで生まれることが出来た対象者は既に70歳に近づいている。飢餓当時の母親の状態など詳しい聞き取り調査の上で、これまでも定期的に様々な角度から調査が行われ重要な結果がその度に得られている。中でも、50−60歳になった頃の研究で、飢餓を経験したお母さんから生まれたグループでインシュリン分泌能が低下していた事についての報告は反響が大きかった。今日紹介するのは同じ対象者で本当に遺伝子上のエピジェネティックスの変化が見られるのか(DNAのメチル化を調べている)を調べたオランダの研究で、「Persistent epigenetic differences associated with prenatal exposure to famine in humans (出生前の飢餓にさらされたヒトで見られる持続するエピジェネティックな変化)」がタイトルだ。対象者から血液を採取、その全血から得られるDNA上にあるIGF2遺伝子のDNAメチル化を調べている。この遺伝子は、母方から来た染色体上ではインプリントと言って発現抑制がかかっている。このインプリンティングはIGF2遺伝子DNAがメチル化されることによるエピジェネティックな変化であるわかっている。このメチル化の度合いが、母体内で妊娠初期に飢餓を経験したグループではっきりと低下していると言うのがこの研究の結果だ。結論をわかりやすくまとめると、発生途中の一回の飢餓経験が、生涯続く遺伝子の発現調節の変化を誘導できる事を示した研究だ。今の日本には飢餓など無縁だと考えられる向きも多いだろう。しかし妊娠中にもスタイルを保とうと過度のダイエットをしたりすると同じ結果を来す恐れがある事は知っておいて欲しい。
   オランダ飢餓コホートは、不幸な経験はほとんど繰り返す事の出来ないチャンスでもあり、科学的に調査する事が重要である事を示している。戦争による飢餓もそうだが、我が国では被爆と言う不幸な経験をコホート研究を通して新しい世代に伝える事業が行われて来た。また広島、長崎で研究している友人から、被爆者の高齢化とともに新しい問題が見つかる事も聞いている。同じように、私たちは福島と言う不幸な経験に出会った。この経験を不幸で終わらせず、本当に長期的視野で次世代に伝えられる科学的調査として残していって欲しいと思う。コホート研究とは本来、自分は現役で結果を見られない事を覚悟した研究者が始め、新しい世代へと受け継ぐものだろう。

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