NY Timesを始め欧米のメディアが大騒ぎしている論文を紹介する。このホームページでも、11月14日に紹介したが、ドイツライプチッヒにあるマックスプランク人類進化研究所は今世界の目を引きつけている。これまで、ネアンデルタール人、及びシベリアで発見されたデニソーバ人の全ゲノムを解明し、私たちの起源の理解について極めて大きな貢献をしてきた。もし皆さんが遺伝子検査を依頼して、ネアンデルタール度2%などと返事を貰ったら、これは全てこのライプチッヒの研究所の成果に基づく計算と言っていい。そしてついに、私たちを含む4種類の新しい人類(デニソーバ、ネアンデルタール、フロレンシス、そしてホモサピエンス)の先祖と考えられるハイデルベルグ原人の遺伝子解明に成功した言う仕事だ。Natureオンライン版に掲載され、「A mitochondrial genome sequence of a hominin from sima de los Huesos (Sima de los Huesosで見つかった原人のミトコンドリアゲノム配列)」と言うタイトルがついている。このタイトルにある、Sima de los Huesosは多くのネアンデルタールを含む原人の骨が見つかって現在も発掘が続くスペインにある有名な場所で、特に温度が保たれ、化石にDNAが保存されている期待の大きな場所だ。またいつか詳しくニコ動で紹介したいと思うが、化石DNAの配列を決めるためには、やはりこの研究所で開発されてきた多くの方法やノウハウが必要で、その全てを駆使して今回の解析が行われた。結果はわかりやすい。先ず、今回選ばれた化石はハイデルベルグ原人とネアンデルタールの両方の特徴を持っており、分類がしにくい化石だが、ミトコンドリアDNAの配列を決める事が出来、遺伝子配列からもこの化石が40万年前の原人の物であることが明らかになった。40万年前にゲノムでさかのぼれるのも驚くべき事だ。しかしもっと驚くのは、この化石のミトコンドリアゲノム配列が、ネアンデルタールよりデニソーバに似ていたことだ。この研究を行ったMeyerさんもNY Timesのインタビューに対し、最初は初期ネアンデルタールの遺伝子を調べようと思っていたと答えている。(http://www.nytimes.com/2013/12/05/science/at-400000-years-oldest-human-dna-yet-found-raises-new-mysteries.html?hpw&rref=science ) 実際化石には、ネアンデルタールと言える特徴もある。しかし期待に反して、現在のところシベリアでしか見つかっておらず、東アジアに限局していたと考えられているデニソーバ人に近かった。と言うことから、この化石はネアンデルタールやデニソーバではなく、両方の祖先と言うことになる。考古学の常で、何かが明らかになると、更に大きな謎が残る。ハイデルベルグ原人から新しい人類への分離はアフリカで起こったとされているが本当だろうか?ネアンデルタールとデニソーバは同じ領域や時間を共有していたことはあるのか?そもそもデニソーバとはどんな人類か?これまでのシナリオが大きく書き換えられる可能性もある。当分はライプチッヒから目が離せない。
ハイデルベルグ原人のミトコンドリアゲノム解明(Natureオンライン版掲載:12月4日NY Times他多くの欧米メディアが掲載))
2013年12月5日
カテゴリ:論文ウォッチ